147.お姫様抱っこ
凍夜の秘密の場所にて。
ふわりぷかりちゃぷん、ふわりぷかりちゃぷん。
川底が深く流れが静かな瀞のような、桃の甘い芳香が漂う、温度が少しぬるめの温泉で、凍夜と栞太は手を繋いだまま、仰向けになって、静かな水の流れに身を委ねて漂い、栞太が度々、ゆっくりと静かに沈みそうになるので、凍夜がゆっくりと水面へと引き上げて、水面に浮かせて、共に漂う行動を無言で繰り返す中、栞太がやおら口を開いた。
「いつまでここで漂っているんですか?」
「君が君の呪いを解いてくださいって頼むまで?」
「………凍夜殿は俺の呪いが解けたら、嬉しいですか?」
「そうだね」
「凍夜殿自身の呪いが解けるよりも、嬉しいですか?」
「それは、わからない」
「凍夜殿は呪いが解けなくてもいいんですか?」
「解けた方がいいか、解けない方がいいかって、尋ねられたら、そりゃあもちろん、解けた方がいいって答えるけど。是が非でも解きたいって、強い気持ちはない、かなあ」
「そのポメガバースの呪いが、九尾の妖狐殿の凍夜殿に対する愛情の印だからですか?」
「………はい?」
全く予想だにしていなかった栞太の指摘に、凍夜は首を傾げる事しかできなかった。
「歪んでいても、九尾の妖狐殿からの愛情は愛情と、凍夜殿は、受け止めている。だから、呪いを解こうとしない。違いますか?」
「違うと思う。うん。思うじゃない。違う。呪いを解く方法を探したり、実践したりするのが面倒だったから、放置してただけ。放置してもいい呪いだったから、放っておいただけ」
栞太の指摘を、少しだけ、ほんの少しだけ真剣に考えてみた凍夜は、すぐさま答えを導き出しては滞りなく、言葉に出して答えた。
(まあ、九尾の妖狐の歪んだ愛情だっていうのは、まさにその通りだし、受け止めている、と、言われれば、受け止めている、に、なるの、か、な。うん。でも、九尾の妖狐の愛情だから呪いを解きたくないっていうのは、うん。全然。これっぽっちもない。ただ、放っておいてもいい呪いだったし、呪いを解く為の諸々の準備が面倒だったから放置してただけ。うん)
ポメガバースの呪いをかけられてからこっち、また面倒な事をしでかしてくれたな、面倒だから放置しようと流していた凍夜は、そういえば初めて、積極的に呪いを解かない理由を考えたなあと、思った。
けれど。
真剣に考えた結果、別段、何か変化が生じたかといえば、そうでもない。
いい面でも、悪い面でも、だ。
やはり、面倒だったから放置。
これに尽きるのだ。
(ああ、でも。なるほど)
凍夜は水面に横にして浮かせていた身体を縦にしては、温泉に少しだけ浸かるように胡坐をかいてのち、温泉に沈んでいく栞太を引き上げては己に引き寄せて、栞太の上半身は温泉に浸からないようにお姫様抱っこしてのち、栞太に尋ねた。
愛情がほしいのか。
(2024.4.26)