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戦場に跳ねる兎  作者: 瀧川 蓮
第一章 逃避
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第九話 天の威を借る者

「私たちアルミラージュは、天の威を借る者と呼ばれているの」


「……天の威を借る者?」


レイナは静かに頷く。リザはレイナから目を離さずお茶を一口すする。


「リザも天威については知ってるわよね?」


「うん」


何の前触れもなく天から降り注ぐ光のエネルギー波。降り注ぐ時間帯や威力、範囲などに法則性はなく世界における大きな謎となっている。


過去にはいくつもの都市が天威によって地図から消えたと聞く。神の怒りに触れた、天の声であるなどさまざまな説があるもののいまだに原因は不明だ。


「実はね、過去にアルミラージュが他種族と戦端を開いたとき、天威が降り注いだことがあるの」


「…………」


「戦場で突然光が降り注ぎ、気づいたときには戦争相手の種族は消滅していた。こんなことが過去数回あったわ」


「……つまり、天威がアルミラージュに味方している……?」


「それは分からないわ。そもそも天威の正体すら分からないしね。ただ、他種族やいくつかの人間の国はアルミラージュと天威に何かしらの関係があると考えている。その最たる国がネルドラ帝国よ」


リザは納得したようにかすかに頷く。なるほど、仮にアルミラージュが天威を操れる、味方につけているとなれば覇道を突き進む帝国にとって大きすぎる障害だ。


躍起になって排除しようとするのも頷ける。帝国軍ではなく属国のグルド王国を差し向けたのも、天威による自国兵の消耗をできる限り抑えたかったと考えれば納得いく話だ。


「まあ、そんなわけで私たちは以前から帝国の襲撃を受けているの。でも、今日のことがあるからしばらくはもう攻めてこないかもね」


ふふ、と笑うとレイナは空になったリザのカップにお茶を注いだ。



──特殊魔導戦団シャーレ、鮮血の地下拠点。会議室では鮮血の隊員が今後の方針について話し合っている。


「私はリザ隊長以外の命令に従う気はありません。たとえ軍司令官の命令であっても同様です」


副長マリーの目を正面から見据えて口を開くリンナ。わずか十歳で博士号を取得した天才少女は、帝国軍の心臓部、シャーレの頭脳とも評される存在である。


「おそらく鮮血の隊員であれば誰もが同じ考えであるはず。ただ、軍部が我々のこうした主張をいつまでも容認するとは考えられません」


メガネを指で押しあげながら言葉を紡ぐリンナ。その表情からは読み取れないが、誰よりもリザ・ルミナスを敬愛しているという自負がある。


「とは言え、軍部は我々を敵に回すことは避けたいはず。そのため、しばらくは何らかの作戦へ参加させる折にはお願い、依頼という形になると考えられます」


リンナの言葉を静かに聞く隊員たち。


「そのお願い、依頼まで突っぱねるのは得策ではありません。そのときは、軍部も本腰をあげて鮮血部隊を解体、処分しようと行動を起こすでしょう」


「……上等じゃねぇか。そんときゃ思う存分やりあえばいいさ」


吐き捨てるように言葉を発したアイリーンは、椅子に深くもたれかけ天井に目を向ける。


「……あなたはリザ隊長が戻る場所を自らなくそうと言うの?」


リンナが瞳に冷たい色を宿してアイリーンに視線を向ける。


「……そんなつもりはねぇよ」


イケイケのアイリーンもリンナには強く出られない。リンナが間違ったことを口にするはずはないからだ。


「では、鮮血としてはリンナが示してくれた方針でいくことにするわ。軍部やシャーレの他部隊とは余計な衝突を避けること。いいわね」


マリーの言葉に全隊員が静かに頷き、これにて鮮血の方針は定まった。



──ネルドラ帝国軍本部、司令官室。報告書に目を通した司令官シャラは苛立ちに顔を歪ませた。


「……グルド王国軍の一個中隊が影も形もなく消滅。天威によるものと思われる……か」


読み終えた報告書をぐしゃりと握り潰す。いつまで経ってもリザが見つからないうえに、帝国の覇道を阻む厄介な種族の存在。


戦闘が得意なだけなら大きな問題ではない。問題はアルミラージュが天威と何かしらの関わりがあると考えられる点だ。


このままでは迂闊にアルミラージュへ手を出すことはできず帝国の覇道も暗礁に乗りあげる。できるだけ早急に帝国が世界の国々をまとめなくてはならないというのに。


正直、アルミラージュと天威に関わりがあるのかどうかシャラには判断がつかない。だが、天威の()()についてシャラには心当たりがあった。


シャラは深くため息を吐くと、軍服のポケットから一本の鍵を取り出した。それを執務机の一番下の引き出し、その鍵穴にさしこむ。


引き出しをそっと開き、ファイルの下から一枚の写真を取り出した。写真に写るのは一人の女の子。鮮やかな紅い髪が印象的な少女。


シャラは目を細めて写真を見つめ続けた。細い指先でそっと写真のなかの少女を撫でる。


「リザ……」


写真を見つめながらぼそりと呟いたシャラの背中はどこか寂しそうだった。


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