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124.へいお待ち
人間界の竹林。
心槍の妖具、青丹の中にて。
「この浮気者!俺だけじゃないなんて!」
「………」
「あー、うん。なんかごめん」
「………」
「そう遠くない栞太とそちのやり取りじゃ。どうだ。似ておろう」
「………」
「ふふふふふふ。あまりに似すぎていて言葉を失わせてしまったようだのう」
「………」
「あっ。すまぬのう。本物の栞太に言われたかったのにのう。その大切な初めてを奪ってしまったのう。なに、案ずるな。本物の栞太は妾の演技を超えてくるに違いないからのう。ふふふふふふふ。なにせ、妾と大仙人が選んだ人間の子ゆえ。妾の想像を遥かに超えるに違いない。ふふふのふのふふふのふ。楽しみじゃ。心が躍るのう。のう?」
「………」
「ふふ。そろそろ妾はお暇しよう。暫しの間、邪魔者が一切現れぬゆえ、栞太と二人きり、いや、一人と一匹の甘い時間を楽しむがよい」
「………」
「よいよい。礼の言葉は不要じゃ。いやいや。どうしてもと言うのならば受け取るのも吝かではないがのう。今回は。はは。辞退しておこう。では、また会おう」
「………」
………。
(2024.4.14)