138.得意満面
人間界の竹林。
心槍の妖具、青丹の中にて。
(あ~あ。偶然柄を掴めたんだろうに、すんごい得意満面になっちゃって)
目を爛々に輝かせて、頬を紅潮させて、鼻の穴を大きくさせている栞太を前にした凍夜は、思って、考えた。
万葉桃の柄を掴んでいる栞太の片手を、足で蹴り上げては、柄から手を離させてのち、もう一度、否、何回でも栞太に万葉桃を振り下ろし続ける。のは、果たして、得策か。
(初めて、って言ってもいいよね。この子を守る宝貝、仙羽衣がこんなに活躍しているの。もっと前、この子が危険な目に遭おうとした時に活躍してくれたらよくて。この子のポメガバースの呪いを解こうとしてる今は活躍、っていうか、邪魔をしないでほしいんだけど。このポメラニアンのままだったら、ずっと邪魔され続けるだけ、だろうなあ。この子に振り下ろせない………とりあえず万葉桃を隠して、仙人に戻ったら、振り下ろそう)
よしそうしよう。
凍夜はそう結論付けては、まずは栞太の手を万葉桃の柄から離させるべく、蹴り上げようとするより前。
両の手で万葉桃の柄を挟んでいた凍夜は、同じく万葉桃の柄を掴んでいる栞太に引き寄せられたかと思えば、やわく抱きしめられたのであった。
(2024.4.21)