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3. 突然の申し出

 目の前で王宮の侍女さんがお茶を淹れてくれて、お菓子まで出されているこの状況。

 扱いは全く悪くないのだけれど、こんな私に一体何を求めようとしているのかしら?


「そろそろ来ると思うから、もう少し待ってほしい」


 そんな発言をする殿下の意図が読めないまま時間だけが過ぎていき、ついに部屋の扉が開けられた。


「待たせてしまって済まなかった」


 そんな言葉と共に姿を見せたのは、国王陛下だった。

 公爵令嬢という立場上、見慣れた人物ではあるけれど、陛下の放つ空気には気圧されそうになってしまう。


「お気遣いに感謝しますわ」


 立ち上がってカーテシーをする私。


「今回はこちらが頼み事をする立場だ。あまり畏まらなくてよい」

「ありがとうございます」


 素直にお礼を伝えると、殿下からこんなことを言われてしまった。


「今日のパーティーの目的は聞いているかな?」

「ええ。殿下の婚約者を探すためと」

「貴女が受け入れてくれるなら、その婚約者をシルフィーナ嬢にお願いしたい」


 殿下の婚約者になる。

 私に条件の良い婚姻が望めない今の状況を考えると、願ってもない提案だった。


 殿下に嫌悪感は抱いていないから、断る理由なんて無い。

 けれども、殿下が亡くなってからのことを考えると簡単に頷くことは出来ない。



 婚姻を急いているということは、精霊に愛されているアルバート殿下がお世継ぎを望まれているからに違いない。

 お世継ぎを望まれること自体は令嬢として生きているのだから覚悟していることだけれど、精霊に忌み嫌われている私がその役目を任されて良いのかしら?


 もちろん、好きになった人と結ばれたいという想いはあるけれど、貴族として生きていたらその願いが叶うことは滅多にない。


「殿下は子を望まれているのですよね?」

「ああ」

「その役目が、精霊に嫌われている私で良いのでしょうか?」


 魔法の適性は例えば父が五つ母が三つだったら、子は五つの適性を持つ傾向が強い。けれども、忌み嫌われている私の影響が出ないとは言い切れない。

 そうなってしまえば、王家の威信に関わってしまう。


「シルフィーナ嬢が不安になるのも良く分かる。でも、信じて欲しい。

 貴女は精霊に嫌われてはいない」


 そう言い切るアルバート様。その言葉に付け加えるように、陛下が続けて口を開いた。


「これから話すことは、病人が救われなくなることを避けるために口外しないで欲しい」

「分かりましたわ」


 私が頷くと、今まで知らなかったことが語られた。


「精霊に嫌われると、まず健康ではいられない。そして魔法も使えなくなる。

 もう一つ。精霊に嫌われた人は、必ず魔法を使()()()()()そうだ」


 陛下の説明が事実なら、私は精霊に嫌われていないことになる。

 でも、これは私達貴族が知っている常識とは違う。


「病人を……アルバートを守るためとは言え、貴女には迷惑をかけてしまった。申し訳ない」

「あの噂はあまり気にしていないので、大丈夫です。

 真実を教えてくださったこと、感謝しますわ」


 まだ魔法が使えない理由は分からないけれど、嫌われていないと知って安心することが出来た。


「本題に戻らせてもらう。

 僕との婚約は受け入れてもらえるかな?」

「殿下のご迷惑にならないのでしたら、嬉しく思いますわ」


 歳が近いことを理由に、幼い頃から彼とはよく遊んだりしていた。

 幼馴染のような関係だったけれど、私は彼のことを今も好ましく思っている。


 けれども……彼との政略婚の話が出てきた時、私は忌み子の悪評を気にして、迷惑をかけたくない思いから婚約を望まなかった。

 アルバート様もまた、病を抱えていて私を悲しませたくないという理由で、私との婚姻を望まなかった。


 それから好意は胸の奥底に閉じ込めていたのだけれど、今日になって表に出てきてしまった。

 

「ありがとう。貴女が良いのなら、すぐにでも正式に婚約を結べるように手配しよう」

「ええ、分かりましたわ。助けてくださって、ありがとうございます」

「僕がそうしたかっただけだ。四年前に諦めたはずだったんだけど、諦めきれなかったみたいだ」


 そう口にする殿下は笑顔を浮かべていたけれど、後悔の滲む悲しそうな目をしていた。


 それから、パーティーの主催が長時間席を空けるのは良く無いと言うことで、殿下は会場に戻ることになった。

 私はあの場所に戻りたく無かったから、そのまま屋敷に戻ることを告げて王宮を後にした。

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