氷の翼
俺は偶然、世界に次々と飛来する通称''天使''とやらの一体を発見した、と言うよりかは目の前に出現した。俺が研究機材作成のために、鉱物を集めに鉱山にやって来た時だった。目の前に閃光が走り、凄まじい音と共に巨大な水晶のような物が、いつのまにかそこにあった。水晶の中には、人間のような''何か''がいた。俺は瞬間に理解した、これは''天使'’だ。俺はサティエントの計画の重要なピースの発見に喜びを感じた。確か、1st、2nd、3rdは発見済みだったはずだ、つまりこいつは''4th''ということになる。一刻も早く、''天使''もとい仮称:4thの発見・回収を本部へ報告しようと考えた。しかし、体は先に動いていた。この厄災級の天使というものを「私のものにしたい」という私欲に支配され、4thを俺の研究所に運ぶ準備を始めていた。''天使''を運搬用の車両に搬入し、鉱山を下って山間部にある研究所に帰った。
俺は研究所に戻ると、4thを解析機材に入れ、これまでサティエントが集めた天使についてのデータを一晩中探し続けた。しかし、肝心の天使についての記述はほとんど無く、どのように現れたなどの目撃情報しかなかったのだ。
朝になって、俺は唖然とした。解析機材がまだ動いている…解析が終わらない原因を調べると、どうやら機材の故障ではなく媒体の問題のようだ。解析中の画面には組成などの詳細な情報が示されるのだが、全ての元素がある…と言うよりかは物質が絶えず変わり続けている。この4thを携えた氷塊には、多量の陽子や電子、中性子などのものが無造作に動き続けており、絶えず合成、崩壊を繰り返している。この非科学的な物体を前にして、頭がショートしかけていると、氷塊にヒビが入り始めた。
「どうなってんだよ…4thが出てきたら…殺される…?」
俺はすぐに施設全体の防衛システムを最大にし、ただ出てくるそれを待つことしか出来なかった。
氷塊は砕け散り、中からそれが出てきた。
「ふぁ〜ぁ…よく寝ましたね…。はじめまして、にんげんさん!」
「…???」
「あれっ…この世界でも言語は同じはずなのに…。えっと…大丈夫ですか?」
俺は…生きているのか…?敵対的な行動を一切とろうとしていない…。
恐れ、戸惑い、好奇心?ただ、何かによる精神の束縛で、思考が巡らない。かすかに俺を心配するような声が聞こえている。世界を破壊する兵器の一端、それを前にしても、俺は恐怖に縮み上がったのではなかった。次第に、心を縛っていたものを解くように、その天使の言葉は音ではなく心にとどいたようだった。
『大丈夫です、心配ありません。』と、その天使は伝えてきた気がした。言葉の意味ではなく、心の形であって、そこに偽りはないと思った。
そして、俺は重い口を開いた。
「あ…ああ…いや、なんか拍子抜けだな…もっと恐ろしいものかと思った…」
「怖がらせちゃいましたか…!すみません!」
「いや、俺が勘違いしてただけだ、気にするな。」
「そうですか…。あっそうだ、名乗ってすらいませんでしたね!私はゼルガディア様に支える第4使用人、ゼミア・メリゼアルダです。」
「メリゼアルダ…。俺はセシル・アルタライン、セシルでいい。」
「セシル様ですか!これからよろしくお願いします!」
「ああ……??これから?」
「はい!私たちは出会った方々に仕えるように命を受けています。ですのでこのゼミア、セシル様にお仕え致します!」
「????…待って…え?」
「私ではお気に召しませんでしたか…?」
「いやいやそんなことは…話の方向性が掴めない…。」
『しょぼ〜ん…』
「??、えっと…しょぼ〜んってなるのやめて?て言うか突然すぎるし訳もわからない!」
「えっとですね…ゼルガディカ様から出会った人の使用人になるように言われてこの世界に来たんです。はっきりとは覚えていませんが…」
「な、なるほど…つまり俺のメイドになりたい…と?」
「はい!」『パァーッ』
「うぇ〜っと…わかったわかった!俺のメイドになってくれ!これでいいのか?」ヤケクソ
「はい!お任せください!」
セシルはゼミアが結晶から出てきた瞬間から、彼女を傷つけることなど考えることができなかった。無垢な瞳に映る光が、自分に向けられていると思うと、どうもほのぼのした気持ちになってくる。
「セシル様!私、なんのお仕事をしましょう!」
「…えっと…、そうだな…。」
「お役に立てませんか…?」
「今日はゆっくりしててよ。特に今日はしなくちゃいけないことが無いんだ。」
「そんな…!働くためにやってきたのに働かないというのは…」
「今日は働かないのが仕事だ。わかったか?」
「なるほど!わかりました!でしたらセシル様のそばで座っていますね!」
\ぽふっ/
「にゅっ…まあいっか…。」
2人はテレビを見たり漫画を読んだりしてくつろいでいた。
「お腹減った…。」
「でしたら何か作ってきます!何を作ってきたらいいですー?」
「あー、何か作ってもらうのは忍びないし、コーラとカップラーメン持ってきてくれないかな。」
「はい!お任せください!」
\タッタッ/
「はい、セシル様どうぞ!」
「ありがとうゼミa…いや!カップラーメンそのまま持ってきてどうするの!」
「す、すみません…!すぐにどうにかします…」
『これどうするんだろう!全然わからないや!』
「…あの、このかっぷらーめん?というものはどうするものなんでしょう…!初めて見るもので分からないですぅ…」
「あーごめん、そうだよね。ゼミアって神の世界からやってきたっだもんね。」
『??なんでそのことを普通に理解してるのかな俺は!?』
「セシル様、申し訳ありません…」
「いいよ、ほら。一緒に作ってみようよ。って言っても簡単だけど。」
「いいんですか!お願いします!」
セシルはお湯を沸かし、カップラーメンの蓋を開ける。
「なるほどー!乾燥した麺が入ってるんですね!」
「ここにお湯を入れるとできるんだ。」
「お湯の理由はスープのため…すごいですね。」
「昔は何分も待たなくちゃダメだったんだけど、今は一瞬でできるんだ。ゼミア、食べてみる?」
「いいんですか!ではお言葉に甘えて…モグモグ…んんっ美味しい…!」
セシルは初めて見るゼミアの笑顔に思わず笑みが溢れた。心が直接伝わってくる気がする。
「それで美味しいって言ってるようじゃ、なんでも美味しいって言いそうだな!」
「むぅー!笑わないでください!」
「ごめんごめん!」
「まだ笑ってるじゃないですかー!」
セシルはゼミアとの生活を、出会ってすぐから楽しく過ごしていた。そうして過ごしているうちに、2人は寝てしまっていた。