104.奇跡
(けひっ。やっぱり帰ればよかったぜ)
來凱は心底後悔した心底。
何故って。
來凱が心槍の相手をしなければならなくなったからだ。
(けひっ。どうしてこうなってしまったんだっけか?)
來凱は回想した。
(えーと。灼蛍の兄さんが心槍の兄さんの槍を奪いに行こうとした時に、えー。凍夜の兄さんが突然、ポメラニアンになっちまったんだよな。ああ、ポメラニアンの妖怪なのかって思ったら、灼蛍の兄さんが呪いをかけられて、突然ポメラニアンになっちまうって言って、へえそれは難儀な呪いをかけられちまったなって、俺っちが言って。ポメラニアンになった凍夜では琅青の相手をする事はできないから、俺が琅青の相手をする、貴様が心槍の相手をしろって、灼蛍の兄さんに言われて。そんなの無理だ俺っちはただの人間で、心槍の兄さんは妖怪でしかも今は暴走してるとても危険な妖怪だって返したら、心槍が貴様を捕吏の見習いに誘ったんだきっと心槍は貴様に何か運命を感じたんだ運命を感じた人間である貴様ならもしかしたら奇跡を起こせるいいやきっと起こせるに違いない起こしてみせろ奇跡をって。奇跡を連発されて、そして)
今に至る。
ぽつねんと、來凱は一人立っている。
來凱の傍らには、ポメラニアン化した凍夜が座っている。
灼蛍は槍を奪いに、闘っている(正確には淡雪筍を取り込んだ槍を守ろうとする心槍と淡雪筍を取り込んだ槍を奪おうとする琅青)心槍と琅青の間に立ち入らんとしている。
(………奇跡って。俺っちが、起こせるわけ、ねえだろ)
起こせるならとっくの昔に、起こしてみせている。
(2024.4.13)