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1:お茶会

よろしくお願いします。

とある貴族の令嬢であるアマンダ・フォンターナは怒っていた。

 大好きなお母様とお姉さまをらせるなんて、イレーネという子はなんて嫌な子なんだろう。

 王宮で開かれる貴族籍の子供のためのお茶会。

 それに向けてアマンダと姉のバジーリア、母親であるボーナは自宅でドレスに合わせる小物を選んでいた。

 華やかな金の髪をしたアマンダは、子供らしい明るいピンク色のドレスに背なかに大きなリボンがあるドレスを選んだ。

 それに合うアクセサリーをアマンダは真剣に選んでいた。

 そんなアマンダを見守りつつ、バジーリアとボーナの会話は続いていく。

「ねえお母様。やっぱりイレーネをディーノ様かアルフォンス様のお相手として考えているのかしらね」

 苛立ちを隠すことなく、アマンダの姉バジーリアは言った。

「そうね。イレーネを養女にしていないもの。あの女もあの女の娘も邪魔ばかりする。本当に目障りね」

 アマンダとバジーリアの母であるボーナも怒りを滲ませる。

「イレーネの母親、ティーナも嫌な女だったわ。当時王太子だったエットレ様の回りをちょろちょろして本当に目障りだった」

「お母様……」

「お父様は大事だけど。本当はわたしはエットレ様と結ばれたかったのよ。だからバジーリアとアマンダには是非ディーノ殿下とアルフレード殿下と結ばれてほしいと願っているのよ」

「わかっていますわお母様。わたし絶対ディーノ殿下と仲良くなります」

「期待しているわ。母娘揃って、本当に邪魔な存在ね」

 ボーナは盛大にため息を吐きつつ、娘たちがそれぞれ自分で選んだものではなく自分が選んだ小物を侍女に渡した。


******

 

 お茶会でバジーリアは薄いブルーのドレスを着て王弟のディーノの側を陣取っていた。

 身分としては決して高くはないのだが、強気で美しいバジーリアを咎める令嬢は誰もいなかった。

 アマンダはそれを見ながら、自分も王太子に近寄ろうとあがいていた。

 王太子を取り巻く令嬢の輪の外側にまでは行けるのだが、他の令嬢のガードが固く王太子の側まではなかなか近寄れない。

 ボーナからも王太子と懇意になってこいときつく言われている。

 それも相まって、アマンダはイライラしていた。

 ふっと、会場を見渡したときに銀の髪をした少女の姿が目に入った。

 彼女の周囲には、大人しそうでまだ小さなな貴族令息が数名いるだけだった。

 アマンダはイレーネの方へと歩いていった。

「ごきげんよう」

 アマンダに気がついたイレーネは、微笑みを浮かべ優雅に挨拶をしてきた。

 そこに余裕すら感じられて、アマンダの怒りのボルテージは上がっていく。

「ねえ、あなたイレーネでしょ?」

「はい。あなたはどちら様でしょうか」

「ねえ。話があるの。ちょっとあちらへ行きましょう」

 アマンダはイレーネの問いに答えず、強引に引っ張ってお茶会の会場の隅へと連れていった。

「イレーネ、いいこと教えてあげるわ。あなたね、みんなを不幸にするのよ。あなたの両親が亡くなったのも、あなたが原因ではないのかしら」

 真っ青な顔になったイレーネの顔を、にやにやとした笑みを浮かべたアマンダが見つめる。

「あなたなんて要らないのよ。いるだけ迷惑なのだから、王宮ではなくて王宮の敷地の森にでも暮らせばいいのよ。さっさとここから消えるのが皆のためなのよ」

 そういって、アマンダはイレーネの手を引っ張って、茶会の会場である庭から追い出した。

 そして満面の笑みを浮かべ、王太子を取り巻く令嬢の群れの中へと戻っていった。

 

******

 

 ディーノはうんざりしていた。

 王宮で社交シーズンに数度もうけられる貴族籍の子息や子女の交流のための茶会。

 現在,王家の血を引き婚約の整っていない王弟の自分や、将来国を背負って立つ王太子であるアルフレードは着飾った子女達に囲まれている。

 ディーノは油断するとひきつりそうな顔に無理矢理笑顔を浮かべ、当たり障りなく対応する。どの令嬢にも平等に、公平に。

 だが令嬢たちの一人、水色のドレスを着た令嬢が他の令嬢の足を引っ張りつつしつこく付きまとってくるので、ディーノは逃げ出したくて仕方がなかった。

 ふと、イレーネは大丈夫だろうかと思い会場を見渡す。

 イレーネは昨年相次いで両親を亡くした。

 様々な事情があって、王宮に預けられることになった。今回が王家に引き取られて初めての茶会となる。

 先程ちらりとその姿を確認した時は、令息の一部に囲まれていて少し戸惑いはしていたようだが上手く対応していた。

 少し頬を染めて一生懸命話す姿、令息達に惜しげもなく向けられる笑顔になぜか不愉快な気持ちになった。

 会場である庭園はそんなに大きくもない。にもかかわらず庭園の中をいくら探しても、イレーネの姿は見つからない。

 ディーノは血の気が退いた。

 自分を囲んでいた令嬢達からそれとなく離れ、会場を取り仕切っていた王妃の侍女にイレーネの所在を確認した。

 イレーネの行方を侍女に問うた時、侍女は会場を見渡しその顔を青くした。慌てる侍女を落ち着かせ、騒ぎ立てないようにイレーネを探すように指示した。

 ディーノはイレーネの姿を最後に見た時に近くに座っていた子供たちに声をかけた。

「銀の髪をしたイレーネという女の子を知らないか?」

「背中に大きなリボンがついたピンクのドレスを着た令嬢とあちらへいきました」

 一人の子供が、庭園の垣根の間を指差す。

「ありがとう」

 ディーノは答えた少年に礼をいうと、会場内に視線を向ける。

 背中に大きなリボンをつけたピンクのドレスをきた少女はすぐに見つかった。

 ディーノが離脱したせいで一段とアルフレードを中心にした人の輪が大きくなっている。

 その輪の外側にいた。少しでも中心にいるアルフレードに近づこうと必死に輪に入ろうとしている。

 「アルフレードの群れの外側にいる大きなリボンをつけたピンクのドレスをきたあの令嬢から別室で話を聞いてもらえるか」

 ディーノは侍女に指示し、自らはイレーネを探しにいくと告げ会場をあとにした。


 ******


 イレーネはどこにいるんだ?

 ディーノは茶会の会場となっていた庭園を出て、隣接する回廊を抜けた。その先の池や雑木林などが増設され作られた広大な敷地に足を踏み入れる。

 頬を撫でる風が、冷たさを帯びてきた。

 遠くに雷が聞こえてきた。

 雨になるかもしれない。早くイレーネを探さないと。

 内心焦りを感じながら、走るスピードをあげた。

 微かに、泣き声が聞こえた気がして足を止めた。

「ひっく……ひっく……」

「イレーネ?」

 名前を呼び掛ける。辺りを見渡すと低木の影にイレーネの銀糸のような髪が見えた。

「ディーノにいさま?」

「イレーネ!! 見つけた!!」

 イレーネは目を真っ赤にしながら、地面に座り込んでいた。

 ディーノはイレーネの側に駆け寄ると、その傍らの地面に膝を着きイレーネを抱き締める。

「イレーネ、心配したよ」

「ディーノにいさま、ごめんなさい」

「雨が降りそうだ。帰ろうイレーネ」

 ディーノは立ち上がると、イレーネの手を取って立ち上がらせようとした。

「痛いっ」

イレーネの顔が歪む。

「イレーネ、怪我をしたの?」

 慌ててディーノはイレーネの側に膝をついた。

「どこが痛い?」

「右の足首が痛いです」

 イレーネの右の足首を見ると、赤く腫れていた。

 イレーネは傷を癒す力を持っているのだが、それは自分に使う事ができない。

 ディーノはイレーネの足の状態を確認すると、イレーネを安心させるように微笑みを浮かべその銀糸に縁取られた頭をそっとなぜた。

「イレーネ、痛かったね。僕が王宮まで連れていくから安心してね」

「ディーノにいさまぁ……わーん……」

「イレーネ?」

 安心させようとしたのになぜか泣かれてしまい、ディーノは慌てた。どうしたら、泣き止んでくれるのだろうか。動揺しつつ、優しくイレーネの頭をなで続ける。

「……ひっく……ひっく……」

「イレーネ、大丈夫だよ。僕がいるからね」

 イレーネは小さな頭をふるふると振った。

「……わたしがいると……にいさまも……みんなを不幸にするの……」

 イレーネの言葉に、その頭を撫でていた手が思わず止まった。

「えっ??。イレーネ、誰かに言われたのかな?」

「ひっく。わたしのせいでお父様もお母様も亡くなって……ディーノにいさまも、アルも王妃様も国王様も不幸になるって……ひっく……」

「イレーネ、それは違う」

 思わずイレーネを強く抱き締めた。

「にいさま、いたいです……」

「ごめんイレーネ」

 ディーノは慌ててイレーネを抱き締めた腕を緩めて、その瞳を覗きこんだ。

 優しく微笑むディーノの瞳をイレーネは見つめた。

「イレーネのお母様が亡くなったのは病気だったし、お父様は国を守るために戦って怪我をされたのが原因だよ。イレーネせいではないよ」

 イレーネの頭をポンポンと軽くてを置く。

「イレーネはどうしてそう思ったの?誰かに、何か言われた?」

「金の髪のピンクのドレスを着たご令嬢に言われました……ひっく……」

 くしゃりと、ディーノはイレーネの頭を少し強く撫でた。

「イレーネ、後で詳しく教えてほしい。王宮へ帰ろう。みんなイレーネが大好きだから、イレーネを心配しているよ」

「ごめんなさい」

 眉根を寄せてイレーネが、しゅんと落ち込む。

 ディーノは思わずイレーネのその白い頬に唇を寄せた。

「にいさま?」

 イレーネの顔は真っ赤になった。驚きのあまり、涙が止まる。ディーノは微笑んだ。

 ディーノは泣き止んだイレーネを背負うと、王宮へと足を進めた。


 王宮に戻る途中、恐れ艇た通り、雨が降ってきた。

 イレーネを背負いながら、途中にあるガセポへと駆け込んだ。

「イレーネ大丈夫か?」

 ポケットにいれていたハンカチで雨の水分を拭き取っていく。

「イレーネ寒い?」

 ふるふると頭を振るイレーネの手にそっとディーノは触れた。

 その小さな手から伝わってくる冷たさに、ディーノは内心慌てた。

 そして、そっとイレーネの横抱きに抱き上げるとベンチに腰掛け、そのままイレーネを膝上に乗せた。

「ディーノ兄様!!」

「イレーネ、くっついて。そうしたら暖かくなるから」

 イレーネを包み込むように抱き締め、両手でイレーネの小さな手を包み込んだ。

「ディーノ兄様、暖かいです」

 頬を染め、少し恥ずかしそうにイレーネは微笑んだ。

 イレーネはドキドキと脈打つ自分の心臓の音がディーノに聞こえないだろうかと、心配になった。

 ディーノに抱き締められている安心感に、先程まで落ち込んでいた気分が消えているのを感じた。

 

 雨が止んだ。

 ディーノがイレーネを背負い王宮へと戻る途中、自分達を捜索していた騎士団と合流し王宮へと戻った。

 騎士たちがイレーネを背負うディーノに、何度も代わろうと声をかけた。だがディーノは頑としてイレーネを渡すことはなかった。

 騎士たちも心配していたようで、中にはイレーネの怪我をしているが無事な姿をみて涙ぐむものもいた。

 国王一家も侍女たちも心配をしていた。

 そして料理人や庭師にいたるまでイレーネの心配をしていたらしく、イレーネは大勢の人間に迎えられた。


******


 その後皆から心配されていた通り、イレーネは風邪を引き熱を出した。

 ディーノは責任を感じて、ずっとイレーネの側を離れず甲斐甲斐しく世話をした。

 侍女は最初の方はディーノが看護をする事をいさめていたが、結局ディーノに根負けした。

 イレーネの看護をすることに対して、王宮の医師ワイナリーも侍女たちも暖かく見守っていた。

 そして侍女からディーノの件の報告を聞いた国王と王妃も。

 熱に浮かされたイレーネがうなされて何度か目を覚ますことがあった。

 その度にディーノが側におり、優しい笑みで安心させてくれた。

 イレーネは再び安心して眠ることができたのだった。


 イレーネが回復したのと時を同じくして、今度はディーノが発熱してベッドの住人となった。

 イレーネ以外の、国王始めその多くが案の定かと口には出さずもがな思っていた。

 ディーノの看護は今度はお返しとばかりにイレーネが甲斐甲斐しく世話をやいていた。初日のみではあるが。

 初日にディーノの風邪を治そうと全力で治癒の力を使い、眠っているディーノのベッドの横におかれた椅子に座ったまま意識を失いディーノのベッドに突っ伏していた。それを目を覚ましたディーノに見つかり、慌てたディーノがワイナリー医師を呼ぶように侍女を呼び、イレーネを抱上げてイレーネの部屋へと運ぼうとしたら侍女にこってりディーノは諌められた。

 結局侍女に呼ばれた騎士がイレーネを抱き上げ部屋に運んでいったが、ディーノはその様子を悔しさや羨望を含んだ瞳で見ていた。 

 実際にこの騒動に関わった侍女も騎士も、この騒動を報告で聞いた国王も王妃も、二人の将来の仲を想像し口許が緩んだ。

 

 数日後、ディーノは将来騎士団へと入るべく行動を始めた。このままだとイレーネを守れない。強くなりたい、とディーノは思った。

 騎士団へ剣の稽古に行くようになって、その稽古の見学に頻繁にイレーネが足を運ぶようになった。ディーノだけではなく他の騎士たちの怪我も治して騎士たちにも感謝されている。

 二人の姿を、騎士団のメンバーを始め王宮のすべての人間が暖かく見守っていた。


✳✳✳✳✳✳ 

 

 お茶会の席で妊娠中の王妃の代わりに会を取り仕切っていた侍女が、フォンターナ家の令嬢アマンダに声をかけた。そしてメイドに指示を出し、アマンダを別室へと案内させた。

 フォンターナ家の令嬢アマンダは、緊張していた。

 もしかしてアルフレード様かディーノ様が自分の事を気に入ってくださったのだろうか。

 お母様に怒られずに済むし、バジーリア姉様を見返せる。

 アマンダの顔には笑みが浮かぶ。

 メイドが案内した部屋に足を踏み入れたアマンダは、そこにいた見知らぬ大きな勇ましい騎士たちの姿をみてぎょっとした。

 思わず足を止めたアマンダに、騎士の一人が膝をつきアマンダに微笑みかけた。

 「アマンダ嬢、聞きたいことがある」

 イレーネ嬢とどのような話をしていたのか? 問われたアマンダは騎士の優しく見える笑顔に、得意気にありのままを話した。騎士に問われるまま、素直にありのままを。


 …………そして、全ての知らせを受けたフォンターナ家当主の顔色は青くなり、白くなって。

 最後に真っ赤になって、妻と娘たちを妻の実家へと突き返した。



 

 

 



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