108.足止め
「これは参ったな」
槍を持って逃げた八雲と來凱を追おうとする琅青の動きを封じながら、灼蛍はポメラニアン化した凍夜を己の懐に収めて、保護しようと考えていたのだが、灼蛍が保護するより先に、ポメラニアン化した凍夜が八雲と來凱の後について行ったと思いきや、槍の中に入り込んだのだ。
「いや、槍の中に居てくれた方が。うむ。安全と言えば、安全だろう。うむ。いい判断だ。なあ、琅青よ!」
「………」
「まったく、つれないやつだ」
槍に取り込まれた淡雪筍にしか全部を向けていない琅青の意識を取り戻せるとしたら、やはり新たに淡雪筍を掘り出すしかないのだろう。
(竹林すべての地面を掘り起こせば見つけられるか。いや、淡雪筍はあの槍に取り込まれているものだけと考えるべきか)
凍夜の言うように心槍の暴走の要因が、黒龍と白龍の鱗の生え変わりの現象だけではなく、淡雪筍もそうだとしたら、暴走の要因であり、まだ地面に埋まっている淡雪筍を放置するだろうか。
否。
奪われて持ち去られた槍を追うよりも、すべての淡雪筍を掘り起こして、槍を追うのではないだろうか。
妖力を追えば槍は簡単に見つけられるし、槍が分身みたいな存在で手放す事で妖力が半分になるとは言え、埋まっている淡雪筍を放置する理由にはならないような気がする。
つまり、淡雪筍はもうない。
そう考えた灼蛍は、ではやはり來凱が起こす奇跡に期待しようと思った。
「琅青!それまでは足止めさせてもらうぞ!」
「………」
「ははは!一言も発しないとはつれないやつだ!」
(2024.4.14)