129.後継者
凍夜の出自は不明である。
九尾の妖狐の実の子であるとも、九尾の妖狐に縁もゆかりもない子であるとも囁かれているが、妖怪界の者も、仙界の者も、人間界の者も、誰も、一度たりとも問うた事は、なかった。
個々の胸の内にだけ抱き続ける疑問。
何故、吐露しないのか。
各々が己に問うてみては、必要ないからだと、己で答える。
ただ、常の如く、長期間、どこぞへと遊び歩いていた九尾の妖狐が、妖怪界に帰って来た時。赤子同然の男の子をその両の腕に抱いては、この子が後継者だと。
ただそれだけを九尾の妖狐が言った。
その言葉だけを、その事実だけを飲み込めばいいのだと、そう、諭されている。
そう。己自身がその答えを導き出しているようで、違うのだ。
九尾の妖狐の圧倒的な力に、怯え、酔いしれ、屈服し、屈従し、恭順し、敬服するがゆえに。
疑問は抱きこそすれ、その疑問を表に出す事はせず、身の内に留め、いつしか、消え去って、そして、凍夜を後継者として承服するのである。
ただし、ごく一部の者。
そう。妖怪界、仙界、人間界の関係なく。
己こそが、九尾の妖狐の後継者だと自負している生物にとってみれば。
素性も知れない事も相まって(素性など関係ないと鼻息を荒くする者も居るが)、凍夜は邪魔だと、考え、懲らしめては、後継者を退かせようと物騒野蛮な考えを抱きも、するのだ。
(2024.4.16)