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143.ぷかりぷかり
凍夜の秘密の場所にて。
凍夜は思った。
そういえば、ポメラニアンになっていた時にここに来るのは初めてだが、それはそうか、意識が明確でないとここには来られない。
そういえば、ポメラニアンになっていた時に、あんなに意識が明確だったのも初めてだ。
そういえば、いつの間にか仙人に戻っていた、のは、この秘密の場所に来られて、この空間に癒されたからであって、栞太の抱擁に癒されたからではない。
(さて、と)
ぷかりぷかり。
桃の甘い芳香が漂う、温度が少しぬるめの温泉で、ポメラニアンの姿で仰向けになって浮かんでいたら、いつの間にか仙人に戻っていた凍夜は立ち上がり、ちゃぷんちゃぷんと、小さく静かな波を立てながら温泉を歩き続けて、そして、栞太の前で立ち止まると、万葉桃を構えては、栞太に向かって一気に振り下ろしたのであった。
(2024.4.23)