【目覚めた決意】
――だって、面倒だからなァ!?
そう、どの選択も選ばないと答えを出せば。
四色の炎は消え、その代わりにと。デスゲームのマスターが目の前に立ち塞ぐ形で姿を現す。 そして、ゆっくりと息を吐くように告げる。
『「――選ばないというのであれば、その分。死のカウントとなる損害、代償、犠牲、生贄は受けてもらおう」』
「――――! 」
『「お前がいいと言ったんだ。今更、取り消しなどできないぞ」』
選ばないのであれば、自分が言った通りに死のカウントを受けてもらうと。
今更、取り消しなどできず。避ける方法や逃げる道は無いと。
「……まぁ、そうだな。俺自身が言ったんだ。覚悟もできているし、決意は固まって目覚めている。 いいぜ、お前の好きなようにしてくれ」
正直、いくら夢でも取り消しができないことに面倒さを感じるが。
自分の口でそう言ってしまった以上は致し方ない。ここはさっさと受けて終わらしてしまおう、と。 両手を横に大きく広げて受け入れる体制を取る。
――――。
俺は此処で退場する羽目となってしまうが、彩舞達なら俺が居なくとも、なんとかなるだろう。 いや、俺が居なくとも。なんとかなっている連中で、そもそも俺が居ない方がスムーズに進むかもしれない。 ――何にせよ、俺は此処で終わる。死のカウントの糧になる。
短い間だったが、いや、短くも濃い時間だったからこそ、惜しむ気持ちが心に流れ、寂しさという飢えが喉を引きつらせて。遅い後悔を生ませ――いや、此処で悲嘆に暮れていてもしょうがない。
悲嘆に暮れる心を奥底へとしまい込んで。マスターへ、最後に、彩舞達に伝えてくれてと頼み込む。
「俺を助けてくれて、ありがとうって…、」
別れの言葉と感謝の気持ちを――。
――――。
『「…………」』
「…………あれ? なんで、攻撃してこないんだ? 」
『「…………」』
「死のカウントを入れるんだろう? なんで、微動すらしない? 」
――――。
「お、おい…、情でも湧いたのかよ? まぁ、それならそれで助かるけど…、」
『「…………」』
「おい…、なんか言ったらどうなんだ? このままだと、」
『「……お前、面倒な嘘をついているだろう」』
「へ? 」
『「死ぬ気など無いくせに…。いや、万全に戦うため、準備する時間を稼ごうとしているのは見えている。 面倒な嘘を吐くのはやめて、素直に勝負に出たら、どうだ? 」』
いつまで経っても、死のカウントを入れてこないので。
痺れを切らして、聞いてみれば。返ってきた言葉は、嘘を吐くのはやめろと。面倒な時間は無駄だと非難される。
嘘、嘘だとは、俺は――、
「……そんな、俺は」
『「面倒な小芝居はやめて、さっさと挑みに来るがいい。草牙里 面堂」』
「…………。
……なーんだ。やっぱり、マスター様には通じないってわけか。都合のいい夢は展開されないんだな。 でも、少しは乗ってほしいところだな。一撃で済ましたいわけだから、さっ! 」
誰が見ても酷くあくどい顔をして、腕を組み。自分の背後からマスターに目掛けて土砂崩れを巻き起こす。
マスターの言う通り、俺は嘘を付いていた。魔法を繰り出すための準備をするに必要な時間稼ぎとして。 何処までが、嘘なのかと問われれば。全部――、かもしれない。そう、感謝の気持ちとかは嘘ではないから、全部ではないが。答えを言えば、そういうことになる。
いくら本来の自分を取り戻したといえど、変わらないモノは変わらず、それをこれからも大事にしていく。 それに。せっかく、本来の自分を取り戻したんだ。色々と終わったら、自由に過ごしたい。 だから、自分の口で約束したように言っていたとしても。はい、その通りと受け入れて動くようなことはしない。 そもそも、俺は絶対、守る等とは言っていない。仮に言っていたとしても、俺はお化けだ。
都合が悪くなったら、気が変わったら、手のひらを反すように逃げる。自分が得する方へと押し進めて突破する。
『「ほう…、土砂か。お前が得意な魔法の一つか」』
「おっと、避けられたか。あー、やっぱり。時間が足りなかったな」
だが、やはり、すぐにマスターにバレてしまっていたことで。十分に時間稼ぎができず、規模が足りず避けられてしまった。一撃で済ましたかったが致し方ない。規模拡大は難しいが、周辺にと数を増やして、多勢に無勢するとしよう。
『「それはさておき…、お前。何故、魔法が使える? 我がデスゲームでは、魔法等は使えないようにしていたはずだが? 」』
次なる魔法を放つため、準備に取り掛かる最中、疑問を投げかけられる。何故、魔法が使えるのかと。 何故かって、それは――、
「此処は夢の中だろ? で、俺は覚めていて自覚している。だから、少しは都合よく運べる。 それに…、夢なんだ。何でもアリだろう? 」
此処は夢の中だから、たとえ現実では無効化されていようが関係ない。
明晰夢のように俺がこうしたいと望めば、自由自在に操ることができる。
だから、魔法が使えるわけだが――。
『「なるほど。しかし、お前は忘れてはいないだろうか? たとえ、明晰夢であっても。我が手の内ということを」』
答えを言ったのは間違いだった。
いや、これは最初から間違いであったかもしれない。俺は相手がデスゲームのマスター=管理者ということを半ば忘れていたから。
マスターは軽く片手を振るうと。
目にも止まらない速さで、夢の中、全体を凍り付かせ、まるで氷の中にいるような状態へと変えていき。 俺が不味い展開になったと気づいた頃には、俺の身体を首元まで氷漬けして、身動きが取れない状況へと変えた。
「…しまったッ! 」
『「昔から、本当に甘いな。面堂。
面倒くさがりというのは時に自分の身を亡ぼすことになるのだぞ」』
「お前さんのような、デスゲームとかいう、押し付けるような事ばかりする奴に言われたくはねぇーよ! 」
マスターの見下した煽りに対し、焦燥が入り混じりながらもお前には言われたくはないと返しつつ。 どうにかして、この状況と状態を打破する方法を考える。
夢の中、全体が凍り付き。首元まで身体を氷漬けにされた、というのは不味い展開だ。 この規模と範囲、そして表面から薄っすらと流れ出る魔力を見るに。このまま何もせず、じっとしていれば。凍死に至るまで、十分もかからないと思われる。
これが俺の間違いでなければ。せめて、数分以内に何か策を出さなければいけないが。 氷漬けにされた状態だと、魔法を放つのは難しい。いいや、それ以前に。マスターの事だから、夢の中というご都合世界を無効化して、こちらでも魔法が使えなくなっているかもしれない。本当の意味で自由に動けないかもしれない。だとすれば、俺はどうにもできない。どうにかして、なんて出来ない――いや、悲観していても時間の無駄だ。
せっかく目覚めた決意を此処で破棄するわけにはいかない。
彩舞達に御礼の一言も言っていないのに此処で振り出しに戻るわけにはいかない。 ゴリ押しでも、力業でも、どうにかしてみせなければ。
「とりあえず、もう一度。周囲を見渡して…いや、マスターをよく見てみるとするか。 何かしら、突破する方法や意外な攻略の仕方が見つかるかもしれないし…ん? 」
気を取り直して、この不味い展開から抜け出す方法を見つけ出そうと、マスターをよく見てみようとした時。 何処からか、ミシッという重みのある効果音が小さく鳴り。何か起きたのかと周囲を目だけ動かして見渡すが、特に変わった様子は無い。
「俺の気のせいか…? 」
気のせいだったのだろうか。何も変化していない様にそう、思い。改めて、マスターをよく見てみようと――、
「…ん?まただ。気のせいじゃないのか?でも、だとしたら。この音は一体、何処から? 」
――すれば、また同じ、ミシッという重みのある効果音が小さく鳴った。
気のせいじゃないのかもしれない。しかし、一体、音は何処から来ているのだろう。 何処を見渡しても変化など何一つない。だけど、音は数秒ほど経過するにつれて、数が増えていく。
変化していないのに音が鳴る。その上、数が増えている。
これだけの情報で考え付く答えは、俺の見えない場所で変化が起きている可能性。
仮にそれが本当にそうだとしたら、それはそれで厄介だが。
何か、抜け出すためのヒントになるかもしれない。
時間はあまり無いが、抜け出すためのヒントであると前提に。
この音がどんなもので。何の音に近いのか。見えない場所というのは何処か。考えるとしよう。 ――そう、思考を始めた時だった。
「――――! 」
ピシッ、という、ヒビが入ったような音が、自分の近くで鳴った。
すぐさま、自分の近くを見渡す。――だが、変化は何もない。やはり、見える場所ではなく。見えない場所で変化が起きているのだろうか。しかし、近くで鳴ったということは。自分の首元まで纏わりつき 漬けたこの氷が、新たなヒントとしてあるということだ。それに、ふと、思い出せば。ミシッという音も氷の音に近い。氷がヒント、いや、関係していのは間違いないだろう。
そう思考が辿り着き、自分の首元まで纏わりつき 漬けている氷を見る。此処に何か絶対にあるはずだと――。
――ピキッ!
――パキッ!!
――ガッ、シャーン!!!
「え、」
――氷を見た時だった。
何かが、ヒビが入って割れるような音を鳴らし、最後にはと激しく割れて崩れ去るような音が鳴り響くと共に。 体の先に当たるように風のようなモノが吹いていたのは。
そして、その事に驚き。音と風から瞬時に起きたことをよそ――いや察知して、焦った表情を浮かべ。
「嘘…、だ、ろ!? 」
驚きと複雑な感情で満ちた声を上げて間もなく、勢いよく吸い込まれていったのは。
「うわああああああああ――!? 」
勢いよく吸い込まれた事に更に驚いて、情けない叫び声を上げる。
――――。
暫くして、吸い込まれた先である風が吹いている以外は何も無い真っ暗闇の世界へと叩きつけられる形で辿り着き。 叩きつけられたことで痛んだ腰に手を当てながらも、そこで止まることはせず。 すぐさま思考を回し。吸い込まれる直前に起きた事等について、改めてまとめ、答えを出す。
ミシッ、ピシッ、ピキッ、パキッという音は。氷にヒビが入る音であり、ガッ、シャーンという音は氷が割れた音になる。その音が鳴っていた場所は俺の身体の先にある――いや下にか。いいや、それはどうだっていい。とにかく、身体の先や下にあった、凍っていた床らしきモノ。そして、その床らしきモノが重さに耐えきれず、徐々にヒビが入っていき、ついには激しく音を鳴らして割れた。それで、割れた先は風が吹いている以外は何も無い底なし沼のような真っ暗闇。その、真っ暗闇に俺が吸い込まれる形で落ちた。
なんだか大雑把なまとめ方となっている気がするが。答えを出すならば、これで間違いない。
あー、ああ、何故。ヒビが入り、割れたかについてだが。――それは、最もとして、俺の体重が原因で間違いないだろう。
いや、ああ、そうだ。床らしきモノは凍り付いたことによる負荷と俺の体重が重なった事で耐久性が脆くなり。 時間が経過するにつれて徐々に負荷と重さに耐えきれなくなり、割れて崩れたのだろう。
――――。
結果的には、あの場から抜け出すことができたから良かった。――が、複雑な感情で満ちてしまう。 あの時のデスゲームといい、俺の体重で崩れるなんて。
――――。
いいや、ここはポジティブに考えるとしよう。複雑に暮れていたって致し方ない。
今の俺には変える気なんてなく。これからも、増やしていく予定だから。――ちょっとばかり、健康に被害が出ない事を心の中で密かに祈りつつ。いや、祈る事すら。どうせ俺の事だから忘れるのだろうけど。
――とにかく。あの不味い展開からは打破した。突破した。抜け出した。
あとは、マスターをどうやって倒すかだが。
『「面堂」』
「――うわぁっ!? び、びっくりした…急に背後から話しかけてくるんじゃねぇよ!!! 」
突如、背後から名前を呼ばれて驚き。
反射的に素早く背後へと振り返り、名前を突如として呼んだお化け。マスターに文句を投げる。
一体、いつの間に現れ――いや、追いついたのだろうか。
いいや、マスターの事だから。すぐさま、追いつくなんて簡単な事か。
「まぁ、それは さて置いて。お化けは霊体だから物理は効かないし、夢すらマスターの思う通り。 ……どうやって倒そうか」
思考を戻して。どうやってマスターを倒すか。いいや、倒せるかを考える。
マスターもお化けであるのは、見るだけでわかるから。お化け=霊体であることは間違いない。 霊体は物理攻撃が効かない。とはいえ、電気とか纏えれば、物理攻撃でも効くようになるという、とんでもない作りにはなっているが。此処に電気とかは無く。物理が効かないのであれば、魔法や術で対処が基本だが、マスターが無効化している以上は魔法や術は使えない。それならば、物理でも魔法や術でもない精神攻撃をすればいいという話になるが。奴はデスゲームのマスターだ。デスゲームを行えるのだから、俺程度の力や言葉では精神攻撃は効かないであろう。――もうどうしようもない。ゲームやフィクションで表すのならば、完全に積んでいる。それが嫌に似合う状況と状態であり、とんでもない強敵。
こうやって、改めて考え。状況と状態等を分析してみれば。
不味い展開であることには変わりない。せめて、元関係者で魔法や術が使えている彩舞がいれば。もう少し、不味さも和らいだだろうが。無いものに縋ったところでどうしようもない。とりあえず、面倒には面倒で。――いや、それすらもどうか。
『「悩んでいるようだな、面堂」』
「ああ、お陰様でな。なぁ、もう少しさ。いや、そっちにハンデを付けてくれないか? いくらデスゲームだの、夢の中だの、こっちにとって不利な状況と状態すぎる」
思考し悩んでいる姿に何を思ったのか、――いや、嘲笑いに来たのか。マスターは淡々と話しかけてくる。 それに対し、交渉するかのように状況と状態を緩和しろと返すが。
『「難しい話だな。この世界は簡単に甘くはない」』
「甘くなさすぎだろ。もう少し柔軟にしたらどうだ? これじゃあ、満足に復讐劇を行えないと思うぜ、俺は」
世の中は甘くないという理由に緩和する気はないと告げられる。
しかし、そう告げられて。今の俺に諦める気はない。
冗談交じりに、そんなに甘くないままだと。甘くなさ過ぎて満足に復讐劇が行えないのではと煽る。
『「柔軟…か。柔軟になれば、色は戻ってきてくれるのだろうか……」』
すると、何か心にでも響いたのか。
柔軟になれば、彩舞は自分の元に戻ってくるのだろうかと何処か弱弱しい声音で呟きながら、考え始める。
冗談交じりの煽りで、少し様子が変わったマスターの姿に。
彩舞に関しては、何か思い入れがあったのか。
それとも復讐劇を行う際、俺が思っている以上に能力が優秀だったのだろうか。
そう、思うと同時に。これはチャンスかもしれないと感じる。
精神攻撃は効かないと思っていたが、どうやら効いているらしいので。
続けて、また冗談交じりに煽る言葉を放つ。
「あー、彩舞? 戻ってきてくれるかは分からないが。柔軟だったら、互いに裏切ることは無かったんじゃねぇと思うぜ」
『「そうか…。色…、色さえ戻ってきてくれれば…全て元通り、上手く……、」』
続けて放てば、また少し様子が変わり。何か思いついたのか、何処か歪み、何処か喜びに満ちる声音で呟く。 よし、このままいけば。マスターを倒せるかもしれない。次なる冗談交じりの煽りを放つとしよう。 そう勝利の可能性に心が少し弾みながら、次なるものを放つため、口を開こうと――、した時だった。
『「しかし…、ただ柔軟になるだけでは。色を引き留めることはできない。
それならば、奪ってしまおう。傷をつけてしまおう。そうすれば、失望と痛み、同情と共感、慈悲と諦観で…。 ずっと傍にいてくれる。もう、裏切るようなことはしない。俺をずっと支えてくれる。俺を、俺の心を護ってくれるッ! 」』
「あ? 」
『「とはいえ…、都合よく動いてくれるような者じゃない。少しずつ、少しずつで、削っていこう。 俺を見てくれるまで。いや…、ずっと永遠に俺の味方であると心から誓ってくれるまでッ!!! 」』
「お、おい…、どうしたマスター? なんか、やばい感じがするんだが…気のせいか? 」
――マスターの様子が少しどころか、急変したと思えるほどに大きく変わった。
何処か狂気的にも、猟奇的にも感じさせる声音で聞き取れないほど素早く呟きながら。 くるくるとその場で回転している。
先程とは違い、様子が大きく変わったマスターの姿に。驚きと怯え、少しの心配が混じり、声をかけるが。 こちらに答えることなく。そもそも、こちらを見向きもしない。
一体、マスターはどうしたというのか。少しの変わりようなら、こちらもなんとなく察せるものだが。 此処まで変わると、最も理解ある親しい者でない限り。察せない。 ただ、このままでは。不味いも超えた展開になることは間違いないというのだけはわかる。
しかし、どうすればいい。
過去にも色々とあって、危険思考を持った面倒な相手とも接してきたことはあったが。 ここまでは流石に。対処が分からない。面倒のレベルが違いすぎる。本当にどうすれば――。
そう、思った矢先の事。
突如、マスターは回転するのをぴたりとやめて、こちらに背を向ける形で立ち止まる。
その様子に今度はなんだ、と警戒していると――、
『「――ずっと、永遠に、永久に、来世でも、別次元でも、別世界だろうと。俺の味方であると心から誓ってね。色」』
やけに甘えた幼い声で呟いた。
そして、呟いたと同時に。これまた突如として、真っ暗闇な景色から白銀のような世界へと発光する形で変わっていく。 その急な視界の移り変わりの眩しさに、驚き、防ごうと、反射的に目を瞑る。
だが、瞑ったせいか、マスターのせいか、それとも――、原因やきっかけは、いいや、何も分からないが。 意識が飛んだ。
―――
――――。
―――。
――。
「…う、あぁ…、此処は? 」
目が覚めると、白とも灰色とも捉えられる床らしきモノが映り込み。
もう少し、此処が何処で、現状はどうなっているのかを把握しようと起き上がり、まずは目の前に映った景色を見る。
目の前には、いいや、目の前にある壁にはモニターが設置されており、モニターの画面にはクリアと表示されていた。
「……もしかして、俺。目覚めたのか? それと、クリアできたのか? 」
壁に設置されていたモニターを見て、此処が本当のデスゲーム会場であることに気がつき。 またモニターの画面にはクリアと表示がされていたことから、死択とかいうとんでもないデスゲームをクリアできたのかもしれない。――いや、よく見れば。モニターの下に大きな穴が開いており。もっと、よく見れば、穴は階段となっており、下ではあるが先に続く道となっているようで。目覚める前は無かったことを思い出せば、これを見るに、今回のデスゲームは本当にクリアしたと分かった。
「ああ…、何も面倒事にならなくてよかったぜ」
夢から目覚めた事、死択をどれも選ばないでクリアできたことに安堵する。
今思えば、仮にあのまま、夢から目覚めず。自分を取り戻さず。氷結を選んでいれば。 俺が最も嫌いとする面倒で最悪な結末になっていたに違いない。 平穏に、怠慢になんて、過ごせなかったはずだ。
そう思い、そう思い直せば直すほど、自分を取り戻すことを教えてくれた彩舞達に感謝しきれない思いが駆け巡る。 そして、真の英雄等は彩舞達なのであると辿り着く。
俺は英雄等にはなれなかったどころか、何にもならず自分らしく活動することを選んでしまった、ただの面倒な普通のお化けだが。 そんな面倒な普通のお化けである俺に教えてくれた彩舞達こそが、本当の英雄、勇者、救世主等といった輝かしい希望の存在なのだと思う。自分らしく活動しても、面倒事に迷い込んでいる者を見捨てず、助けて、教えてくれる。
――それこそが真の英雄等であると。
「…ああ、誰かなんと言うと。彩舞達は、いい奴らだ。……まぁ、だからこそなんだが」
それと、もう一つ。思うことがある。
それは、突如として俺が倒れ、眠りについていた事に関して。ショック等をしているのではないかと。
真の英雄等であるからこそ、特に彩舞は。
俺が倒れ、眠りについたことにショック等を受け、傷つき、悲観的な思考に陥っている可能性が高い。 俺という存在を見捨てずに助け、教えてくれるほど善の心を持っているんだ。ショック等をしていないはずがない。 それに自分らしく活動する者こそ、繊細で感受性が高く強かったりする。自分自身を責めていないといいのだが――。
彩舞達の心と思考の状態が心配になり、眠りにつく前に立っていたであろう周辺を見渡す。
「…あれ? 」
しかし、周辺どころか。この空間の何処にもいない。
――いや、いないということは。もしかしたら、階段が出現したことで先に進んだのかもしれない。
正直、眠りについてから、どのくらい時間が経過して。どのタイミングで階段が出現したのか分からない。 だから、もしかしたら、階段が出現した後。先に進んだのかもしれないと思い、もう一度、いや、今度は耳の器官を澄まして、聞こえてくる音を確かめる。
すると、階段の先から複数の声が聞こえてきて。彩舞達は階段を降りて、先に進んだのだと確信し。 彩舞達の心の状態を確かめるためと、自分が無事であることを伝えるため、また自分も先に進むために階段を降りる。
降りていくと、少し灰色がかった空間へと辿り着き。
そこには――、
「いやぁ~、あの町のスイーツは格別でしたよ」
「あのお店は、どれもデザインが素敵だったねぇ」
「脱出したら、たくさん遊びたいなぁ~」
「俺様、物作りに関しては自身がある方だから、任せておけ」
「じゃあ、これで決まりだね! あっ、そういえば。実はね、あの場所に…」
自分の心配など一切する素振りもなく、自分の存在やデスゲームの事など完全に忘れているような様子で。 和気あいあいと、とても楽しそうに、呑気に雑談をしている彩舞達の姿があった――。
「――ッ、おい…、お…、くっ。お、――おい!呑気に雑談しているんじゃねぇッ!!! 」
「あっ、おはようございます。面堂さん」
「随分と感情的な お目覚めで戻ってきましたねぇ」
「おかえり~ 面倒な面堂」
「遅いぞ、面堂。もう二時間も過ぎている」
「目覚めたんだね。まぁ、それよりも。このルートについてなんだけど…」
「少しは心配をしろッ!!!危機感を持てッ!!!お前らッ!!! 」
「「「いや、面堂には」」」
「「いや、面堂さんには」」
「言われたくありません」
「言われたくはねぇよ」
「言われたくないんだけど」
「言われたくない」
「言われたくはないですね」
「ぐっ…、い、いや、そうかもしれねぇけどよォ……、」
自分の事は勿論、あまりの呑気さと危機感の無さに苛立ち、叫ぶように制止をかけるが。 相手の事を言える立場ではないと返され、逆に言葉が詰まってしまう。
確かに、自分自身。振り返れば、危機感をあまり持っていなかったかもしれない。
そもそも、今現在は。俺が一番に迷惑をかけている。――いいや、彩舞達は俺の事など何一つ、心配していない。 それに加え、彩舞などは元関係者だからこそ。マスターやデスゲームの危険性を理解しているはずなのに。 あれほど、気を付けた方がいいと言っておきながら。――ああ、いや、とにかく。此処はデスゲームなのに。
いつ、死が訪れるか分からないというのに。呑気に雑談するなんて、危機感が無さすぎる。
「此処はデスゲームだぞ。デスゲーム。 それなのに、この危機感の無さ…、」
「まぁ、いいじゃないですか。死択とかいう、複雑な選択ゲームはクリアできたのですから」
「そうだけどよォ…、少しはさぁ」
苛立ち、そして呆れが加わった感情で此処がデスゲームという危険な場所であることは変わりないと。 それなのに危機感が無さすぎると雑談を制止する形で、改めて指摘を入れるが。 彩舞はクリアできたのだから問題ないと軽く考えている様で。あんまりなその様には、苛立ちが冷めていき。 代わりに呆れが大きくなっていく。あれだけ、生存がどうのこうのと言っておいて――。
だが、どれだけ危機感の無さを指摘しようが。冷めた目で見ようが。呆れに満ちても、無駄なのか。 彩舞は俺の気持ちとは違い、――いや、読み取った上でからかうように笑う。
「あれ?そこまで言うってことは。
そんなに自分が心配されていない事にショックだったのですか? 」
「ちが…、くはねぇけど。とにかく、もう少し自他ともに大切にしてくれ……」
「はいはい。
…まぁ、お互い様って事で。今回は流しましょう。こちらが伝え忘れていたことも含めてね」
「お互い様ねぇ…、」
「面倒事は嫌いでしょう? 」
お互い、これ以上の面倒事にはしたくないはずだと。それならば、曖昧にして。さっさと次に進もうと。
「…はぁ。まぁ、それもそうだな」
彩舞の言う通り、俺は面倒事など嫌いな方だ。
だから、危機感の無さに対して、反省する気もない彩舞達に何をしようが無駄なのも含めて。 これ以上の面倒事になる前に、さっさと進んだ方が確かにいいと判断して。それもそうだと受け入れる返事をし。 それ以上の言葉は何も言わず、諦め、忘れることにした。
――――。
――だが、どんなにさっさと進んだ方がいいと判断しても。伝えるべきことを忘れることはしない。 いや、どんな判断をしても。今、此処で伝えた方がいい。
「じゃあ、全員、揃ったことですし。次のデスゲームをどうやってクリアするかについて話を…、」
「――その前に。御礼をさせてはくれないか? 」
先に進もうかと話をする彩舞を横に入る形で止めて、御礼をさせてほしいと伝える。
「…御礼? 」
身に覚えがないのか。――いや、身に覚えがなくとも仕方ないことか。
御礼をさせてほしいという俺の言葉に。何のことだ、と。疑問符を浮かべる彩舞。そして、不思議そうにこちらを見つめる染焼達。
「ああ、そう、御礼をな。…まぁ、その、なんだ、」
何故、御礼をさせてほしいと言ったのか。
それを説明しようと――するが、段々と照れがやってくる。
普段、こういったことをしないせいか。説明するのにすら、照れが入り、上手く口を動かすことができない。 言葉が途切れ途切れになってしまう。
しかし、暫くして。
このままでは。伝えきれないと思い。
一度、深呼吸をして照れを少し抑え、御礼を伝えることに集中する。
「お、俺は…、お前さん達に助けられて教えられたんだ。夢の中で」
「夢…、助けられ、教えられた? 」
「ああ、にわかには信じ難いだろうけど。夢の中でも、デスゲームや死択があってな。 それで、まぁ。どうすればいいのか、迷った時。お前さん達の声が聞こえて、どうすればいいのか助けてもらった。教えてもらったんだ」
「…………」
「お陰で俺は、死択を選ばないことができた。…いいや、それだけじゃない。
俺は更なる面倒な存在である自分らしさを取り戻すことができた。過去や相手という面倒なモノを捨てることができた。 俺は、お前さん達がいなければ。あのまま、夢や眠りから目覚めなかった。決意が目覚めなかった」
「…………」
「……彩舞、染焼、斬堵睹、月聡、明楼。俺を助けてくれて。俺に教えてくれて、ありがとうな。心から感謝するぜ」
――――。
よかった。最後まで御礼を伝えきれた。照れに打ち勝てた。
しかし、彩舞達の反応は何一つ、帰ってこない。無言のまま。
もしかして、伝えきれても。伝わってはいないのだろうか。もしくは、照れて――いや、それは流石にないか。
とにかく、とりあえず、相手の立場になって考えてみれば。
反応が無いということは――つまり、御礼という名の俺の押しつけが強い一方的な感情ということにもなる。 それならば、俺は――申し訳ないことした。
世の中には御礼をされても嬉しくない。逆に面倒に感じることや、迷惑となる者もいる。 だから、もしかしたら俺は。いや、この何の反応も無い様子を見るに。御礼を伝えるべきではなかった――。
「――いや、そこまで深く考えなくていいですよ。ただ何もなんとも思っていないだけですから」
不味いことをしてしまったと反省と自責をする俺に対し。
俺が考えていることは全て外れだと、実際は何とも思っていないと軽く答えを口にする。
反応が無い=何とも思っていないだけということに口が開くほど驚き。
どうして、何とも思っていないのかが意味が分からず、疑問符が浮かんでいく。
だが、その疑問符はすぐに撃ち落とされる。
「助けや教えた覚えもないからです。だから、実感がなくて。御礼を言われても、何とも思わない。へー、あっそ。で、終わるだけです」
助けたことや教えたことに覚えがないからこそ、実感ができず、何とも思わない――という答えに。
一気に照れが消えていく。その代わりに、複雑な気持ちが積まれていく。
まさか、覚えがないからこそ、実感できなかった結果、反応が何一つないとなるとは。 腑に落ちたような、安心したような、寂しいような、複雑な気持ちだ。
しかし、悪いようには捉えられておらず。面倒な事にもなっていない。
結果は良い。――というか、もう。御礼を伝えきったと判断されたのか。改めて、次のデスゲームについて話を進めようとしている。
そんな軽く自由な彩舞達の姿に。
別に御礼を言う必要はなかったかもしれないと思うと同時に、結果的には良かったからいいか、と判断し。 気を取り直して、忘れることにした。
考えていても、無駄で面倒なだけだから――。
――――。
「え? 」
そう忘れて。彩舞達の話に加わろうとした時の事だった――、
彩舞が被っていた顔隠しの布が燃やされ塵となって、腹部の左側が削れるように抉られて、右側は じりじりと音を鳴らして焼け爛れて、両手が粉となって小さな光と共に完全に消えてしまったのは。
「彩舞…? 」
「色ッ…! 」
「「色!? 」」
「色さん…! 」
「…………」
彩舞は何も言わず、その場で 目を大きく見開いて、じっと立ち尽くしている。
突如として起きた衝撃と痛みに動揺し、思考と口が回らないのかもしれない。
いや、それならば。俺達までもが動揺して立ったままなのは駄目だ。
早く、傷を。どうにかして、治療をしなければ。――だけど、何故。彩舞が?
どうして、こんなことに――?
『「――選ばないというのであれば、その分。死のカウントとなる損害、代償、犠牲、生贄は受けてもらおう」』
『「都合よく動いてくれるような者じゃない。少しずつ、少しずつで、削っていこう。 俺を見てくれるまで。いや…、ずっと永遠に俺の味方であると心から誓ってくれるまでッ!!! 」』
「――はっ!」
疑問に答えるように、脳内にマスターの声が鳴り響いた。
鳴り響いた事により、どうしてこんなことになったのかを理解する。
これは、マスターの目覚めた決意によるモノだと。
死択を選ばなかったことによる、損害、代償、犠牲、生贄なのだと。
俺は四択の方の死択ではなく、選ばない事で起きる損害、代償、犠牲、生贄の四つの死を含んだ選択を選んでしまったのだと。
これが、本当の死択であることに――。
「そ、んな…、嘘、だろ、そんな、俺は…、俺が、」
本当に遅い後悔と罪悪感に満ちる。
自分の選択で、助けてくれた、教えてくれた者を傷つけしまうとは――。
だが、後悔と罪悪感に満ちているのは俺だけじゃなかった――いや、最も後悔と罪悪感に満ちているのは。
誰よりも強く自責しているのは。
「俺が…、選ばない方がいいって言うから、色さんが酷い目に……! 」
明楼だった――。
「俺のせいで…、また、俺のせいで……、うぅ、俺はやっぱり誰も救えない…ん、だ…」
「明楼…、」
「結局、俺は皆を傷つけてばかり。ただのトラブルメーカーでしかない……、」
「…いや、明楼のせいじゃない。最終的に決めて選んだのは俺だ。だから、明楼の…」
「ううん…、俺のせい。俺のせいなんだ。俺のせいなんだよ、面堂さん」
明楼は自分のせいで救えない選択と結末になってしまったと自責を続ける。
何度、いや、それは違うと。明楼のせいではないと、最終的に決めて選んだ俺のせいだと否定をしても。 逆に俺のせいではないと否定を返すほどに。
そんな様子の俺達を見兼ねてか、染焼が少し声を荒げながらも更なる否定を重ねる。
「――煉瓦と面堂のせいじゃねェ。全部、理不尽極まりないマスターのせいだろ。 それに今は自責し合っている場合じゃない。色の手当てが先だ」
明楼と俺のせいではない。マスターのせいだと。
そして、自責や否定をしている場合ではない、彩舞の傷などを治すのが優先だと。
――確かに、今は彩舞が優先だ。
なんとか、自責の念を腹の奥底へとしまい込み。気を持ち直して、早く彩舞の傷をどうにかしなくてはと考える。
今、此処に手当てや治療できるようなモノは無く。代わりになるようなモノさえ無い。 魔法や術が使えていれば、荒治療にはなるかもしれないが、なんとかなったかもしれないが。 いいや、ないものねだりしたところで。どうしようもない。とにかく、彩舞の命を繋ぎ止めなければ――。
「……いや、何もしないでください」
「は? 」
「何を言って…、」
「このまま、あと数秒、待てば、この状態なら、……よしっ、カウントが入って出た、開いた。これで、先に進めますね」
「おい、待て。動くな、動いたら余計に…、」
「何もしないで、と言ったでしょう? 余計なお世話です。独善を押し付けないでください」
――だが、彩舞本人に何もするなと止められ、断られる。
何故、断る――いや、たとえ独善扱いされたとしても。今すぐ、此処でなんとかしなければ。彩舞の命は危ない。 傷の深さ的に、いいや、デスゲームもせずに死のカウントが入り、扉が出現して開いたということは。 それほどまで身体が危険な状態になっていることを示している。彩舞の命が残り少ないことを改めて知らせている。 だから、此処でなんとかしなければ。助けなければ。救わなければいけない。
勝手に扉の先へと進もうとする彩舞の背に手を伸ばして。それ以上、動くなと止めに入る。
――しかし、
今度は優しく振り払われる。
「たとえ、新しい傷が塗り重ねられたとしても。今更、治療したところで。私の傷は回復すらしないんですよ。 …あ、いや、正しくは。古い傷のせいで、古い傷に引っ張られて、新しい傷が回復すらできないほど。 耐えきれないのです」
「――――」
「だから、何もしないでください。今、此処で何かすれば、より致命傷となってしまう。 だから、何もしないでください。余計に病んで考え込んでしまいますから」
もうどうにもならないのだと。助けることすら、不可能だと――。
彩舞本人の口から、どうにもならないと告げられて。思わず、言葉を失い。伸ばしていた手を下げる。
助けられない。
そんな、酷く理不尽な現実に。過去に起きた事をいくつか思い出し、心まで重く沈んでいく。 そして、今までの言動を振り返り。俺は彩舞に無理をさせていたことに気がつく。 知らなかったとはいえ、常に危険な状態の身を振り回して。頼りにしていたなんて。酷いにも程がある。
自責だけじゃ足りない。だけど、いくら自責以上の事をしたところで遅く、現実はどうにもならない。
何故、こんなにも現実は理不尽で面倒なのか。
どうして、彩舞だけがこんな目に遭わなければならない。
彩舞が何をした? たとえ、何かしていたとしても。流石に厳罰が行き過ぎている。 少なくとも、短いながらも俺は。俺達にとっては、彩舞は救世主で。面白いお化けだ。 そこまで、厳罰的にやる必要はあるのか――。
「…あの、深く考えるなって言ったはずなのですが? 」
「いてっ!? お、おい…、急に腕を強く叩くなよ…」
何故――、と考え込んでいれば。彩舞に腕を思い切り、強く叩かれ、呆れられる。 あまりの痛さと衝撃に驚き、何をするんだと返す、
が。
「…って、あれ? 待て、いや、それは…、」
もっと、驚くようなモノが視界に はっきりと映り込み。言葉が詰まる。
そして、
「ああ、これですか? 無数の黒い手の一部です。流石に両手が無いと不便ですからねぇ」
「――――」
驚くようなモノの正体と活用方法を軽く説明した彩舞の姿に言葉が何も出なくなった。
まさか、失った両手の代わりに。自身の魔法の一つである、無数の黒い手を選んで活用するとは――。 いや、それはそれで問題だ。無数の黒い手=魔法を手として活用させる、扱うということは。 ずっと魔法を出し続けることになる。とても負荷が大きい事をやるということ。 つまり、傷ついた身体を更に負担をかけるという、自ら致命傷を与える行為をやっているということだ。
「お、おい、お前…、それは……、」
「あっ、そうそう。今更ですが、両手に関しては。とうの昔に壊死していますし。 無数の黒い手がある以上は、代わりが効くんですよ。だから、大丈夫ですよ」
「いや、そうじゃなくってだな……、」
「ああ、すみません。矛盾や嘘みたいになってしまいましたね」
「いや、だから!そっちじゃなくて、魔法を手にすることが問題なの!!! 」
慌てて、魔法を手の代わりにするのは やめておけと制止をかける。
色々と突っ込んでいきたいところはあるが、自ら致命傷を与える行為をするのは流石に駄目だ。 今すぐは無理かもしれないが、もっと負担の少ない、ちゃんとした器具で補うべきだ。
――と、そう真っ直ぐに伝えても。
「私がいいんですから、いいんですよ。大体、貴方は私自身でもないのに憶測しすぎです」
「だ、だが…、」
「もう、大丈夫ですってばっ! 自分の身に一番、何が負担の少ない事なのか。合うのかくらい理解していますから。 余計な独善を押し付けないでください。心配するくらいなら、前衛をやるなり、これ以上のダメージを受けさせないように行動してください」
「なっ、なんだと…!? 」
俺の心配をよそに。
自分は大丈夫だからと、捲し立てようとするばかりで。
最後には、心配するのであれば、これ以上のダメージを受けさせない方法や行動を取れと言う。
なんてこった。
此処まで、心配する者の心を蔑ろにするなんて――、
「もういい!わかったよ、何もしない!お前の勝手にすればいい!!! 」
彩舞のいい加減な態度と言動に腹が立ち。
勝手にしろ、と苛立ちのままに叫ぶ。
すると、叫びを聞いた彩舞は
「言いましたね。これで成立ですね。貴方は私を助けることはしない。死択によって出たこの結末に自責はしないと」
「…は? 」
何処か勝ち誇った顔で嘲笑う。
その意図が分からず、疑問符を浮かべていると。
「やったぜ、皆さん。これで、もう面堂さんは面倒な自責をしませんよ! 」
「え? 」
勝利を手にしたように、今度は少しのけぞりながら、歓喜に満ちた声で大きく笑う。
何故、笑うのか。全くもって意図が分からない。
さっきのいい加減な態度と言動とは違い、何か意味でもあるのか。
そう、疑問符が尽きないでいると。答えを説明するように、何処か呆れた表情と声音で続けさまに。
「あーあ、罠にまんまと嵌められちゃったね」
「あーあ、策にまんまと乗せられちゃったね」
「馬鹿かよ、テメェ」
「これで、もう面堂さんは色さんに対して責任を感じる必要はなくなっちゃったね」
月聡達がそれぞれ口にする。
心配しない=自責はしない。彩舞の事で自分を責め立てることや後悔、罪悪感を抱くことはしないと。 自らの口で約束をしてしまった。宣言してしまったと。彩舞に、遠回しにまた助けられてしまったのだと――。
「…おい、待て。つまり、俺は」
「フフフッ…、自責するなど。千三十一年、早いのですよ」
「マ、マジ、かよ…いや、そんなっ…、」
自分の弱さに呆れと失望が混じる。
腹を立たせることで後悔や罪悪感を払い、自責を止めさせるという彩舞の遠回しな助け、気遣いに。 まんまと引っ掛かて、一瞬でも腹が立つあまりに後悔と罪悪感を忘れ、自責をやめてしまった自分が情けない。 そして、後悔と罪悪感で自責をする自分の姿で。彩舞を悲しませ、精神的苦痛を与えてしまった自分に呆れてしまう。
彩舞自身は失った事等に多少なり、ショックを受けてはいるものの。更なる負担がかかり致命傷になるとしても――いや、言葉は少ないが経験上から大丈夫だと話しているあたり、気に病んではいない。思い返せば、むしろ、気が軽くなり、喜んでいるようにも見える。
そんな気に病んでもいない彩舞とは違い、俺は後悔と罪悪感から自責をしていた。 それを見た彩舞は悲しみ、精神的苦痛を味わったのだろう。
傷等をつけたのはマスターだというのに。こちらは気に病んでもいないのに。自分のせいだと、後悔と罪悪感を抱き。 深く、傷ついてしまっている姿に悲しみ。俺と同じように自分のせいで――いや、彩舞の場合はマスターも入っているかもしれないが。傷ついている姿に悲しんだ結果、彩舞も自責という精神的苦痛を味わい。どうにかして、自責を止めさせようと考えた結果、腹を立たせるという遠回しな助けと気遣いをしたのだ。
「はぁ…、そんな……いや、分かっている。自責は互いを面倒にさせるだけだ」
助けた相手を何度も傷つけ、また助けてもらうという不甲斐ない自分が本当に情けないが。 此処でまた自責をすれば、また同じような展開に戻ってしまう。互いに傷つけあうという面倒を与える。 前にも先にも進めない。相手という縛られる振り出しに戻ってしまうだけ。 だから、今度は一瞬ではなく。完全に忘れる形で後悔と罪悪感を抱くのを止め、自責することも止めよう。
深呼吸を一つして心を落ち着かせ。
もう大丈夫だと、安心させるために。ありがとうと、感謝の気持ちを伝えるために。 わざと、からかう言葉を彩舞に送る。
「…まぁ、そうだよな。よくよく考えてみれば、危険な事をするくらいに心身ともに図太い奴だし。 心配する必要も、俺が自分を責め立てる必要もなかったな。はぁ、マジで時間の無駄だったぜ」
「なんか、嫌な言い方ですね…でも、改めてこれで、要らぬ独善と面倒が消えたので良しとしましょう。 では、面堂さん。前に立って、危険物…いえ、怪しいものを自ら踏んで、危険か安全か、確かめてください」
「はぁ? 嫌に決まっているだろ。面倒な事や役目は御免だ。染焼にやってもらえよ」
「なんで、俺様だよ。…まぁ、色の役に立つなら、別にいいけどォ。それに俺様は面堂とは違って、だらしなくはね」
「それで、この先のデスゲームは流石に権利の決まった選択式じゃないよな? 」
「――振ったんなら、最後まで俺様の台詞を聞けよ」
それと、ちょっとばかり。染焼に話を振って、重苦しかった空気を少し軽快な雰囲気へと変える。 ああ、ただ、振った割には最後まで台詞を聞かなったことに不満を抱かせてしまったようだが。 染焼の不満なんて誤差だ。面倒事にはならない。
これで、俺の後悔と罪悪感。自責は止んだ。
「-―――」
残るは――、
「……? どうしたの? そんなに俺を見つめて」
「いや、俺だけじゃなく。お前も止めるべきだと思ってな」
――明楼のみ。
あえて、名前を出さなかったが。
明楼も――、いや、俺以上に自責をしていた。
無理にとは言わない。同じようにしろとも押し付けない。それぞれ、感じている度合いは違う。 だから、止められるのなら。いや、控えられるのなら。 今は、デスゲームをクリアして、この理不尽で面倒な世界から脱出することだけを考えてほしいと願う。
「明楼…、その…、俺が言うのもなんだが。彩舞は気に病んでないみたいだし、放置しても大丈夫そうだ」
「面堂さん……」
「ああ、面倒なら。面倒でいいんだ。
ただ今は、こんな理不尽極まりない面倒な世界から脱出する事を。前に置いておいてほしいだけ。それだけだ」
「……うん。そうだね。いつまでも後悔には浸っていられないよね。全部、クリアして脱出しよう! 」
――願いは通じたみたいだ。
いや、正確にはどうにか、だ。
まだ何処か仄暗い雰囲気を声音と微笑みから感じるから。明楼は完全に自責を止めたわけでも、忘れたわけでもないのだろう。
目の前で傷つけられた上、俺とは違うんだ。無理もないし、致し方ない。
それでも、前には進んでくれたんだ。これ以上の自責をさせないためにも、強くは求めず、願いの上乗せはしないでおこう。
誰だって、理想の英雄像という面倒事を押し付けられるのは嫌だからな――。
―――
――――。
深層心理というものなのだろうか。
両手が失う等をする寸前、頭の中で声が響いたような気がした――。
『「――選ばないというのであれば、その分。死のカウントとなる損害、代償、犠牲、生贄は受けてもらおう」』
『「都合よく動いてくれるような者じゃない。少しずつ、少しずつで、削っていこう。 俺を見てくれるまで。いや…、ずっと永遠に俺の味方であると心から誓ってくれるまでッ!!! 」』
『「――ずっと、永遠に、永久に、来世でも、別次元でも、別世界だろうと。俺の味方であると心から誓ってね。色」』
寂しそうで、甘えたような、そんな声で求めるほど。
彼は――、気に病んでいたのだろうか。自分を裏切ることを恐れているのだろうか。
表向きは裏切ったとしても、本当の意味では裏切ることはないというのに。
自分の事まで懐疑的なのか――。
――――。
――いや、そもそも。一応、自分の手を治そうとはしてくれた者だ。
わざわざ、しかもこんな突発的に傷つけはしない。失わせはしない。もっと、計画的にやるはず。 いいや、それとも。突発的になるほど、精神的に――いや、違う。そうだとしても。何だとしても。
どんなに裏切ったとしても。どんなに裏切られたとしても。あれほど、復讐劇に固執しても。
「生存率までは削らないはずだし。生存率は、デスゲームを盛り上げるための作り物でしかないはず。 というか、そもそも…。あの声は、彗亜さんのモノではない。別の声。誰かが真似して演じた声だ」
響いた声に混ざって、遠くの方で微かに聞こえた、『「残りの生存率、38%」』というのは。 明らかに彼の声ではない。
第一、彼は生存率を削り取るような者ではない。
そもそも、頭の中に響いた声は彼ではない。誰かが真似て演じたもの。
――それならば、今、マスターをやっているのは誰だ。
それに、思い出してみれば。振り返ってみれば。可能性を考えてみれば。
何かが違う。何かが変わっている。何かがズレている。
何かが、入れかわって。何者かが、奪い取っている。
デスゲーム自体を塗り変えて、結末をもっと最悪なモノに変えた――?
――――。
「……いや、流石にそれは無いか。流石にカオスというか、ファンタジーすぎますかね」
深く考えすぎかもしれない。
いくら、この世界がファンタジーとはいえ。流石に此処までない。
創作等のフィクション作品でもないのに。ありえないだろう。
きっと、気のせいだ。きっと、疲れているんだ。だから、幻聴として聞こえたんだ。
――――。
――なんだか、余計に疲れてしまった気がする。
もう完全に忘れて、これ以上の事は何も考えないようにしよう。
心身共にストレスで強い痛みを引いて感じることになるから。
さて、更なる面倒な存在である目覚めた決意=自分らしさを再び曇らせないように。 眠りへと引き込まれないように。目の前で死なないように。自分が適度に救ってあげなければ。
いや、自分が救う必要はないのかもしれないけど。それに自分は英雄ではない。英雄などにはなれないけれど。 それでも、せめて、道化師として、支援を担当する自分が。この手で――いや、新たな手で導いて繋ごう。
「さあ、次はどんなデスゲームですかねぇ? 」
余程、嫌いで殺意を抱く相手でもない限り。目の前で泣かれたら、放置なんて、自分には出来ないから。 手で導いて、手を繋ぐことしか、できないから。
こんな弱った身体じゃ、もう盾にもなれないから。




