122.見栄
(けひっ。臓腑が飛び散るっ。骨を、肉を、皮膚を蹴破って、臓腑が飛び散るっ)
人間界の竹林にて。
槍を持って逃げる八雲に背負われている來凱は、身体が持たない意識を手放したいと心底思った。
ぴょんぴょんぴょんぴょん。
追駆してくる心槍から逃げる為に、八雲は細かく飛び跳ねながら移動しているのだが、その細かな飛び跳ねが、來凱にとっては、激しい負担となって襲いかかってきていたのだ。
否、気は使ってくれているのだ。八雲は。
大丈夫と、細かく尋ねて来てくれているのだ。
大丈夫じゃねえ。
叫びたい気持ちを、もう降りたいあんただけで逃げてくれと訴えたい気持ちを、グググっと、押さえ付けて、気にせず逃げろと、來凱は見栄を張った。
そう。見栄である。
荊の弟子である八雲に、情けない姿を見せたくないという見栄である。
並んで駆け走って逃げるのではなく、背負われている時点ですでに情けない姿だと、細い針で突いてくる己の声も聞こえるが、だからこそ、これ以上、情けない姿を見せたくはなかったのだ。
(けひっ。本当に、俺っちは)
ばかなおとこだぜい。
(2024.4.14)