【死生と、あららららさん】
宮廷道化師から転落してから、約五年目。一人旅を始めてから、約三年目が過ぎた。 一人旅を始め、続けるにあたって、最初の一、二年間は、自業自得とはいえ。忙しく手厳しい日々だった。 何も持たず、一文無しの状態で城を出てしまったこと。過去に死生の道化師として、殺戮を犯していたため。 一人旅を始める、続ける資金を稼ぐための仕事を探すにも、就くにも、衣食住の衣服と食料を揃えるのにも、本来の姿である【自分】では、スムーズには行かず。変身魔法と演技で、正体を隠し騙して振る舞わなければ。布一枚、一欠片さえ、得られない。仕事ができなかった。幸いにも、衣食住の住居や住処に関しては。一人旅ということもあり、野宿することで解決できたため、困ることはなかったが。
こうして、なんとか、変身魔法と演技を駆使し。まとまった資金が稼ぎ。
約五年目となった今、ようやく一人旅をすることができ。のびのびと旅をしながらも、死生をよく知るため。 各地に回って、出会った者、見かける者の死生観を学んでいる。誰がどのような死生観を持って、活動しているのか。生きていくために、どんな道を選ぶのか。最期は何を望んでいるのか。そもそも、その者にとって、死生とは何なのかを――。
「うーん…、ダメだ。上手くまとめられない……」
教えていただけば、教えていただくほど。聞いて見れば、聞いて見るほど。知れば、知るほど。 得たものを上手くまとめられず、ますます死生について分からなくなる。 正解というのは、無いのかもしれない。加え、不正解だって、無いのだろう。 その者、その者自身の人生なのだから。皆、それぞれ違って。無数に、無限大にあるのは勿論の事だが。 そもそも自分が知りたいことが、得たいことが、納得したいことが、本当に学んだことなのかさえ――、
「――一依が求めている答えは、生かすことが救いか。死が救いか。一体、どちらか。で、あら」
分からず、悩んでいると。
高くも何処かノイズ混じりの声が差し掛かり、声の方へと振り向けば。
2mは遥かに超える長身かつ細身で、頭の先には黄土色で二本の縦長極細の角のようなものを生やし、明るさが見えない真っ黒な瞳をしており、長袖の鮮やかな赤のワンピースを着用した お化けでもない、見聞きしたこともない、謎の生物が居た。
敵意や悪意、害を持っているようには感じない。読心術で覗いてみても、何も無い。 自分の名前を知っていることも。死生の道化師としての事例があるから納得がいく。 だが、何故。自分の方へ来たのかは。いつからそこに居たのかは。分からない。 仮に、自分が死生の事をより知るための旅をしていることを知っていたとしよう。 それで、何か答えを与えてあげようと、教えてあげようと、善意で近づいたのかもしれない。 だけど、それでも疑問が残る。 調べる際や学ぶ際は、変身魔法で正体を隠して、次に行く場所を教えずに離れている。 変身魔法を解くときは、完全に一人になった時だ。それなのに、何故。正体が自分だと分かったのだろう。どうやって、自分の今いる居場所を知ったのだろう。旅をしている=移動し続けているのに。一体、何故――。
「自己紹介が遅れたあらね。ワタシは、あららららさん。違う世界では、ちょっとした偉い人をしていたモンスターあら。 今回はこっちの世界のマ…一依に。アドバイスをするために、時空を超えてやってきたあら」
こちらの疑問を読み取ったようにして、何処か間接的に、何処か本当の事を込めて名乗る。 どうやら、この謎の生物は【あららららさん】というらしく。時空を超えて来たとかなんとか――、
「じ、時空を超えて来た!? そんなことありえ…できるのですか? 」
「できるあらよ」
「え、えぇー…、ま、マジで? 」
本人は軽く言っているが、にわかには信じ難い事だ。
いくらこの世界がファンタジーだとしても、創作やフィクションでもないのに、世界や時空を超えて別の世界や時空に渡ることなど、ありえず、出来ないはずだが――。いや、信じられないが。現実、耳記したこともない生物。本人曰く、モンスターが。幻覚でもなく目の前に存在していて、隠していたこちらの正体を知っているのだから。可能性はあるのかもしれない。本当の事なのかもしれない。それならば、尚更――。
「警戒しなければ、危ないかもしれない――と、怖がっているあらね」
「え…、」
「大丈夫あら。危害は一切、加えないし。そんな細かい事を気にしても意味ないあら。 それよりも話を戻して。生かすのが救いか。死が救いか。知らなくちゃ、あら」
相手は。
「あららららさん」
あららららさんは、今度は思考を読み取ったように言葉を口にし。
話を戻すように、窘めてくる――?
正直、何が何だか分からなくなってきている。
だが、このままだと埒が明かず、話が進まないのも事実。
致し方あるまい、此処は あららららさんにアドバイスをいただいて、死生について知ることにしよう。
「えっと…、じゃあ。お願い致します。死生について、何か思うことがあれば。教えてください」
「わかったあら。生かす事が救いか。死が救いか。どちらか。教えてあげるあら」
抱き合おうと両手両腕を横に大きく広げては、時に何処か軽快に。祈りを捧げるように両手を握り締めて、胸元辺りに置けば、時に何処か神妙に。 まるで高低差を繰り返すような口振りで、死生=生かす事が救いか、死が救いか、を語り始める。
「まず、結論から言ってしまえば。救いになるかは、その時、その場合、その状況、その状態等によるあら。
相手が望まない救いをするのは、ただの地獄でしかなく。同じ負の連鎖を繰り返し行っていくだけあら。 何一つ、相手の為にならないあら。それこそ、やり直す機会も。幸福になる選択も。全くもって無いあら。 ただの独善にしかならず、ただの一方的な押し付けにしかならず、ただの愉快犯等にしかならない――なんてことはないんだあら。
全部を全部、相手が望む通りに救ってはいけないあら。
相手が望んだ死生に関する救いというのは、どうにかなるはずの現実から目を背けて逃避させる権利を与えてしまうことにもなるあら。 どうにかなるはずなのに、どうにもしないで逃避するのは良くないあら。自分じゃない他者からの悪質な攻撃や嫌な事を避けるために。逃避を選ばせて、救うというのなら。心が限界だったとかなら。話はまた変わるけれど。一歩も前に出ずに、変えられるものから逃避して、罪を重ねていくなんて。ダメあら。
相手にとっては、どちらも相手が望んでいなければ、救いにはならない。 でも、時には相手が望んでいない救いをしなければ、どうにかなるモノをどうにもできなくなるあら。 死生に関しては、責任が大きいあら。しっかり臨機応変に動かなければ、何の意味も無いあら。
だからこそ、死生と与えられた以上は、名付けられたのであれば。責務を果たすべきあら。 生かすことだけが救いではないと、死が救いになることも全身に入れて置かなきゃダメあら。
……まぁ、でも。これだけ、話しておいて。
こっちの世界だと、死が救いになることが多い…ほとんどなのが、残念で悲しいあらね。
これで、ワタシからは以上あら」
語られた、教えていただいた、アドバイスは、死生は。
やはり、自分が行った事は。自分の言動は間違いであったと。改めて、知らされるものだった。 生かすことだけが救いではない。生かすだけなのは、間違いである。時には死を選択しなければ、救えない。 彗亜を救えなかった。
「こっちの世界のアイス…、彗亜は。違うカラフルお化けと出会うこともなく、そもそもルート自体が大きく変わっているから。なかなか、ハードで高難易度あらだから。より臨機応変が必要あらね。でも、落ち込む必要は無いあら。そんな暇を抱えている場合でもないあら。どうにかなるはずのモノを、どうにかしないのはよくないあら」
「…でも、自分にどうにかできるのでしょうか? 」
「できるから、生かされているあら。死を望んでも、死ねないあら」
「あ、」
「一依はこれから先も、迷いに迷って矛盾した言動を繰り返していくけど。 最終結果的には、いい方向に解消解決できる。どうにかできている。だから、自分を信じて。果たすあら。 一依の色辞典に。どうにかできると。解消解決できると。攻略をマスターできると。記載や掲載されているはずあら。 救うあら。自分も、彗亜も、皆も笑顔になれる道化師として、固執した舞台に駆け上がるあら! 」
また思考を読み取ったように言葉を――激励の言葉を口にする。
そして――、
「おっと、そろそろお時間あら。時空が歪む前に帰らないと。
じゃあ、転落せずに頑張るんだあらよー。バイバイあら」
別れの言葉を最後に。
目を両手で覆い隠してしまうほどの激しく眩しい白い光の点滅共に。風のように消え去ってしまった。
「…………。
なんだか、とてつもなく疲れた気がする。でも、死生とは何か上手くまとまって、少しは分かったよ」
全てを救うのは。全てを生かし。全てに死を、というのも難しい。
死生の道化師として、臨機応変に死生を全うできる自信はまだ無く。あららららさんが言っていた通り、これから先もその時々で矛盾を繰り返すだろう。――でも、どうにかできる力が自分にあるのであれば。全力で、舞台で踊ろう。
彗亜の為にも――。
罪悪感ではなく、今度は親愛で手助けをしよう。
そう、今の自分の心に誓って。




