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【面倒事は御免だ】

面倒事は御免だ。

面倒な、事――なんてもの。それは、誰にとっても避けたい事態である。

面倒事が発生すれば、者によっては一気に損を得て、不利益で最悪な一日になってしまう。 だから、出来る限り。面倒事は避けたい。避けて、逃げて、後回しにして、安全な位置から面倒事を見守りたい。 いや、出来るのであれば。遠く離れた場所から、あれこれと雑言を飛ばして、面倒事を娯楽の一種として観賞したい。 無関係な第三者として、ゲラゲラと大きな声でわざとらしく嗤っていたい。笑っていたいのだ。


特に、彼。

草牙里 面堂 というお化けは。


怠慢に生きたかった。逃避を繰り返して、嫌な事からは目を背け。面倒事は誰かに押し付けて、傲慢で強欲な平穏を過ごしたかった。


だから、互いに好意を抱いているが、どちらかと言えば 自分よりも愛が強い相手の事も。かつては親友のような関係を築いていた今は亡き恋敵の雪の事も。表向きは忙しい等と称して、心では面倒だと避けていた。避け続けた。逃げ続けた。後回しを繰り返してばかりいた。


――そんな彼への罰であろうか。それとも、もう避けて逃げるなよと雪に怨まれたのだろうか。後回しを繰り返したせいで間接的に――いや、原因の一つとして迷惑を、面倒事をかけられた氷による復讐という呪いだろうか。いいや、それとも。病んでしまった相手からの重い愛のプレゼントだろうか。


彼の事だ。理由は色々、あるだろう。偶然にも重なってしまったのだろう。


彼は――、デスゲームという名の避けることも、逃げることも、後回しにすることもできない面倒事を引いてしまった。


彼は――、彼自身にとっては――、思わぬ事態に困惑し冷や汗が止まらなかった。

どうして、こんな――面倒事を。面倒なのは自身の名前だけにしてくれと、御免だと、酷く利己的に溜息を吐いた。



―――



デスゲーム。

まさか、自分がデスゲームという名の面倒事に巻き込まれるなんて思いもしなかった。


幸いにも、なんとか都合よく、出会ったお化け達のお陰で今のところ、死者は出ていない。 自分自身もほとんど無傷と言っていいくらいだ。被害など、何も無い。 ただ――、流石にこのメンツは疲れるというか。下手したら、デスゲームよりも面倒というか。呆れ返ってしまう。


「はぁ…、本当にお前さんらは容赦ないというか、面倒って感じだな」


「今更なんですか? 呆れ返っている暇があるなら、貴方も手伝ってくれません? 」


「いや…、これでも手伝っているぜ。お前さんらが、気がついてないだけで」


「ほう…。具体的には? 」


「…………」


「ああ、空気にしかなっていない相手がいるなんて。実に面倒事です。ねぇ、面堂さん? 」


「一つ、文句を入れたら、百で返してくるなんて。極端だな、お前さん……」


「サボっている面倒事に言われたくはありませんよ」


その中でも、この特に彩舞 色というお化けは実に面倒で呆れ返ってしまう。

デスゲームのマスターに利用されていたくらいだから、優秀なのは間違いない。いや、ほぼ彼のお陰で助かって、デスゲームをクリアしているのだから、感謝するべき存在ではあるものの。なんだろう、若さ故なのか。それとも――いや、考える事すら面倒だ。とにかく、このお化けは。外面だけで判断してはいけない。一番に敵に回してはいけない。扱いによっては敵にも味方にもなる危ない道化師だ――。


「まぁ、【年齢】としては若いですが。ある界隈だと年寄りの方ですし。

何より、一般的な。普通な。年の取り方をしていないので。若いには当てはまらないと思いますよ? 」


「心を読むような事をするな…、怖いだろ。あと強調する必要あったか、それ…。というか、お前さんが年寄りなら俺はどうなるんだ? いや、聞いても無駄で面倒か」


「理解したのならば、自ら極度の面倒な存在になってしまう前に手伝った方がいいですよ。 面堂さんの方が確実に私より優秀なのは間違いないですから」


「…何処か重みのある言葉だな。まぁ、でも。確かにこれ以上の面倒事は御免だから、もう少し手伝ってやるぜ」


「ご協力を感謝いたしますよ、面堂さん」


「はいはい…」


だから、どうにかして。この道化師様の機嫌を損なわないように慎重に接しなければ。 これ以上の面倒事が発生しないためにも――。


「さて、何度目かのデスゲーム空間へと着きましたが、なんですか…この失礼なモノは」


「体重…、測定。つまり、この台に乗って。俺様達の体重を」


「快輝なら、「今の時代じゃ、燃え盛る可能性がある!やめておけ!」とか、言ってきそうな最低なゲームだね」


「でも、測定するだけでしょう? 別に何の問題も無くなーい? 気にしすぎー」


「いや、それが。かなりデリケートな事なんだよ。夢玖さん」


次なるデスゲームへと到着し、クリアするための条件を見てみれば。それぞれ、不満・驚愕・呆れ・疑問・心配が上がっていく。


それはそうだ。誰だって、体重の事など図りたくもないし。知りたくもないし。そもそも、出会ったばかりの相手に知られたくもないだろう。とても自然な事だ。――しかし、測定しなければ。クリアできない。不満などを口にしながらも致し方ないと皆、台の上へと乗っていく。そう、自分を除いて。


「おい、面堂。何しているんだ? はやく、乗っかれよ。恥ずかしい気持ちも分かるが、乗らないとクリアできねぇぞ? 」


「いやぁ…、まぁ、そうなんだが」


「体重が何kgとか、見なかったことにしますから。はやく測定して、次に進みましょう」


「あぁ、まぁ…その、」


皆、気持ちは分かるが早く台の上に乗れと首元を傾げるように、測定することを躊躇している自分に注目を集める。


分かっている。測定しなければいけない事くらい。クリア条件だから。

ただ、俺には一つ。危惧している事がある。それは――、もう一つのクリア条件である【指定された合計値を超えない事】。が、俺が乗った瞬間、満たずにゲームオーバーになってしまい、死者が出てしまうという恐れが。


自分以外の皆は何処から見ても適正体重か、痩せ気味程度と指定された合計値を超える心配はない。 だが、自分は。自分は、見た目からじゃ分かりづらいが肥満だ。適正体重なんて、とっくの昔にオーバーし過ぎている。 正直、今に来るまで。痩せようだなんて思った事はなかった。此処まで肥満になってしまった事に後悔したことはなかった。誰もが皆、禁忌もあってか。何も言わず、優しくしてくれたのだから――。


「何しているのー? はやく乗ってー」


「仕方ありません。面堂さん、失礼いたしますよ」


「ああ、ちょっと!?待て、押すな! まだ覚悟が!クリア、が……! 」


「はいはい。よし、これで、測定できますね」


しかし、自分が本当に心配や恐れている事に気づいていないのか。

躊躇なんぞ。いつまでも待っていられないと、待ち疲れた皆に背を力強く押されて、強制的に測定するための台の上に乗せられてしまう――。


終わった。

もう、自分は。自分達は。ゲームオーバーという、死という、合計値へと落下する――。


現実は厳しくて面倒。そして、嫌な予感や恐れはよく当たる。

自分が乗った瞬間、ビーと凄まじい音と素早く流れる謎の煙と共に空間の明かりが薄暗く変化していく。 絶望と死がどんどん近づいていく。


「え、どういうことですか…? 」


「はぁ? なんで、クリア扱いにならないんだ? 」


皆にとっては予想外の面倒事だったのか、動揺や疑問を隠せず。空間内をあちこち見渡している。 そして、消去法で原因を特定したのだろう。暫くすれば、自分に疑いの眼差しがかかる。


「面堂さん…、貴方、まさか」


「おい、面堂。テメェ…、」


「はぁ…、やっぱりな、はは」


自分が困ったように笑って答えを出せば、笑い事じゃないと視線がより鋭く強くなる。


「「全く…、これだから、」」


「面堂さんは、面倒ですねェ?」

「面堂は、本当に面堂な奴だな、おい? 」


「と、とにかく。なんとかして、此処から出ないと皆、死んじゃうよ! 」


「でも、どうやって出るんだ? 」


「面堂さん。出番ですよ、責任を取りなさい」


「……ああ、これだから面倒事は御免なんだよ」


今度は怒りの言葉に背を押されて責任を取れと、強制的に面倒事を対処することになる。 自分が招いた結果とはいえ、流石に自分一人でやるのは理不尽さを感じるが。 ここで、逃げては。道化師様が敵になってしまい、余計な面倒事が増えるので。おとなしく、どうにかこの空間を出る方法を探していく。


謎の煙が漂う、薄暗くなってしまった空間。闇雲に動くのは危険性が高い。

そして、魔法を使えるのは道化師様こと、彩舞 色のみで。魔法が使えなくとも、なんとか力技で押し通せるのが染焼と自分。そうなれば、此処を出る方法は――。


「…お前さん、黒い…手?だっけか? それ、最高でどれだけの威力が出るんだ? 」


「さぁ? 測定したことがないので分かりません」


「そうか。でも、無数に出せるんだよな? 」


「ええ、この身に限界が来るまでは」


「なるほど。……まぁ、数が多ければ多いほど、たとえ威力が低くともなんとかなるか。 よし…、彩舞、染焼。手伝ってくれ。この空間の壁…いや、この目の前にある壁をぶち壊すぞ」


「「はぁ? 」」


――この目の前。彩舞達からすれば、後ろの壁を壊すしかない。


これは、自分の経験と勘によるものでしかないが。

きっと、本来ならば。この目の前の壁が扉に変わって、次なるデスゲームへ続く道の案内をしてくれるのだろう、が。 ゲームオーバーした今、その壁は何も変化していない。しかし、何も変化していないのであれば。元々、変わる予定もあったのであれば。上手くシステムが発動しやすいように。少し、手の込んだ魔法が仕掛けられていて、その仕掛けられた魔法の力は時間が経過すれば経過するほど、負荷になって。壁全体が内側からも外側からも柔らかくなっているはず。特に謎の煙という明らかな魔法物であれば、更に負荷がかかって壊しやすくなっているはずだ。


「とはいえ正直、この選択に確実性は無い。だが、とにかく、俺が合図したら。一斉に壁を殴ってみてくれ」


「壁を殴る…、完全に力任せな選択ですねぇ」


「分かった。それで済むんだったら、やってやるよォ」


そう、経験と勘による思いついたことを、揃って疑問符を浮かべる二人に理由を軽く説明すると。 彩舞は渋々といった感じではあったが。二人とも自分の考えに承諾して壁を殴り壊す姿勢へと入り、自分の合図を待った。


彩舞や先程の自分の発言通り、魔法がかけられた壁に対して完全な力任せで行うため。 必ず壊れるという保証はない。ただ壊れやすくはなっているだけで。しかし、闇雲に動くには遥かに安全で瞬時に出られるので、やはりこの方法しかない。そう――、改めて少し面倒な覚悟を決めて。「壊せ!!!」と荒々しい声音で合図し、彩舞と染焼と共に壁を殴る。彩舞は無数に。染焼は二本の手を上手く使いながら。自分は片方の手で押し込むように壁を殴って。


数秒程、経過した頃。

自分の経験と勘は当たったのか、逆に少し恐ろしくなってしまうほど殴っただけで粉や破片を飛び散らせながら、ゴロゴロと時に素早く、時にゆっくりと脆く崩れ去っていき、奥から眩い光を差し込むほど、真ん中が丸く大きく円をかくように綺麗に穴が開いた。


「よし…、この穴から通り抜けて脱出するぞ! 」


穴が開いてしまえば、後は通り抜けて出るだけ。

皆に声をかけ、自分を先頭にして、勢いよく穴を通り抜ける。台の上に乗る時とは違い躊躇せず、穴が開いた先をよく確認もせずに。「待ってください――!」と声を荒げて、慌てて制止をかける彩舞の言葉を無視して――。


「え、あ……、うわあああああああ!!? 」


穴を通り抜けてから一秒も経たないうちに、先には道が無いこと、下は地面さえもない底が真っ暗闇である事に気がつき。絶望と焦りを抱いたのも束の間、皆よりも体重のある自分は素早く底の見えない下へ落ちて、間抜けな叫び声を上げ。そんな哀れな様子を見た彩舞達から呆れ声が飛び交う。


「はぁ…、これだから力任せな者は」


「色の言う通り、面堂が一番に面倒な存在だな」


「え…、確認もしないで出るとか。ありえないんだけど? 」


「うわぁ、圧倒的にダサくて面倒だね、面堂って」


「め、面堂さん。流石にそれは…良くないと思うよ。事前確認、大事。だからさ」


彩舞達の呆れ声が槍となって心に鋭く刺さっていき、気持ち的にも下がっていくが。 このままだと、自分が死者になってしまうかもしれないと思い、謝りながら、叫びながら、彩舞達に助けを求める。


「わ、悪かった!これ以上は、面倒事を起こさないから…、た、助けてくれぇえええ!!! 」


「助けてくれ…、ですって? 情けない。本当に自分の事しか考えていないのですね」


「というか、君を助けて。僕達に何のメリットがあるの? 」


「どうせ、また面倒事を起こすんでしょ」


しかし、助けを求める姿に無様で情けないと辛辣な意見が返って来るだけで。皆、誰も手を差し伸べてくれることすらない。命を捨てないで、犠牲や生贄は出したくない、そういった死者を出すことは嫌だという言葉は嘘だったのだろうか。いや――、これに関して自業自得。自ら、死へと飛び出したようなモノだ。助けようとしないのも無理はない。俺は自分で面倒事を引いたのだ。だから、この結果は致し方ないのだ。


「ああ、本当に面倒事は御免だ。特に俺という面倒事は御免だ」


自虐とも、皮肉とも、どんな意味でも捉えられる言葉を静かに吐いて、諦める。

どうやったって、なにをしたって、俺は助からない。自分で引いた面倒事は自身の命で責任を取らなければ、と。一度、諦めれば。瞼を半分ほど下げて、少し引きつった笑みで、速度に身を任せてより落ちていく。底の見えない場所に命を崩すように――。


「―――ぁ」


腹全体に鋭い痛みが走る――いや、正確には。一本の黒い手が自分に向かって降りて来た時。 諦めていた事が、諦めた事が覆されて、小さく驚きと疑問の声を上げる。


何故、呆れて助けないと意思や態度を見せたのに。俺を――だが、驚きと疑問等は受け付けないというように。より自分の腹を力強く掴んで、乱暴に上へと引き上げる。


そして、目の高さが同じになるまで引き上げたら。


黒い手の正体。彼は、目を細めて。不満げに「勝手に諦めるな」と、文句を言う。


「へっ…? 」


「何をしているんですか。更に余計な面倒事を増やさないでください」


「いや…、だって、ほら…、お前さん」


「クレームは聞きませんよ。私、言いましたよね? 目の前で死なれるのは嫌だと」


ただ驚きと疑問を隠せない自分に対し、もう答えは事前に言ってあると、それ以上の面倒事は起こすなと文句を続けざまに――いや、ただ優しく温かく、彩舞は叱る。


そんな、何だかんだ言いつつも助けてくれる、手を差し伸べてくれる、口だけではなく約束は必ず守る彩舞の姿に。 思わず、笑みがこぼれて。


「はぁ、はははは。お前さん、早死にするタイプだな」


「え?」


「いや、この世界に稀に見る、いい奴ってことだよ。ありがとうな、助けてくれて」


自分なりの感謝の言葉を告げる。

しかし、やはり自分なりというものは伝わりにくいのか。彩舞は更に不満げに表情を険しめて、「気持ち悪い」と文句を吐いた。そんな彩舞の反応に自分は、また笑みがこぼれていく。彩舞ほど、面倒事は御免だと思いながらも避ける事や逃げることは絶対にしない優しく温かい奴なのだと――、そう、思ったお陰で。


彩舞自身、自覚はないのかもしれない。

自分の言動が、誰かの助けになっていることを。面倒事は御免と言いつつも、思いつつも、避けることも逃げることも決してせずに手を差し伸べて、諦めていた気持ちを変えてくれることを。最悪な未来を、結末を、結果を止めてくれることを。


経験上、自分の中では。ここまで、他者に気を遣う奴はいない。目の前で起きそうになる死生に関して、事前に適切な救いを行う者はいない。そうでなければ、きっと。仲間である、月聡と斬堵睹が一緒に付いていくことはない。染焼が甘い目で見ることはない。明楼が何処か安堵していることもない。俺が、自分の事を。過去の事を。後悔して恥じることはない。


大切な愛と雪を思い出すことはなかった――。


「お前さんが助けてくれたお陰で、色々と気づいたことがあったよ。

だから、…結局は、俺なりにはなってしまうが。必ず、返すぜ。この恩を」


「いや、返さなくていいですよ。当然の事ですし、独善ですし、気持ち悪いですし……」


「はは、お前さんは謙遜と卑下が得意なようだな。まぁ、いい。お前さんが不要というなら、見えない形にしておくぜ」


「は、はぁ…? 」


改めて、感謝の言葉を告げ。

これから、自分自身がどう動くかを考える。これ以上の面倒事を増やさず、避けず、逃げず、向き合う方法を――。


「あのー…、お話し中、悪いんだけど。どんどん、煙が強くなっているし…ゲホッ、空間もかなり真っ暗闇なんだけど」


不安そうな声と表情で、明楼が声をかける。

空間内が煙と真っ暗闇に覆われて、死に近づく速度が急速に速まって、迫っていると――。


すっかりと忘れていたが、そうだ空間内は自分のせいでゲームオーバーになってしまっていた。 穴を開ける前よりも煙と真っ暗闇に覆われているということは、このまま此処で立ち止まっては全員が死者になることは確定だろう。しかし、穴を開けた先にも、下にも道はない。


「くっ…、このままじゃ、全員死ぬ。だが、出る方法は、もう無い…、あぁ、」


下唇を噛んで苦渋を浮かべる事しか出来ない状況に、どうにもならないかと焦燥が走る。 だが、面倒事を避けることも、逃げることもしない彩舞は違うのか。楽しそうに口角を上げて。


「断刈様なら、きっと……。この面倒事を死に変えてくれるはず、いや、この場合は下へと飛び込むはず。 それなら私にも……! 」


無数の黒い手を出し、素早く染焼、月聡、斬堵睹、明楼を自分と似たような感じで身体の一部を掴み。 少し横へと自分を押し避けると、穴を何の躊躇いも無く通り抜けて、底の見えない下へと飛び降りる。 そして、黒い手により身体の一部を掴まれていた自分達も引き摺られるように底の見えない下へと落ちる――、


「「「「「え、ええええええええ!!? 」」」」」


彩舞の行動に揃ったように驚きの声が大きく上がり、自分はすぐさま彩舞に「何をしているんだ!」と疑問を投げかける。


「お、おい!お前さん!俺が落ちたのを忘れたのか!?この下は、底が見えないほど危険だと、死は確定だと、理解しているはずだろ!? なのに、何故…、」


「――そうですよ、貴方のように無防備に落ちれば、死ぬのは間違いないでしょう」


「は、だから理解しているのなら、何故…、ん? 無防備に? 」


「この高さで着地する際、無防備のままだと死にますが。ちゃんとしっかり防御やクッションがあれば、確実ではなくなります」


「だから、無数の、黒い手で…、」


「ええ、そうですよ。それに、底が見えないって確定したわけではないですし。もしかしたら、床があるかもしれませんからね」


「……いや、それにしたって。危険と無茶が過ぎるだろう――!!? 」


彩舞曰く、無防備で無ければ落下しても大丈夫。底が見えないと確定したわけではないということで、飛び降りた。 いや、賭けに出たということらしいが。危険と無茶が過ぎる。――前言撤回だ。彩舞は、いい奴ではない。正真正銘の良くも悪くも度胸と本性を持ったお化けだ。いざとなれば、いいや、自分にとって面白く楽しい事を突発的に見つければ、衝動のままに危険を試みない無謀で諦めの悪い者だ。


絶望を浮かべる自分達とは違い、変わらず楽しそうに口角を上げながら期待と希望を持つ彩舞を後悔と憎んだ目で見つめながら、底の見えない下へと、どんどん速度を上げて落ちていく。そう、ずっと落ちて、落ちて、落ちて。これだから、面倒事は御免だ、と、気持ち的にも随分と落ちて、落ちて、落ちていき。



柔らかな無数の黒い手の感触と共に、何かにぶつかったような、カツンと小さく高い音が鳴った――。

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