133.くすぐったい
淡雪筍を掘り出せた暁には、万葉桃をそなたに授けよう。
ニパリ。
圧のある微笑から一変して無邪気な笑みを浮かべたかと思えば、栞太の目の前から九尾の妖狐は瞬く間に姿を消した。
同時に、栞太はいつの間にか、人間界の竹林で、淡雪筍を探している凍夜と琅青の前に瞬間移動させられていたのであった。
人間界の竹林。
心槍の妖具、青丹の中にて。
ポメラニアン化はしなかったものの、修行に加えて、淡雪筍の素手掘りで疲労が積み重なって眠りに就いていた栞太は、不意に目をかっぴらくと、頭だけを動かして胸に乗っているはずの凍夜を見たが、凍夜は胸に乗ってはおらず、顔の近くで立っていた。
ポメラニアンの姿のまま。
心臓の音では癒せなかったのだ。
少し、ほんの少しだけ、落ち込んだ栞太はしかし、淡雪筍を掘り出せたのだから、凍夜のポメガバースの呪いを解く万葉桃を九尾の妖狐が授けてくれるので、万葉桃を使いこなして、凍夜の呪いを解けば、任務達成であると、思い直した。
(うん。これで、大仙人様に喜んでもらえるし。凍夜殿、は、喜ぶ、よな?だって、呪いは解けた方がいいし。あとは、俺の、呪いを解く方法を。ん?俺の呪いも万葉桃で解けるのか?でも、九尾の妖狐殿は凍夜殿の呪いを解くとは言ったけど、俺の呪いを解くとは言ってないし。でも、言い忘れただけかもしれないし。凍夜殿に試してもらえばいいか。それで呪いが解けたら。俺は、元の世界に、帰る、ん?)
ふさふさふわふわ。
栞太の首に凍夜がしっぽでそっと触れていた。
くすぐったい、と思うと同時に、あたたかいと思った栞太は不意に、喉と目頭が熱くなったかと思えば、涙がこみ上げそうになって、慌てて抑え込んだ。
意味が不明だった。
何故こんなに、喉と目頭が熱いのか、涙が込み上げてくるのか。
本当に、意味がわからなかった。
(2024.4.17)