106.修行
仙界の荊の岩にて。
八雲が人間界に居る來凱の元に降り立つ一日前。
八雲が師匠である荊と鬼ごっこという名の修行を終えた時だった。
「ねえ。師匠」
「今度は何して遊ぶ、八雲?」
「うん。あのさ。遊ぶのもいいんだけどさ。そろそろ、修行もつけてくれないかなーって」
「え?八雲との遊びは全部修行だよ」
「うん。そうだけど。そうなんだけど………あのさ、俺も師匠の弟子になって長いでしょ」
「ん~。うん。そうだね」
「何かさ~。試験みたいなのさ~。ないのかな~って」
「試験?」
「うん。こう、修行の成果をさ、見せられる試験みたいなの、ないのか~って」
「う~ん。新しい遊びを考える、とか?」
「う~ん」
「だめ?」
「う~ん」
「う~ん………あ!だったら、來凱の手伝いをして、來凱にありがとうってお礼を言われるって言うのはどう?」
「來凱って、師匠の育ての親の楚の子孫、だっけ?」
「そう!今はね、悪い生物を捕まえる仕事をしてるんだって!」
「じゃあ、俺は悪い生物を捕まえる仕事の手伝いをして、悪い生物を捕まえればいいって事?」
「あ。それと、人間界に居る來凱も自分で探し出すって言うのはどう?ぼくの宝貝、夕灯に來凱の匂いがついているからさ。この匂いを辿って探し出すの」
「探し出して、來凱の手伝いをして、お礼の言葉をもらう」
「うんそう!」
「やる!」
「よし!じゃあ、匂いを嗅いで!」
「うん!嗅いだ!」
「じゃあ、行ってらっしゃい!八雲!」
「行ってきます!師匠」
ふりふりふりふり。
しっぽを大きく振って八雲を見送った荊は、誰かに遊んでもらおうと、思ったけれど。
「………姜芳にまた、叱られちゃうし。八雲も頑張ってるし。ぼくも、修行………する、ぞ!」
えいえいおー。
荊は己を鼓舞して修行へと向かったのであった。
(2024.4.13)