【新たな道化師として 転落は存在しない】
彗亜と再会し。綿枷、夢玖、色、快輝と出会い、共に日々を過ごしてから数ヶ月ほど経過したある日の事。 皆を楽しませる方法は無いかと模索している中で。色が何気なく呟いたのをきっかけに続いて、次々と理想の道化師について、快輝達は提案するように語っていた。
「――道化師は、明るく賑やかで。誰よりも自由に生き、人生を楽しんでいるのがいいですね」
「それに加えて、ちょっと残酷で。のらりくらりと謎に満ちた、不気味さもあるといいよな! 」
「うんうん。そうだね。あと、一人称は「ワタクシ」で。誰に対しても、丁寧な口調だと尚更いいかも」
「何かに固執していたら、面白いかもしれないな。裏では、自分の利益の為だけに動く。腹黒さ…とか? 」
「オーバーリアクションと、ナルシストっていう自尊心が高いのも面白そう! とても悪戯しやすそうだもん! 」
色達の意見をまとめると。
一人称は「ワタクシ」で。誰に対しても、丁寧な口調で話しつつ。明るく、オーバーリアクションをする賑やかさと。のらりくらりとしていて、不気味な印象があり、自尊心が高く利己的で何かに固執しがちだが、自分らしさを貫き通す意志もある。――それが、色達が理想とする道化師。
これは、実に素晴らしい理想だ。
理想の道化師をエンターテインメントとして演じれば、皆を楽しませることができるかもしれない。 そう、少しは、彗亜と色を手助けでき。綿枷と夢玖と快輝の笑顔を護ることができると確信し、希望を抱く。
「――よし! それなら、皆様の理想の道化師を演じますよ! 」
希望のままに、色達が理想とする道化師を演じることを宣言する。
その宣言に一瞬、驚いた様子を見せたが。流石、悪戯好きや悪ノリ、楽しい事が好きなお化け達。 面白そうな展開になると分かれば、それぞれにこやかに、楽しそうに、嘲笑うように、元気一杯に、不敵な顔色をと声音を魅せる。
「では、我々が飽きるまで。演じきってくださいね。道化師様」
「へぇー、いいじゃん。じゃあ、思う存分に魅せてみろよ。楽しんでやるからさ」
「ふーん。本当にやるんだね。自ら踊りに踊るなんて、一依らしいね。まぁ、頑張って」
「一依が理想の道化師になってくれるの? 凄く面白そう!やってやって! 」
「なるほど。そう来たか。ああ、いいだろう。演じてくれ、一依」
まさに大賛成と――。
これは、お互いに。とても楽しい日々になりそうだ。
色達も賛成してくれたことだし、飽きられるまでは、理想の道化師を演じていこう。 新たな道化師として、舞台を盛り上げよう。そして、飽きられてしまったら。また別の道化師を演じよう。 ワタクシの色辞典に転落は無い。皆が楽しめるように、演劇をより魅力的に変えていくだけ。
「それでは、改めまして。皆様…、ワタクシ、冠化 一依を宜しくお願い致しますね。 ああ、でも。ワタクシの魅力に惚れ込み過ぎるのはご注意を。酷い目に遭ってしまうかもしれませんから。 それでは、最高の舞台を楽しんでくださいね。今宵から始める、自尊心とテンションの高い、道化師の物語を――! 」
早速、理想の道化師を演じて魅せる。
他者から見て、それが可笑しくても。それが冷ややかに見えても。それが一欠片たりとも面白くなくても。 これは仲間の為に魅せるショーなのだから、仲間さえ笑っていてくれればいいのだ。 そもそも、他の観客等に期待は寄せていない。寄せてしまえば、お互いにネガティブな感情を抱いてしまうから。 だから、望んでいない者の前に期待はしない。ただ仲間が笑ってくれるのを期待して、手助けして、踊るだけ。
今は、仲間の為に踊るだけ。
死生の道化師としても、新たな道化師としても、一色のお化けとしても、ワタクシ自身としても。 演じていたい。踊りたい。振る舞いたい。楽しませたい。笑ってほしい。その瞬間だけでも幸せでいて欲しいのだ。 だから、仲間の為だったら。何度でも、どんな事でも、ワタクシに出来る事があれば手助けしよう。 どうにかなるのであれば、どうにかしてみせる。それで、最期まで転落しないのであれば。
たとえ、この想いが何一つ伝わらなかったとしても。それでいい。
ワタクシにとって、仲間の笑顔が、喜びが、幸せが、何よりも嬉しく最高のプレゼントなのだから。 だから、期待はするが。見返りは求めない。それこそ、支援等は必要ない。だけど、仲間の心の想いを無下にすることはしない。仲間が勇気を出して送り届けに来てくれたのだから。素直に喜んで、受け取るさ。勿論、お礼も忘れずに、ね。
復讐劇の合間に、少しでも楽しめ。笑えることができ。心が安らいでくれたら――そう、何度も繰り返し期待して、願って、乞いて、踊って。
時には演じ方を間違う事がある。でも、それでいい。
間違えたからこそ、仲間の気持ちが、考えが、真意が、心が知れる。
何を望み、何を願い、何を必要としているのか。いい意味で沢山、学べる。
だからといって、上手くいったからと調子には乗らない。
たまたま運が良かっただけかもしれないし。更に面白くできるからこそ、見つめ直さなければならない。 同じものはいずれ飽きられてしまう。継続していくことは良い事だが、時には もっと魅力的に変えなければ。 沸々と不満は溜まっていく方だ。何より、自分の事を過信して。クオリティが下がってしまう。 そのため、憂鬱にならない程度に。時には謙虚で卑屈な考えも大事だ。
最悪な結末を迎えさせたくはない。悲哀に満ちる最期を選ばせたくない。
せめて、少しでも。幸せに生きて欲しい。 そう、独善に。一方的に。傲慢に。強欲に。おまじないを唱えながら、時に緩く穏やかに、時に早く厳格に回っていく。
一番に最高な舞台に。一位に最高な演劇に。頂点に最高な理想になれるように。
今日もまた踊りに踊っていく。
勿論、自分自身が疲れない程度に。苦しくない程度に。辛くない程度に。
無理はしない。心身ともに健康管理はしっかりと行う。
自分がまず元気で楽しめていなければ、何の意味も無く。せっかくの舞台が転落してしまうからね。 だから、適度に休んで。適度に遊んで。適度に他の事をして。心身ともに、万全になるまで回復させる。 最高の自分の為に。最高の仲間の為に。
これから先に待ち受けることなんて、全部は分からない。
ある程度は経験上、予想がつくけれど。全部は難しいし、知らなくてもいい事もあるだろう。 正直なところ、複雑ではあるが。今、知るべきことではないのなら。知らない方がいい。 知る時よりも、心が耐えきれなくなってしまう。転落してしまう。だから、今は知らなくていいと諦められる。
結局、ここまで語っておいて。
自分の言葉は。思考は。想いは。意志は。ふざけて甘えた精神論にしか過ぎないのだろう。 色辞典だって、元々そうだ。精神を支えるモノでしかない。自分の心を奮い立たせてくれる、役立つモノにしか過ぎない。
結果、それは自分が都合よく解釈しているにしか変わらない。
誰の為にもならない。ただ綺麗な言葉を横に並べてだけで。精神的なモノ以外に効果は薄いのだ。 肉体的、身体的な事となれば。役に立つかどうかは怪しくもなる。それこそ、別のモノの方が最適だろう。
きっと、それを信じて馬鹿馬鹿しいと。心底、気持ち悪いと。見ていて、恥ずかしいとなる者もいるだろう。 確かに精神だけで解消解決するのであれば。誰も生き地獄の苦労はしない。皆、天国のような幸福を得ていることだ。 それでも、ワタクシは。精神だけの色辞典を信じる。色辞典=自分自身だから。
どんなに否定、拒絶、失望、非難、悪意、敵意、殺意、復讐心があったとしても。 ワタクシは前のようには諦めはしない。転落はしない。 だが、矛盾はしないかと指摘されれば。嘘になるというか、矛盾はこれからもし続けていくだろう。
だけど、新たな道化師として舞台に立った以上は。
本当の意味での転落はしない。
矛盾は何度、繰り返したとしても。本当の意味では転落はしない。
ワタクシの色辞典には。ワタクシ自身には。本当の意味で、転落というのは存在しないのだから――。
―――
「――これにて、ワタクシの過去話は終了となります」
優しく囁くように、過去話の終わりを告げる。
かなり長い時間、話し込んでしまったが。一応、これで過去話としてカウントされ。爆殺は防げるだろう。 ――いや、防げたのだろうか。あと数分とかなんとかで、かなり危険な状態だったが。一見すると、身体は無事。色さん達も爆殺された影響は無さそうではある。しかし、万が一ということもある。安否を確認しなければ――、
「さて、爆殺されずに済んだことですし。やはり待つことはやめて、探しに戻りましょうか。断刈様達を」
「「はーい」」
どうやら、余計な心配だったようだ。
とはいえ、色さんの言う通り。特に一刻でも早く、断刈さんを見つけなければ。 たとえ、生きていたとしても。やはり、あちらの安否は不明であることに変わりはない。
「よし、少し急ぎましょう。特に断刈さんの安否が――お、わぁ!? な、なんです? 」
急いで探して見つけようと声かけを行った瞬間、左側の壁が大きく崩れ出したと思えば、大爆発した。 突如、起きた大爆発に対処できず。思わず、声を上げ、前のめりに倒れそうになる。 なんとか、床と接触しそうになる前に体勢を立て直し、色さん達も被害を受けておらず。爆殺できるほどの威力ではなかったものの、爆発は止まったのでは、防げたはずではなかったのかと疑問符が浮かぶ。
だが、その疑問符は。すぐに解消されることとなる。
「色――、ようやく見つけたぜ」
最愛の者を探し見つけ、歓喜の声に満ちた、お化けにより――。




