127.さびしい
人間界の竹林。
心槍の妖具、青丹の中にて。
栞太の胸にしっぽを乗せて傍らで眠りに就いていた凍夜は、ふと、目が覚めた。
ぽやぽやする目覚めではない。
しゃきっとする目覚めであった。
凍夜は寝そべったまま、顔だけ動かして周囲を見た。
まだ、青丹の中のようだ。
どれほど時間が経過したのか。
凍夜は浮かしていた顎を、ふよふよの地面に置いた。
無理に出ようと思えば出られる。
ただしポメラニアン化していなければ、の話ではある。
(この子もまだ眠っているし。まあ、ずっとこのままこの中に閉じ込められたままってわけでもないだろうし………ちゃんと、人間のこの子が取り込まれているって、覚えてるよね?人間の寿命は短いって、ちゃんと覚えているよね。琅青)
どうだろう。
凍夜は不安に駆られた。
一緒に素手で淡雪筍を掘っていた人間の子である栞太を、琅青はきちんと認識していた。
だがしかし、覚えているかどうかは別の話である。
(………怒り狂っていたから記憶の外に飛んじゃってる可能性があるし。めちゃくちゃあるし………命の危機はないだろうけど。できるだけ、この子を早く出してあげたいし。出したい)
気のせいかもしれない。
気のせいであってほしいが。
(さびしいと呟いたこの子を早く、)
本当に?
(2024.4.15)