107.追撃
人間界の竹林にて。
「あれ?凍夜。灼蛍。琅青も居る!あと、見知らぬ妖怪!あの妖怪を捕まえればいいの?」
一日をかけて師匠である荊の宝貝、夕灯についていた匂いを辿って、來凱の横に降り立った八雲は、周囲に見知った凍夜、灼蛍、琅青、そして、琅青と闘っている見知らぬ妖怪を見つけて、捕まえる為に飛び跳ねようとした時だった。
待ってくれ。
來凱と灼蛍の制止の声が重なったかと思えば、心槍と琅青の闘いの中で隙を見つけた灼蛍は、心槍から槍を奪い取ると、受け取ってくれと言うや否や八雲へと放り投げた。
八雲は槍の柄の部分を掴んだ。
槍を奪われた心槍も、槍の持ち主が変わった琅青も、一斉に八雲へと向かおうとしたが、灼蛍が阻みながら声を張り上げた。
「八雲!來凱を背負って、その槍を妖怪に絶対に渡さずに逃げ切れ!」
「わかった!」
「來凱!そのうさ耳少年は八雲と言う!荊の弟子だ!八雲に背負ってもらって、心槍の追撃から逃れるんだ!そして、奇跡を起こして、あの空の眩い色が消えるより前に、心槍を正気に戻すんだ!」
「けひっ。ああ」
「じゃあ、來凱。乗って」
「ああ」
背負われる必要はあるんだろうか。
背負う事で動きが鈍くなるのではないだろうか。
いやもしかしたら、背負う事で動きが早くなる種族なのかもしれない。
そうだきっとそうに違いねえ。
即刻結論付けた來凱は流れるように八雲の背中に乗って、その場から離れたのであった。
(2024.4.13)