136.蒸発
人間界の竹林。
心槍の妖具、青丹の中にて。
栞太がポメラニアン化した凍夜に、しっぽで首を優しくそっと触れ続けられては、零れ落ちそうになる涙を堪える中、ふと、栞太の視界に入って来たのは、宙に浮く柄も刀身も桃色の刀だった。
ご丁寧に、刀身には万葉桃との名前が彫られていた。
これだ。
瞬時に、零れ落ちそうだった涙は蒸発。
栞太は腹筋で勢いよく上半身を起こしては、その力を利用して流れるように立ち上がると、宙に浮いている万葉桃を掴み、即座に腰を下ろすと、ポメラニアン化している凍夜になるべく目線を近づけて、嬉々として言った。
これは凍夜殿のポメガバースの呪いを解く事ができる万葉桃です、これを使って、今から呪いを解きますね。
そう、栞太は嬉々として言ったのだ、確かに。
そして、言い終えると、少し間を置いて、万葉桃を振りかざしてのち、凍夜に当てないようにしながらも、やおら振り下ろそうとしたのだ。
が。
「あれ?」
確かに柄を掴んでいたはずの万葉桃がないと気づいた栞太に向かって、凍夜は真上に飛び上がっては、両の手で挟んだ万葉桃を振り下ろしたのであった。
(2024.4.20)