141.最大級
遊んでいるのか。
呪いを解こうとしているのか。
大跳躍しては、万葉桃を己に向かって振り下ろすも、宝貝、仙羽衣に受け止められては弾き返されている凍夜を前に、栞太はどちらか判別はつかなかったが、ポメラニアンになっている今の凍夜であるならばきっと、前者であると考えて見守っていた、もとい、すごいなあと見ている中で、はたと気づいたのだ。
癒す必要があるポメラニアンの凍夜に、果たしてこのまま激しい動きをさせ続けていいのだろうか。
だが果たして、癒し、とは、何なのだろうか。
休息だけが果たして癒しなのだろうか。
こうして激しく遊び続ける事も、生物によっては癒しになるのではないのだろうか。
それを、中断させていいものなのだろうか。
そもそも中断させられるのか、この目にも止まらぬ速さの剣裁きを。
できる気がしない。
しようと思わない。
仙界に来る前までの己ならばそう判断したであろう。
しかし、今の己ならば可能である。
そして、そうだ、中断させるのだ。
遊びにも休息は必要である。
しかし、相手は言葉も通じぬポメラニアン。
遊びを止めましょうねと言ったところで、動きを停止させるか。
否。停止するわけがない。
つまり、あの目にも止まらぬ速さの剣裁きを止めねばならぬのだ。
柄だ。柄を掴んで動きを止めるのである。
できるできるぞ今の己ならば。
ふは、ふはははははは。
凍夜の超高速剣裁きに興奮して、いつにもましてやる気が満ち満ちていた栞太は武将笑いをしながら、凍夜の目にも止まらぬ万葉桃の剣裁きを見事、柄を掴んで止めてみせては、目を爛々に輝かせて、頬を紅潮させて、鼻の穴を大きくさせるという得意満面になって、やおら万葉桃ごと、凍夜を引き寄せて、抱きしめて、ぽんぽんと背中を優しく叩いた。
お疲れになったでしょうおやすみなさい。
そう労わりながら、ぽんぽんぽんぽん、背中を優しく叩き続けて。
「ここはどこでしょうか?」
凍夜をやわく抱きしめて、労わりながら、ぽんぽんぽんぽん、背中を優しく叩き続けていた栞太は思った。
仙界に来てからこちとら、疑問に思う事は多々あれど、今抱くのが最大級の疑問であり、最大級の摩訶不思議空間に迷い込んでしまった。と。
(2024.4.22)