121.草苺
草苺。
バラ科キイチゴ属。
落葉小低木で、茎には毛が多く棘があり、葉は卵形から楕円形で細かいギザギザがあり、白い花を咲かせて、大きく丸く熟した赤い粒々の果実は、とても甘く美味しい。
「美味し」
「うむ!それは何よりだ!」
淡雪筍が取り込まれた槍を持って逃げる八雲と來凱を追う琅青の行く手を阻んでいた灼蛍はしかし、その場に留まらせる事はできず、ちょこまかちょこまかと竹林の中を移動。奥に、端に、手前に、中央にと、進んでは戻り、進んでは戻りを繰り返して、辿り着いたのが、ちょっこり盛り上がっている小山に、びっしりと蔓延る草苺の群集であった。
無言で怒り狂っていた琅青はその草苺の群集を視界に入れるや否や、動きを停止。
真正面に立つ灼蛍に迷惑をかけたと、深々と頭を下げてのち、草苺の群集へと飛び跳ねながら向かっては小山の前で胡坐をかいて、やおら丁寧に草苺を食していた。
「灼蛍もたらふく食べるがよい。ただし、平らげてはならぬ。凍夜、八雲、心槍、來凱、人間の少年の分も残しておかねばな」
「うむ!この旬の美味な果実はみなにも食べさせなければな!」
「ああ。時に、灼蛍よ」
「うむ!何だ?」
「誠に淡雪筍は戻ってくるのだな?」
「うむ!本当に戻ってくる!俺を!そして、來凱を信じるのだ!」
「ああ。信じよう」
「うむ!ところで琅青よ。匂いを嗅ぎ分けて草苺の群集があるここまで来たのか?」
「否。偶然だ。と思うが、どうであろうか。吾輩はこれを食べると決めたらば。今回は淡雪筍であり、これを食するまでは浮気はせぬと決めておるのだが、今回は、怒り心頭に至った己をどうにか鎮めるべく、ここまで来たのやも知れぬ」
「うむ!自制心が働いて何よりだ!」
「美味し」
「うむ!」
灼蛍は琅青の傍らに腰を下ろしてのち、草苺を一粒もぎ取ると、口に中に入れて咀嚼した。
「「甘し美味し!」」
(2024.4.14)