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【よくある話なんて、よくある話だからこそ】

「ねぇー、元から表情が暗かったけど。更に暗くなってない?死にたがりさん」


『まぁ、マスターだけではなく。周りのお化け達に【生きろ】と連呼されれば。更に暗くなりますよ』


「じゃあさ、この即死トラップを見たら。元気になるんじゃあない? 」


『あのマスターの事だから、どうせ即死しませけど…まぁ、』


「まぁ、じゃあねぇよ。約束なんて最初からなかったかのように、死に突っ込む真似事をこれ以上はさせねぇぞ。 夢玖も助長してんじゃねぇ。最初はあんなに嫌悪していたのに、どうしてこうなった……」


あれからも、即死トラップやギミックのある空間を次々と突破してきた――いや、正確には断刈は自ら死へと突っ込んだお陰で、死のカウントが入って扉が出現し。結果的に誰も死なせずに、死なずに突破してきたのだ。 だがそう突破している中で、いつの間にか。快輝を除く全員が断刈と普通に接している。特に夢玖に関しては、最初は断刈の血が付いた道具は使いたくないと嫌悪し不満を口にしていたのに。今はもうなんだが、友達として接しているような素振りを見せている。


「本当に、なんでこうなったんだ? どうして、普通に接していられる」


「皆、内心は気持ち悪い狂人お化けだと思っているよ。

でもさ、なんか面白いんだよねぇ。それに共感っていうのも出来るしさぁー」


「へぇ…、共感ねぇ。まぁ、確かに共感できる部分はあるっちゃあるけど…

やっぱり、俺としては特に…… 特に色を取られるのは納得いかねぇ!返せ!色を! 」


困惑と疑心を高める快輝に。

夢玖は自分も含めて皆が内心は不快に思っていることを暴露しつつも、面白く共感できる部分があると答える。その答えを聞き、快輝は確かにそうだとも言えるが。やはり、自分としては色が死にたがりと普通に接しているのは許せないらしく、声を荒げながら地団駄を踏む。そんな快輝の様子を見て、呆れたように後ろに一歩、下がりながらも夢玖はからかうように指摘する。


「別に取ったわけではなさそうだけどなー。本当、色の事が大好きだよねー。快輝は」


「いや…、別に好きとかそういう感情はねぇよ。ただ…、傍にいて護りたいだけだ。

だから、色に何かあった時の事を考えると……」


言葉では、思い入れや特別な感情はないと否定を入れるものの、表情と仕草には嫉妬心の衝動に駆られている。魔法が使えていたら、お望み通り。色が知らないところで即死させているというのに――と。 あまりにも癇癪を起こしている快輝を見兼ねたのか、より煽りを入れてきたのかは分からないが。何処か他人事のように。面倒くさそうに。死にたい理由を聞けばいいと、理由を聞けば納得できるのではないかと夢玖は提案をする。夢玖の提案に聞き、確かに聞いた方が早いと判断した快輝は。断刈が何故そこまで極度に死にたいのかを聞くことに。


色達と話をしている最中の間を割って。快輝は何故、そこまで死にたいのかを断刈に尋ねる。 尋ねに対し相変わらず、ぶっきらぼうかつ淡々とした口調で――、


『理由なんて何があっても話しませんし。開きませんし。教えませんよ。

それに、【よくある話】として片付けられてしまいますし。理解できないのに教える必要なんて一切ありませんから』


拒絶と断りを入れ、理由を教えてはくれなかった。

何より、【よくある話】として片付けてられてしまうからと恐れを口にして。


【――よくある話】。

確かに全体的に、総合的に見れば。いくら自分が地獄だと感じ、死にたいと願うようになっても。ありふれた理由、原因、過去になってしまうのはある。他人は勿論の事、身内でさえ、互いを完璧に理解し合うことなどできない。何より、理由を教えたところで。逆に悪化するという事も少なくはない。だからこそ、理由を理解できないのに教える必要なんてないのだ。しかし――、【よくある話】として片付けられるのを恐れては。【よくある話】として片付けては、誰も救えない。より互いを敵視するだけだ。より互いが自ら、拒絶し合い、理解し合わなくなるだけだ。それに【よくある話】として片付けるのなら――、


「俺達は共感なんてしねぇよ。第一に、色はともかく。一依がお前と会話することはない」


『【よくある話】だからこそ、共感できるのです。そうでなければ、共感以外にも……』


「言い訳付けて、遮ろうとしてんじゃねぇよ。というか、【よくある話】としてお前自身で片づけて逃げるってんなら。別に話したって何の問題もないだろう。それにどうせ、俺達がいくら止めようが。お前は死に逝くつもりなんだろう? それならよォ、彗亜も言っていたが…最期の前に、人が疑問に思っている事や悩みを解決して。【人の役に立つ】ことをしていけよ」


『…………』


「意外と【人の役に立つ】ことをしてからの方がすんなりと逝けるかもしれないぜ? 」


『気持ち悪いですね。あれほどまで、助長や肯定するなと叫んでいたのに。随分と』


「それはお前の捉え方だろ?俺は助長や肯定する気は一切ねぇよ。

俺はただ色がお前と会話して、接しているのが嫌なだけだ。その嫌な感情を解決させるために。 お前が死にたい理由を聞いて、共感を納得に変えたいんだよ。だから、一つでもいいから教えろ。お前が死にたい理由…」


『――断じて、一切教えませんよ。勝手に嫌な感情を抱いてください。私には関係ありませんから。 さて、次の空間に着きましたし。信用は出来ませんが、一刻でも早くこの世からの脱出を目指しましょう』


やはり、死にたがりには説得は不可能なようで。

聞く耳を持たずに、次の空間へと足は無いがさっさと足を運んでいった。

あまりにも融通の利かなさに唖然として立ち尽くしていると、後ろから嘲笑う声がやってくる。


「あーあ、結局、より不快な感情を抱くだけになっちゃったねぇ?

そ、れ、に。お互いにより不信感を与えちゃったみたいだね。あははは、おもしろーい! 」


「笑えねーよ。面白くもねぇ。

夢玖。テメェが提案したくせに、テメェの提案に流れ乗ったせいで、俺が損したじゃねぇか。責任とれ」


「嫌だね!僕は提案しただけだもの。なーんにも悪くない。快輝の自己責任」


「チッ…、今回も流れに乗らなきゃよかった。色だけじゃなく、思いやりを踏みにじられて最悪だ」


あまりの不快感と苛立ちに愚痴を床へと吐き捨てる快輝。

不快感と苛立ちに溢れる快輝の様子を侮辱するように腹を抱えて大きく笑い声を上げる夢玖。そんな二人を置いていき、先に空間へと入った断刈の後を追って空間へと進む彗亜達。 空間に入る扉を開け、彗亜が足は無いが足を一歩、踏み入れようとした時。



『――ぁあああぁぁああああぁああ! 』



尋常ではない苦痛に滲む叫び声が聞こえてきた――。

叫び声に思わず、彗亜は足を止め。快輝達は空間内の方へと向く。

一体、何事かと空気が一瞬にして凍り、不安と困惑が広がる中。ただ一人、彗亜を押しのけて。空間内へと目にもとまらぬ速さで駆け込む。 遅れて、彗亜は制止しようと声をかけるが。それと同時に扉が固く閉ざされ、彗亜達五人は空間外に取り残されてしまった。いや――、彗亜達五人が取り残されたのではない。空間内に断刈。そして、一依の二人が閉じ込められてしまったと表した方が正しい。



『――あぐがぁあああぁぁああああぁああぁあああああ! 』



先程よりも大きくなる叫び声だけが聞こえ、閉じ込められてしまった仲間の一人と死にたがりの安否が問われる。しかし、確認できない以上はどうすることもできない。何もできないまま、扉の前で二人が無事に出てくることを待つしか選択肢はなかった――。

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