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【どうせ、死んでしまうんだからな!】

「皆様、お待たせしましたー!心配かけてゴメンなさぁーい! 」


「…その様子だと、心配する必要はなかったみたいだな。はぁ、なんか損したぜ」


「確かにな。でもまぁ、無事で何よりだよ。

元の顔色より、更に青白く…いや、顔面蒼白になっていた時は。死んだのかと思ったからな」


「最初の死者が一依さんになってしまったと思い込み、恐怖と困惑に落ちるほどでしたからね」


「なーんだ、元気なんじゃん。せっかく、一依が身に着けている装飾を高額で売ろうと思ってたのに」


「夢玖に同じくだよ。僕も一依の角を高額販売しようと考えていたのに。これじゃあ、大損だよ」


「ちょっと、そこの高額販売しようとしたお二人さん。その話、脱出したら詳しく聞きましょうか」


一依の復活にそれぞれ似たような反応をしながら、心では安堵する。

断刈がぶつかった衝撃で扉が開き、慌てて空間内へと入り込んでみたら。なんと、真っ暗闇の空間の中。気を失ったのか、一依が元の顔色よりも顔面蒼白で瞼を閉じたまま倒れているという状況であったのだから。それに加え、急いで駆け寄って、弱点である角を叩いてみても。なかなか目覚めず、息を小さく吐いているだけで。もう死んでしまうのではないかと恐怖と困惑に陥っており、一依が空間内へと入り込んだ原因となった断刈に憎しみを抱き、特に快輝は怒鳴り散らすという大人げないことをしていたのだ。


原因とはいえ、断刈にとっては。求めてもいないのに勝手に入ってきた厄介者のせいで、とんだ迷惑をかけられたと。こっちはこっちで、憎しみと不信を抱いていた――。


『全く…、どうしてこうなるのでしょうね。まぁ、気にしていても致し方ありません。 それで、問題は解けたのですか? 』


「ああ、全部解けたけどよ」


次の空間内に行くためには、問題を解かなければならないのだが。今回に関しては死ぬ可能性があるのか分からないのと頭は全くもって悪いため、快輝達に解いてもらうこととなり、時間は少しかかったものの無事に問題は解けたようだが――、


「やっぱり、死のカウントが入らないと扉は開かないみたいだな」


問題を解いて扉は出現したものの、やはり死のカウントがされないと扉は硬く閉ざされて開かないらしく。扉に衝撃を与えても、何をしても無駄とのこと。


『先程の空間とは違うのですね。では、自分が恒例の如く。何かで…』


「させねぇよ。未遂も何もかも禁止だ」


『それじゃあ、此処で一生を過ごすことになりますよ』


別に私は構いませんがと、後に付け足して言う断刈に対し。


「誤作動でカウントさせればいい。恐らく、この辺りに装置が…あった。これだな」


誤作動でどうにかなると言うと、壁に向かってブーメランを投げ飛ばす。

すると、地響きのような音が壁の中で鳴り響き、扉がカチャっと小さく音を立てて開く。


「アンタが死なないのにカウントされる時点で、ガバガバシステムだと気がついてよォ。 だから、誤作動を起こせば。勝手に入って開いてくれると思ってな。 それと、マスターさんの性格だと。 恐らくこの辺りに装置の起動回路を仕掛けていると思ってやってみたら…、正解だったみたいだなァ? 」


片手を上げて不敵に笑い、自慢げに話す快輝。

確かにその頭の回転の速さと感覚には凄いと思うのだが。一つ、気になることがあった。


『私の未遂も含めて。数回程度しか、マスターさんの話と声を聞いていないのに。よく本質の性格が見抜けましたね』


聞き逃していなければ。ここに来るまで、マスターの話と声を聞いたのは数回程度なのは間違いない。また、いくら断刈の未遂がカウントに入っているとはいえ。それなのに、どうして本質の性格を見抜くことができるのか。余程、その筋の専門家や頭がよくない限りには。脆いシステムだとは気づかず。数回程度では、残忍極まりない復讐者としての認識しかならない。本当に頭のいいその筋の専門家であるのなら、疑心も嫉妬も抱かず、素直に褒め称えようと思う。 しかし、あれほどまで。マスターに苛立ちを見せていたのに、今となっては何とも思っていない態度をしている。――いいや、正確には。それは、まるで友人や仲間の過ちに対し、心から許しているような態度だ。普通、断刈のような者ではない限りには。マスター、デスゲームのマスターにそのような態度を取るだろうか。もしかして、マスターの正体が友人や仲間の中の誰なのかが分かったのではないかと。断刈は指摘すると同時に鎌をかける。もしも、ただ単に自分の考えすぎで。快輝が頭のいいその筋の専門家なら、答えを出すのに躊躇しないはず。しかし、自分の考えすぎではなく。本当にそうだとしたら――、答えは。



「……あー、まぁ。俺、ほら、見かけによらず。頭がいいのよ。

別にマスターの正体が誰なのかなんて…、分かっちゃいねぇ。俺は、ただ呆れ返って。何の感情も抱かなくなっただけ。まさか、マスターの正体がアイツだなんて。そんなの…、ないっての。庇うとかしてねぇから。うん」



目を泳がせ、背を向け、気まずそうな口ぶりで。明らかに図星であると、本当であると、とても分かりやすい反応を露わにしてくれた。やはり、友人か仲間の中の誰かが。マスターの正体であるのは間違いなさそうだ。


『なるほど。では、この中にマスターがいるってことですよね』


「違う!絶対にいねぇよ! テメェ、疑うのもいい加減にしろ!これ以上、疑って言うのなら、このブーメランで……」


「ああ、俺もこの中にマスターはいないと思うぜ」


疑惑の目を向ける断刈と、違うと声を荒げて飛び掛かろうとする快輝の間に入って、落ち着いた口調で否定を入れるのは彗亜だった。彗亜の否定に根拠はあるのかと断刈は尋ねると、彗亜は後ろを指さしながら――。


「ここに実物がいるわけがないだろう? 」


少し困ったように笑ったのだ。そして――、


『急展開兼ご都合展開というか。ついに、脳裏とモニターの外から出てきたんですね。マスターさん』


「ああ。直接、手を下した方が早いと思ってな。これ以上の邪魔をさせはしない。煮締那 断刈」


掠れて呆れ返った声と憎しみに満ちた不気味な声が死をかけて衝突した。




―――




『あのー、一ついいですか』


「なんだ?今更、生きたくなったか? 」


『そうではなくて……、火力低すぎません? これじゃあ、死ねないじゃないですか。もっと、火力を上げた方が……』


「――テメェ、またアドバイスしてんじゃねぇよ!巻き込まれてる、こっちの身にもなれって! 」


敵であるマスターにまたもやアドバイスを送る断刈に、すぐさま鋭く声を荒げる快輝。 七対一。正確には一対一とはいえ、火力だけじゃなくあらゆる能力面でマスターの方が遥かに優れており、魔法攻撃から避けるのに精一杯の状態。そもそも、自分達は魔法が使えない時点で不利である。それなのに、断刈は難易度を更に上げようとしている。これだから、死にたがりは――と言っている余裕も暇もなく。巨大な火の粉がこちらへと素早く向かってくる。


「お、うわぁっ。危なかった…、

これ、もしかしたら。ここまで敵意と殺意、憎悪があるんじゃ。マスターの正体はアイツじゃないかもしれないな。 疑って悪い事をしてしまった。申し訳な…っと、本当に喋る暇もねぇな! 」


「魔法も使えない今は避ける事しか…、いや、この方法なら…! 快輝!ブーメラン、貸してください! 」


「あ、えっ、いいけど…、何すんの? 」


「一か八かにはなってしまいますが。まぁ、見ていてください。成功すれば、貴方の好きなモノが見れますよ」


何か考えがあるのか。目を細め、不敵に笑う色に思わず、心が弾んでしまうが。今はそんなことに酔ってはいられない。魔法攻撃を避けながらも、色が何をするのかと見守る。


「万年筆じゃ…、砕けないか。それと、一応。念のために増やしておきましょうか。 彗亜さんはアイスピックを!綿枷さんはトランプカードを貸してください! 」


「アイスピックを…? 」

「トランプカードを…? 」


「「……ああ、そういうことか」」


「いいぜ!思う存分、使いやがれ! 」

「オーケー!思う存分に、粉々にしちゃってよ! 」


「ありがとうございます!これで……、」


一連の流れに理解できないまま、首を傾げていると。色はトランプカードをビリビリに破き、アイスピックを使って、ブーメランを破壊し始めた。 暫くして、ブーメランが面影もなく完全に粉々となり、木粉へと変わり果てる。その木粉となったブーメランとビリビリに破き紙屑となったトランプカードをかき集め、炎の中へと投げ込む――、


「――――! おい、待て!まさか…、色! 」


投げ込んだと同時に、色がしようとしていた行動と目的を理解し。不安と恐怖に満ちた声で制止をかける。――しかし、それはもう遅い。制止するのならば、ブーメランを貸してほしいと頼まれた時点でかけるべきだった。気づくべきだった。


木粉と紙屑が炎の中へ入り込んだ瞬間、凄まじい爆発音、破壊音と共に視界が白く染まった。 衝撃に耐えかねて、何処か遠くの方へと吹き飛ばされる。 吹き飛ばされた先には壁か何かあったのか。背中を酷くぶつけており、後から徐々に激しい痛みが走る。しかし、今は痛みなど気にしてはいられない。他に吹き飛ばされた仲間を――、爆風を直撃した色を探して安否を確認しなければ。だが、ぶっきらぼうで淡々とした声が生存を否定してくる。


『残念ですけど、私でもない限り。余程、豪運に恵まれていないと生存は不可能でしょう』


「――――」


『貴方も今すぐに傷口を塞いで治さないと、ここで朽ち果てますよ。致死になる出血量も流していますから。 まぁ、私には一切関係ないので。貴方を助けはしません。ここで、失礼いたします』


「――ぃ、で」


『申し訳ないですけど、最期の言葉など聞く気はありませんから』


嫌になるほど相変わらず、淡々とした口調で切り捨てる姿には酷く怒りが湧き出し、酷く憎しみを燃え上がらせる。自分か死ねるのであれば、他人の命はどうでもいいと配慮さえなく見捨てて、巻き込んで。


「――お前の、」


挙句の果てには、お世辞や社交辞令、上辺だけの謝罪すらしないで。自分の欲望のままに立ち去ろうとするなんて。 俺はともかく、大切な仲間を。色を――。


「――お前のせいで!色、一依、綿枷、夢玖、彗亜は死んだんだぞ!

色はお前の為も含めて、あんな危険な行動をしてまで救ってくれたんだぞ!

人の善意、好意、優しさを踏みにじってまで、死にたいのかよっ! 」


怒りに任せて立ち上がり、怒号を上げながら相手の胸倉を掴んで、憎悪のままに指摘し責め立てる。 たった一人の死にたがりのせいで。たった五人しかいない大切な者達を奪われて、失ってしまった。 こんなことになるのなら、生かしなんてせずに勝手に死なすか殺しておけばよかった。そう思えば思うほど、罪悪感と後悔が堪えない、怒りと憎悪が膨れ上がる、復讐心と殺意が湧き出し――、


『人を犯罪者にしてまで救おうとするのは、本当に善意で、好意で、優しさなのでしょうか? 自殺者を責め立て、自殺者を救おうとした者を英雄と崇める。理不尽ですねぇ。本当に気持ち悪い世界です』


拳を振るう前に、酷く冷たく淡々とした言葉が制止させる。

そして長く息を吐くと。続けて、今度は肯定や助長する言葉を述べる。


『復讐したいなら、復讐すればいいじゃないですか。貴方は殺すことで救われる。自分は死ぬことで救われる。 ほら、お互いにメリットしかありません。復讐したいのであれば、殺したいのであれば、やればいい』


「……それなら、お望み通りに! 」


『でも、貴方じゃ。私を殺すことも。誰かを殺すことも不可能です。

一依さんと彗亜さんと色さんは不確定ですが。綿枷さん、夢玖さんのお二人なら可能でしょう。 誰かの為ではなく、自分の為に復讐するというのであれば。本気でなかろうと、私を望み通りに殺せます』


しかし、再び淡々とした言葉で制止させ。否定を重く重ねる。

そして自分よりもこの世界の残酷さを知っているという口振りで死にたがりは別れの言葉を紡ぎ、物語る。


『――大切な身内ほど、すぐにいなくなってしまうもので、容易く裏切られてしまうものですよ。 他人は、嫌な者は、私のように何があっても生き延びてしまい。のうのうと暮らしていきます。そして、誰かの死であっても。自分にとって関係のないものなら、私のように「ふーん」や「へー」などと淡泊に流します。所詮は赤の他人。いちいち、気にしてはいられない。そういう残酷かつ冷淡で理不尽な世界だからこそ、大切な身内ほど、すぐにいなくなり、裏切られてしまうものなのです』


「――――」


『……長々と話し過ぎましたね。

私は見つかるまでは生き地獄を味わいますが。

貴方が次、生まれ変わる時には。このような生き地獄でないことを願うといいでしょう。 あとそれと、私のような者になってはいけませんよ。それでは』


掴まれていた手を解き、颯爽と次の空間内へと目指す死にたがり。

言う事だけ言って、一人で逃げようとする姿には呆れ返る。

こんなにも、融通も利かない気難しい死にたがり野郎だとは思いもしなかった。

こんなにも、直ぐに拳を振るわない一番いい方法で復讐を果たせることが思いつくとは――。


「なぁ、どうせ死ぬんだろう?それなら、俺の過去でも聞け。最期くらい【人の役に立て】」


裂けて血が滲むほど、大きく口角を上げて。先に進もうとする一歩を引き留める。

――いや、自分が死ぬまで死ぬことを許さず、延命させ続けるという、死にたがりが嫌う事の一つで復讐を果たす。


『貴方…、』


「ああ、大丈夫。俺はお前と違って、過去を話しても何の問題もないし。【よくある話】として片付けられても構わない。 だって、俺もどうせ。死んでしまうんだからな! 」


最高に、最低に、矛盾した。不気味で甲高い笑い声が死にたがりの進む道を閉ざし。 自分の過去について語り始めた――。





















「――これは、彩りも鮮やかさも全くもって無い!

表面上では気さくで律儀な真面目君。裏では陰湿な粋がり野郎の過去話だ! 」

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