148.己という型
凍夜の秘密の場所にて。
愛情がほしいのか。
凍夜からそう問われた栞太は、考える間もなく想いを口に出していた。
仙界に来てから、自分らしくない言動ばかり取っていると思っていた。
異世界だからだろうか。
この仙界だからだろうか。
大仙人が居るからだろうか。
己の世界よりも、ずっとずっと、自由だと思えた。
いつもは強張っている心身が、解されていくような、いっそ、解され過ぎて、ぐにゃぐにゃになっているような気がした。
己という型が保てない。
保てない事が、心地よい。
ここにずっと浸っていたらきっと、希望とか、夢とか、愛とか、あちらでは信じられない、感じられない想いや感情を得る事ができるのだろう、得ては己に落とし込む事はできるだろう。
けれど、だからと言って、ここにずっと居たいとは思わない。
己の世界はここではない。
必ず、大仙人の任務を果たして、帰るのだ。
(だって、どうしたって、俺は)
己の世界に帰らなければならない。
愛情が注がれていないなんて思わない。
自分が悪いだけだ。
愛情を感じられない自分が。
年を取って、色々な経験を重ねればきっと、感じられるようになる。
己の世界は絶望だけに染まっているわけではない。
この世界よりも不自由で窮屈かもしれなくても帰る。
帰るのだ。
この気持ちに嘘偽りはない。
なのに、
ここで得られたって、どうしたって、虚無感に襲われるのだろうに。
(いや、違う。もう、得ている。なのに、)
もう、守られている。
子どもでいていいと、包まれて、守られている。
のに、
(言葉にしたら、)
「愛情が、ほしい、です」
(2024.4.27)