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105.八雲
逃げるか。
來凱は思った。
ばっくれてしまおうか。
(考えるまでもねえ。逃亡一択だろ。俺っちはただの人間で、相手は超凶暴になっちまった妖怪だ。相手をできるわけがねえだろ。そりゃあ、心槍の兄さんには恩があるが。だからって、命を投げ出すわけにはいかねえ。俺っちにはやるべき事があるんだ)
楚が荊の為に残した小さな家と広大な土地を守らなければ。
(あいつが独りにならねえように。俺っちが、)
「俺が助太刀するから大船に乗ったつもりでいて!」
「………誰?」
頭の上にうさぎ耳二つ、頭の横に人間の耳二つと、四つの耳があり、脚がとっても長く、短パン半袖姿の少年、だが絶対に人間ではないだろう外見だけの少年が、いつの間にか隣に立っていた來凱は目を丸くした。
ふふん。
外見少年は腰に手を当てて、胸を張って言った。
荊師匠の一番弟子、八雲です。
(2024.4.13)