103.助太刀
人間界の竹林にて。
(黒龍と白龍の鱗の生え変わり、か。あれは、僕の力ではどうしようもできない。から、数時間消滅するのを待って、妖怪が正気に戻ってから………だと、遅い、かもしれない、し)
「助太刀するぞ、凍夜」
「灼蛍、と、誰?」
妖怪の暴走の要因が、黒龍と白龍の鱗の生え変わりだと推測した凍夜はしかし、この現象に対してはどうする事もできないので、ではどうしようかと沈思黙考していた時だった。
突如として目の前に、灼蛍と、凍夜が知らない人間が出現したのだ。
「けひっ。俺っちの名前は來凱ってんだ」
「………灼蛍が来てくれたのは有難いけど。君はただの人間だよね?」
「元盗人で、今は捕吏だ」
(けひっ。正確には捕吏見習いだが。わざわざ言う必要なねえだろ)
「この妖怪の捕縛が目的って事?」
「けひっ。いいや。今、丸坊主の兄さんと闘っている妖怪の兄さんは、人間界の捕吏に手を貸してくれててよ。今回、無様にも暴走してるってんで、俺っちと灼蛍の兄さんが目を覚まさせに来たってわけよ」
「妖怪の名は心槍。手を組んでそう年数は経っていないが、大切な朋輩だ。ゆえに、この黒龍と白龍の鱗の生え変わりにより暴走している心槍を正気に戻しに来たというわけだ!」
「それは心強いけど。具体的な作戦は何かあるわけ?この黒龍と白龍の鱗の生え変わりの現象は当分続くだろうし、あの現象を消滅させる事は不可能だし」
「どうなんだ?灼蛍の兄さん」
凍夜と來凱の視線が注がれる中、灼蛍は腕を組んで力強くうむと頷いたのち、まずはと活力いっぱいに口を開いた。
「心槍の槍を奪う。あの青丹という槍は心槍の分身のような存在だ。これを奪われる事で、心槍の妖力は半減したも同然だ!俺が奪った青丹を來凱が持って逃げる!妖力が半減した心槍を俺が相手をする!黒龍と白龍の鱗の生え変わりの現象が終わるまで!」
「けひっ。よっしゃ任せろ」
「え?つまり、僕はこの來凱って人間を守りながら、琅青の足止めをしなくちゃいけないって事?黒龍と白龍の鱗の生え変わりの現象が終わるまで?」
「………うむ?」
首を傾げる灼蛍に、凍夜は説明をした。
「琅青はその槍に取り込まれた淡雪筍を探しに人間界まで下りてきたんだよ。琅青が怒り狂って、心槍って妖怪に突進しているのは、その淡雪筍を奪われたからで、淡雪筍を取り込んだ槍を狙っているの。だからもしも、槍をその來凱って人間が持って逃げるとして、僕が琅青の相手をしなくちゃいけないなら、その槍を持っている人間を守りながら琅青の相手をしなくちゃいけないの。そして、どうして心槍って妖怪が淡雪筍を取り込んだかと言うと、心槍って妖怪の暴走は多分、黒龍と白龍の鱗の生え変わりの現象だけじゃなくて、淡雪筍も要因になってるんだよ。だから、槍に淡雪筍を取り込んだんだと思う」
「………」
ててって ててててって。
ててって ててててって。
しばらくおまちください。
ててって ててててって。
「うむ!では、俺が心槍の槍を持ちながら、心槍の相手をして、凍夜は琅青の相手をしてくれ。そうしたら、來凱を守りつつ、琅青の相手をしなくてもいいだろう」
「うん」
「けひっ。じゃあ、俺っちは何をすればいいんだ?」
「「………」」
凍夜は灼蛍と無言で顔を見合わせてのち、灼蛍にすべてを任せるという意味を込めて、両手を差し向けた。
灼蛍はその意味を理解して、うむと力強く頷いた。
「指示待ちだ!」
「けひっ。役に立ちそうにねえな。帰ってもいいか?」
「だめだ!」
「けひっ。そうかよ」
帰りたいなーとても帰りたい。
何かできる事があるならまだしも、できそうにないし。
來凱は心底そう思ったが、灼蛍の待機命令に素直に従ったのであった。
(2024.4.13)