11.亀雲
宝貝、亀雲。
亀の形をした雲の乗り物。
歩行、疾走、飛翔、水泳。
使用者の気分と状況と場に応じて、移動方法が変化する。
霊獣の紅鶴から知らせを受けた大仙人は亀雲に乗って、凍夜、震霆、八雲が居る場所に降り立つや否や、凍夜に視線を定めて、叫んでしまった。
「なんみゃらめもしてぽるまみふめぇえええええ!!!」
「大仙人様。何を言っているかわかりません」
「わかりません」
「わからないよ」
凍夜、震霆、八雲に立て続けに言われた大仙人は、両頬に手を添えて繰り返した。
口を閉ざした状態で鼻から空気を取り入れて、両頬をパンパンに膨らませてのち、すぼめた口から、空気を緩やかに吐き出す深呼吸を、一回、二回、三回。
深呼吸を終えると、もにょりもにょりと唇を回すように動かし、口の動きを滑らかにして、再度叫んだのだ。
「栞太少年を異世界に戻したとはどういう事じゃ!!!」
「だって、只の人間じゃないですか。異世界の、しかも、仙界に居たら危ないですよ。帰すでしょ」
至極真っ当な凍夜の意見に、大仙人はぐぬぬと言ったのち、只の人間じゃないもんと言い返した。
「わしが、大仙人のわしが釣り上げた異世界の少年だもん!!!只の人間じゃないもん!!!」
「大仙人様が釣り上げようが、只の人間は只の人間です」
「全く以て、凍夜の言う通りです」
「えー。大仙人様が釣り上げたんだから、すっごい人間なんだよ」
「八雲」
賛同してくれた八雲に、ほろり、大仙人は両目に涙を滲み出させたのであった。
(2024.3.10)