14.尻尾苔
てんてんとててん。
笑みを浮かべるだけで微動だにしない栞太に興味を失ったのか。
虎はどこからか転がって来た、ふわふわしている黄緑色の尻尾苔の球体へと向かい、片手で転がしては、片手で受け止めて、受け止めた片手で転がしては、片手で受け止めてを繰り返していた。
てんてんとててん。
ちらっちらっ。
時折、尻尾苔の球体と遊ぶ動きを止めては、虎は栞太を見ては、また遊びを再開させていた。
これはもしや一緒に遊んでほしいという目配せではないか。
虎の視線の意味を考えた栞太は、しかしながら、痺れて微動だにできない身体ではどうしようもないと歯がゆい思いを抱きつつ、視界に入ってくる宝貝、仙羽衣を動かす事ができたら、この身が動かせずとも一緒に遊ぶ事ができるのにと思った。
(修行次第で俺の意思で動かせるようになるって言ってたし。できない事は、ないよな!)
やる気が継続中の栞太は、宝貝、仙羽衣に視線を留めて、心中で語りかけた。
(お願いだ。宝貝、仙羽衣。大仙人様。俺に、力を貸してくれ。あの虎と一緒に遊びたいんだ!)
一緒に遊びたい欲が抑えきれなかったのか。
虎は栞太の身体に直接、尻尾苔の球体をぶつけ始めた。
とっても優しく、遠慮がちに、ぶつけてごめんなさいと謝るように首を傾げて、上目遣いで。
きゅぅうううううん。
栞太の胸は大きく多いに高鳴り、鷲掴みにされた。
あまりの可愛い仕草に、行動に、過呼吸を起こしそうだ。
栞太は危機感を抱いた。
(2024.3.12)