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【死生の道化師と今宵の王者】

かつては、この世界を守護したとされる魔族の血を受け継ぐ一族が。たった一時間ほどで壊滅してしまうという異例の事件が発生した。この事を重く受け止めた周囲に住む者や当時の王の使用人達は。王の命令を無視して、事件を引き起こした張本人を倒すべく、一族が暮らしていたとされる街まで訪れる。


現状は酷い有様で、あちこちに赤黒く鮮血と肉塊が飛び散り、腐敗臭と死臭が漂っていた。 そんな異質な空間の中でも、より異質で一際目立つモノがあり、よく目を凝らしてみると。 赤黒く染まっている端切れ途切れの服装を身に纏う、深みのある青い二本の角を頭上に生やしたお化けが立ち尽くしており、細く鋭く尖った瞳と不気味な笑みを浮かべてこちらを見下していた。


そのあまりの異質さと不気味さに。このお化けの正体が事件の張本人であると、すぐさま気がつき。 殺傷能力の高い魔法攻撃をいつでも放てるよう、攻撃態勢に入る。 そして、相手も使用人達の行動に。何処か上品に嗤いながら、挑発を仕掛けるように、招くように片手を前後に動かす。


「ふふっ。今回は人間が相手か……。お化けの相手は飽きていたし。こんなにも生き残っているとは思わなかったから。いや、生き残っているのではなく。その模造品か。 まぁ、何にせよ。少しは楽しませくれよォ? 」


自ら、戦いを始める合図を鳴らして。


お化けの合図に乗るよう、使用人達は動きを様子見しながら魔法攻撃を無造作に仕掛ける。 だが、無造作に仕掛ける魔法攻撃は容易く華麗に避けられ、逆に攻撃する隙を与えてしまう。


高く燃え上がり、広範囲に広がっていく黒い炎。空から降り注ぐ、切れ味のいい凍てついた銀色に輝く氷柱。 いつの間にか、身体を蝕み。全身に鋭い痛みを伴いながら生命力を奪っていく呪術。 他にも彩り豊かに様々な攻撃魔法、呪術をかけられ。抵抗も虚しく、不利な状況へと陥っていく――ふりを相手に見せる。


こちらは王の使用人。そう簡単に殺されるような弱さは無い。また、ただ単に無造作に攻撃を仕掛けたわけではない。 無造作に仕掛けた理由。それは最初に無造作に仕掛けることで、相手の動きをよく観察でき、こちらに対してどのような攻撃を仕掛けてくるのかを見極められるため。


相手の行動パターンがある程度でも分かれば、タイミングを合わせて、一撃で仕留められる。 よって、攻撃魔法を仕掛けた後の僅かな隙を狙って。相手の攻撃魔法を跳ね返す勢いで一斉に放つのみ。


「――――」


声の無い叫びが宙を舞い、辺り一面を騒然とさせる。

放たれた攻撃魔法は見事に直撃し、相手を後方へと倒れさせ、真っ赤な鮮血を飛び散らかす。 その無様な姿を。大いに、高らかに嗤って――。


「アハハハハハ! そんな見え透いた作戦で俺に勝てると思ったら、大間違いだよォ! 」


お化けは傷一つなく生きており、使用人達は全員、身体を真っ赤な血肉に染めながら息の根を止めていた。


使用人達の攻撃魔法は直前に跳ね返され、避ける間もなく一斉に直撃してしまい自滅する羽目になったのだ。 作戦が全て、お化けに読心術で見透かされていたせいで。


お化けは読心術という心の中の思考を読み取れる術を隠し持っていた。

そのため、使用人達の作戦は全て見えており、勇姿は無意味にしかならず、勝てる事など無理な話。 何より、此処は大人しく、王の命令に従っていれば、余計な犠牲を生まなくて済んだというのに。 これには王も失笑するしかないだろう。使用人達の見誤った判断力と行動力は、実に哀れだと。


「でも、俺を倒すことばかり、集中して。心が がら空きじゃなきゃ、危なかった可能性もなくはない、から。 意外と無駄じゃなかったかも? ……まぁ、何だろうと。俺に勝てるわけがねぇけど。ハハッ! 」


最後に無意味であっても、無駄ではないと称賛の声を形の無い使用人達に与え。

次に来るであろうと勇姿ある者が来るのを待ちながら、真っ赤に染まった街中をゆっくりと進みだす。 死生の道化師――、冠化 一依は。



こうして、王の使用人達――人間に似た模造品を大量虐殺したことにより、創造と破壊をどちらも経験した死生の道化師として名をより存在を知られるようになった一依は。依頼で来た勇者達も次々と殺害し、誰にも負けることなく、何処か皮肉にも半ば望み通り頂点に立ち、死生の道化師としての人生を謳歌する。この世界で、本当に頂点として、王として君臨する者が現れるまでは――。


「……なるほどね。君が冠化 一依。またの名を死生の道化師か。

随分と、荒れ地にしてくれたみたいだね。でも、それも終わり。私が戦いに挑み来たのだから」


「ふん。王様が相手か……、わざわざ、王の座を譲りに来てくれるなんて。心優しいねぇ? 」


「褒め言葉として受け取っておこう。さぁ、魅せてごらん。君の死生を」


「言われなくとも。勿論、魅せてあげるぜ。さぁ、一緒に踊ろう。王様。この赤黒く染まった舞台で」


威厳に怯えることなく、一依は王の手を取る。

死生の道化師として、王を躍らせるため。王の座を奪い取るため。本当の頂点に立つために。



―――



王との戦闘を開始してから、数分ほど経過していないのにも関わらず。

一依は苦戦を強いられていた。


やはり、本当に頂点として立つ者には叶わないのだろう。

場から一歩も動かず、一本も触れず、何も言葉を発することなく。見えぬ攻撃を容易く繰り返す姿に対して

何一つ、抵抗すら出来ないのだから。


「聞いていた話と違って、弱い。死生の道化師として名を広げるくらいだから、防げると期待していたのだが……」


「煽りをどうもッ…! 俺も王様が此処まで有能だとは思わなかったよ! 」


「煽りではないのだがね。それにしても…、君は才能があるのに。こんな舞台で無駄にしているのか…、実に不思議だ」


ようやく、言葉を発したと思えば。煽り文句。

これには、苦戦を強いられて余裕のない一依には屈辱的であり、心を酷く傷つけさせ、苛立ちを強く燃え上がらせた。 しかし、苛立ちは逆効果で。攻撃は余計に当たらず。逆に受けた傷が痛むばかり。そもそも第一に、創られた時から、生まれた時から、王の座に君臨し頂点の座に立つ者に勝てるはずなどない。


「どうやら、その様子だと。体力はあまり残されていないようだ」


「そんなことッ――! 」


「このまま放置すれば、君は死にゆくだろうね」


何処か他人事のように現状を伝えられ、受けた傷は更に酷く痛みを増して、息が詰まっていく。 見えぬ攻撃を受け続けた身体は身動きが難しいほど重く、息をするのが辛くなるほど苦しい。 王の伝えられた通り、このまま放置すれば、衰弱死するのは間違いない。とはいえ、王に勝てる方法も無く。自分の身体を回復させるほどの力は残っておらず、どうしようもない。それならば、諦めて死を受け入れる他は――、


「それじゃあ、家に戻ろう。今日は確か、南瓜料理のフルコースだったはず」


「え」


「安心していい。毒など入っておらず、絶品だ。愛の腕を信じて構わない」


「いや、そうじゃなくって……」


「もしかして、南瓜が苦手か? それなら、違う料理を用意させるが……」


「俺が言っているのはそうじゃなく。何で、まるでさ。俺を城に連れ帰るような発言なんだよ……? 」


だが、現実は異なっていた。

王は死を与えるのではなく、生かす選択肢で一方的に話を進め。一依を困惑に陥れてくる。 それがただ単に生き地獄という処罰を行うのであれば、生かす理由にも納得がいき、困惑はなかったかもしれない。 しかし、王の口振りからして。まるで――、


「理由? 君を愛する家族――。私の最愛なるパートナーとして、迎え入れるからだけど? 」


素直に答える王の態度で、可能性は確実となり、より困惑を掻き立てる。

王が自分を家族――、パートナーとして迎え入れることに。


「はぁぁあああああ!? ふざけるな! 何で、俺を……いや、俺をパートナーに迎え入れたところで。メリットなんて、 そもそも、世間が。世界が。許してくれるはずが! 」


これには、受けた傷の痛みと重苦しい身体を忘れて。大きく飛び跳ね、仰け反りながら、叫ぶように困惑を口にする。 死生の道化師として、大量虐殺を行っていた者を迎え入れるメリットは無い。加え、世間や世界が一依を許す事などありえない話。しかし、一依を更に置いていくように困惑を肥大化させ。王は表情一つ変えることなく、愛の言葉と意思を表明する。


「一切ふざけていない。メリットなど数えきれないほど、君の存在は幸福そのもの。 それに世間や世界とかいう、そんなもの。どうでもいい。誰が許す、許すまいと関係ない。これは、私の人生。決断する権利があるのは私だ」


「は、はぁ? なんだよ、それ…、アンタ。王としての自覚ないのかよ。

というか、こんな殺人鬼の何処をどう見て、愛するまでに到達したんだよ……、」


「私が王としての自覚を持って働いたとしても。皆が皆、私を信用し尊敬して生きているわけではない。 だったら、心を温かく救い。心を楽しく躍らせ。心から惹かれた相手を選ぶのは当然の事。 具体的に理由を言葉に表すのは難しいが。君、一依の存在は。私に生きる希望を齎し、視界を明るくさせてくれた。 だから、私は君を選ぶ。死生を共にしたい相手として」


「…意味、わかんねぇよ。そんなの。 俺は、」


「そう思っている事に嘘偽りは無い。私は一依以外を選ぶことは決してない。一依の存在を見つけた宵の日から」


一方的に押されるままに。王に両手を上から重ねるように取られ、視界が王の顔に向くよう仕向けられる。 取られた両手は温かく、紫色をした眼差しは愛情に満ち、困惑を冷ますほど甘い言葉は。一依の心を揺さぶるには充分だった。


「ああ、勿論。君にも決断がある。君は、一依は、自分の人生をどうしたい?

来世で心から望んでいる幸福を選ぶか。此処で朽ち果てることを選ぶか。私と一緒に死生を共にするか。 一依が選んだ人生を尊重し、私も選ぶとするよ」


随分と卑怯な三択だ。

どれを選択しても、王の思う壺になってしまう。

ああ、やはり本当に頂点として立つ今宵の王者には勝てない。

ならば、少しでも過去の蟠りを上書きできる選択を選ぶのが最もマシだ。


「はぁ…、わかりました。わかりましたよ。王様についていきますよ。死生を共にしますよ」


「本当かい? 」


「ええ。この選択が一番、マシでしたから、」


「やった――! 一依、ありがとう!大好き!愛している! 」


「ね、えっ!? 急に抱きつくな!つーか、なんだ その口調。王のとしての威厳が微塵も……」


「これからよろしくね。一依。もう待たせることはしないよ」


「…………、

ああ、そう。

じゃあ、こちらこそ。宜しく。俺…の、今宵の王者様」


待たせることはない――。望んでいた言葉を言われ。この選択はマシではなく、本当に心が救われる第一歩なのだと気がつき。まさか、こんな形で。もう待たなくてもいい日が来るなんて、人生は分からないものだと。そう新たな感情を抱き、王の腕の中でゆっくりと瞼を閉じる。


死生の道化師、冠化 一依は。

この世界の王であり今宵の王者、またの名を時空の守護者である――詩條 胡宵の宮廷道化師として。 固執した血ではない、美しい青紫色の光を広げられる世界をようやく見つけ、幸福に生きることができた。



氷結の復讐劇を止めるのに失敗するまでは――。



―――



雲一つない快晴に恵まれ、窓から温かい日差しが入り、城の大広間を明るく彩るのに対し。 大広間にて集まっているお化け達の空気は酷く冷たく、張り詰めていた。



「――許しません。殺人鬼という大罪を犯した者が胡宵様のパートナーになる事など」


まず、威圧と毒のある厳しい声が断りを入れ。


「――認めないわ。こんな愛の欠片も無い殺人道化師を胡宵様のパートナーになんて」


次に、愛と憎しみを織り交ぜた声が反対を示し。


「――断固、拒否及び拒絶いたします。胡宵様、考え直してください。相手は死生の道化師ですよ」


三つ目は、冷たく凍てついた声が拒否する事を求め。


「――絶対にダメだよ!胡宵に何もふさわしくないよ!ただの血に飢えた化け物だよ! 」


四つ目が、高らかに上げて非難する声は怒りと拒絶を見せ。


「――否定はしたくない。でも、ちょっと心配かな。争い事をしたお化けを選ぶのは… 」


最後に止めとして、存在が希薄になる程に物静かな囁き声はやんわりと否定を述べた。



この世界の王である詩條 胡宵と死生の道化師である冠化 一依がパートナーの関係になることに。



「まぁ、それはそうだろうな。はぁ…、思った通りの普通の反応で安心しましたわー」



王とは違い、反対や拒絶する王子二人と使用人達の反応を見聞きして安堵する。

やはり、普通なら。殺人鬼をパートナーにするなど。この世界の王として君臨している者には相応しくないどころか。様々な意味で危険。メリットの欠片も無い、浅はかな選択だと反対や拒絶するのが当然。


つい、心を揺さぶられて王の隣に付いてきてしまったが。いくら王の権限があるとはいえ、人生の決断は自分達にあるとはいえ。世間や世界が許すはずがない。付いてきたのはマシでも何でもない。ただ互いに生き地獄で――いや、自分の場合は当然の報いだ。死生の道化師、殺人鬼として、破壊を繰り返したのだから。王であった時とは違い、今更、報いや罰を受けるのに文句は無いが――、


「何故、一週間も経過した今になって。否定や拒絶を?

準備に時間がかかるとしても。側近の使用人であるハイスペックな貴方達なら、王の目の届かないところで即座に罰を与えられたのでは? 」


疑問として。何故、一週間も経過した今になって。否定や拒絶をするのかが分からない。 王の側近だ。殺人鬼などが現れれば、王の身の安全を考えて。王の命令を無視してでも、自分に罰を与えるはず。 それなのに、今日に至るまで。客人をもてなすように丁寧な対応で接し、罰を与えるようなことはしなかった。 とはいえ、ある程度、可能性として。油断させてから等、策として繕っていたのもありえるが。相手は殺人鬼。王の身の安全を考えれば、一週間も猶予は与えられないだろう。余程、すっかり忘れていたとか、今日まで正体に気づかなかった等ない限りには。


「ああ、それは。昨日の夕食時に。お前の正体に気がついたからだ」


「――本当に、正体に気づかなかったのかよッ!!! 」


「とんだ失態だよ。側近でありながら、気づかないなんて。まぁ、私も有栖花達に言われるまで。気づかなかったけど」

「うん。胡宵も詳細に説明しないし。殺人鬼自身、自ら正体を口にはしなかったから。全く、気づかなかった……」


「全く気づかなかったって…、ここの警備、緩甘いにも程があるだろう!こんなんじゃ、王だけじゃなく。誰か死ぬぞ! 」


「そうだな。気づかなかったせいで、昔、お前とは別の殺人鬼に侵入されたことが……」


「当時から何一つ、変わってねぇッ! おいおい、アンタら側近だろう!? しっかりしてくれよ! つーか、昨日の夕食で気づいたのなら。昨日の夕食中に罰を与えればよかったじゃねぇーか! なんで、今日になって……、」


「食事は楽しむものよ。物騒な事、易々と出来ないわ」


「じゃあ、夕食後にでもすればいいだろう! 殺人鬼を野放しにするんじゃねぇ! これじゃあ、全滅エンドだ! 王、何故、こいつらを側近にした!? 俺の事といい、見る目が無さすぎるだろう!? 」


昨日の夕食時まで、正体に気づかなかったとは。驚愕すると共に警備の緩甘さに呆れ返る。 これでは、王が殺害されても言い訳はできない。同情の余地も――いや、この警備の緩甘さは側近達だけの問題ではない。自分が発言できる立場ではないが、王の見る目の無さは異常だ。側近として、二度もミスをしているというのに。仕事を即座に全うしないのに。何一つ、罰を与えず。放置しているとは――。


「アンタ、本当に王の自覚あるの? 世界はどうでもいいとか言っていたけど、流石にこれは良くないでしょ。 人生をどうとか言うなら。もっと、王らしく振る舞ってくれよ。説得力が消え失せるぜ。……いや、こんなんじゃ。王に相応しくない」


「うん?今の私では、失望に値するかい? 」


「ああ、失望どころの下がりじゃない。そこまで、ポンコツじゃ。誰も付いてきてくれない。王者なら王者らしく、頂点に立つ者として。皆の為にも、自分の為にも、しっかりと働かなきゃ。幸せっていうのは……、の、望みは。 と、にかく!放置は良くない!鍛え直した方がいい!何もかも、失う前に! 」


「…そう。なるほど。でも、私の色辞典には。一依に嫌われなければいい。一依さえ失わなければいいと記載しているから。別に関係ない。失望されてしまったことを除けば」


「……あー、これはダメだな。超厳しいサポーターさんがいなきゃ、少しも変わりはしない。終息ロード」


しかし、放置は良くないと告げても、王は意思を曲げずにいる。

自分が言える立場で説得力もないことは理解していたが、やはり頂点に立つ者。いくら、愛した者の拙い言葉では揺るがないのだろう。変わる気配の景色と空気に出す言葉も無いほど更に呆れ返り、この世界の行く先を不安視する。見る目が無さすぎる自覚の無い王。全く気づかないという失態を犯す側近達。そして、破壊を繰り返し行った殺人鬼が王のパートナーに。心が抉られるくらい気の持ち方が変わる厳格なサポーターが付かなければ。希望を見出すことなど――、


「じゃあ、一依がサポーターになってよ。パートナーだけではなく、宮廷道化師としても」


そう、結論付けようとした矢先。

王はとんでもないことを言い出す。それならば、宮廷道化師にもなりサポートしてほしいと。


その言葉と願いに困惑し目を大きく見開き、口を開閉する。

確かにサポーターは必要だと思い、呟いたが。何故、それで自分がサポーターに。宮廷道化師になるのか。 理由が分からず、疑問が膨れ上がる。だが、すぐさま、側近の一人が答えた言葉によって解消され、こちらとしても癪だが腑に落ちた。


「認めたわけでも、許したわけでもありませんし。償いになるとは思いませんが。

殺人鬼の前にしていた職業もあってか。破壊や殺戮以外の能力も非常に優れている。 年々、使用人が減ってきている今。胡宵様達や私達のサポート及び雑用係としては適切か。 その上、礼儀のなっていない饒舌も宮廷道化師としてなら、多少は見過ごせ。 元殺人鬼兼無職のパートナーという卑劣で恥ずかしい肩書きよりは遥かにマシ。 時に胡宵様も判断を間違うこともありますし、サポートによって、私達もミスが少なくなることを考えれば――。 ……癪には触りますが、宮廷道化師として傍らに置くのならば。これ以上の文句は言いません」


要は雑用係として職務に就かせれば、先程の事までが全て解決するというわけだ。

見る目も良くなり、全く気づかなかったということもなくなり、警備も厳しくなる。 過去の行いが消えたわけではないが。向こうとしては、世間や世界からしても、多少は役に立つので。そのまま、殺人鬼よりはマシという認識。


「――でも、当たり前だけど。俺には何のメリットも存在しないよね」


「ただ働きにはしないよ」


「え、ただ働きじゃないの? いや、そうじゃなくて…、」


結論、自業自得であるのだから。生かされることには、感謝しなければならない。

だが一度、殺人鬼として活動したことがある以上は。頂点から転落してしまった以上は。 たとえ、待たされることはなく。希望を見出したことができたとしても、幸福を手入れたとしても、異常なまでに固執する心がある自分に。何より、どんなに努力しても。永遠と足らないでいるモノを満たすこともできず、固執に溺れ酔っていた自分には――。


「――光が分からない。どんなに幸福を手に入れたとしても、それが明るい光だと素直に受け取れない」


冷静に思考を回せば回すほど、過去を振り返れば振り返るほど、固執に溺れ酔っている自分に。 幸福を手入れ、それを明るい光として素直に受け取り、前に進んでいくことは難しいと判明する。 もう、自分が自分の為に動いても。何のメリットも存在しないと。固執が一番に、一位に、頂点に立って最優先されている時点で。


「だから、俺に宮廷道化師は……」


「ねぇ、一依。その舞台はもう要らないんじゃない?

固執は固執でも、一番に楽しめる固執へ上書きした方がいいと思うよ」


「…は、一番に楽しめる固執? それを目指して今に至って、」


「それ、本当に楽しめる固執だったの? その舞台は心の底から本当に楽しめていたの? 」


無理だ、と諦観した断りの返答をする前に優しく引き離され。

固執を本当に心の底から楽しめていたのかと問われる。


王は何を言っているのか。

固執に楽しめる、楽しむといった要素は無い。無いはずなのに、王の考えは違うのか。

ただ真っ直ぐに押し付けてくる。


「心の底から楽しめない固執に固執していたら、それは幸福になることは難しいよ。一番に地獄な舞台だからね。 でも、その舞台を降りて。一依が心の底から楽しめる固執に固執すれば、幸福になれるのは間違いない。 そもそも、一依が行っていた創造をする活動は心の底から楽しむことができないと頂点には立てないよ。 立てたとしても、長くは居座り続けられない。心の底から楽しんでいる者にあっという間に取られちゃう。 何もかも全部、失い。努力が全て無駄になる。それが、その社会の仕組み。 仕組みに飲まれたくない。何もかも全部、失いたくない。努力が全て無駄になるのが嫌なら、心の底から楽しめる固執を選ぶべきだ」


「……いや、」


「だから、選んで一依。私のパートナー兼宮廷道化師になることを。それが、地獄の舞台を降りるべき一歩。 幸福になる新しい舞台の始まりだから」


「は……」


「私の言っている事は。思っている事は。確実にある未来だよ。

この世界の王。今宵の王者。時空の守護者である私に一依を待たせるなんてことをしない。今も、この先も、永遠にね」


「証拠は…、」


「証拠? 私が生きていることだよ。

一依に心を救われ、幸福な舞台で頂点に立つ事を見つけ直した私が生きていること。それが、何よりの証拠」


心の底から楽しめる固執が希望に満ち溢れ、永遠に一番に輝き、永久の一位に成れ、永続した頂点に立てるのだと。 自分がやってきた事は全て無駄ではなかったとして。全て価値あるモノとして、証拠を魅せる。この世界の王、詩條 胡宵が。自分の活動によって、自分の生き様を見て、自分の言葉で、自分の行いで。心が救われ。今、生きているのだと。


これ以上にない、覚醒を。幸福を。色彩を。未来を。頂点を押し付けて返す。

心の底から楽しめない古い固執の舞台から、心の底から楽しめる新しい固執の舞台へ飛び降りさせて。



「――待つばかりじゃ、ダメだな。アンタが待たせない事を確実にするのなら。

俺は待つことはやめて、心の底から楽しめる固執で踊らなきゃ。俺はもう――、何かも待たない。 本当に俺らしい色で、全てを一番に。一位に。頂点に立つ。自分自身にも楽しい演劇を魅せて! 」



「ああ、やっぱり。一依の色彩は素晴らしい。全てがどうでもよくなるほど、見惚れてしまうね」


目の前に飛び降りて来た手を取り、優しく傍に寄せる姿は実に魅惑的に映る。

素直に口が開いて、今度は詩條 胡宵の隣に立つことを選ぶほど。


「――詩條 胡宵のパートナー兼宮廷道化師になろう! 俺、冠化 一依。死生のお化けが! 」


詩條 胡宵の希望ある押し付けと心の底から楽しめる幸福な固執に。

心から全身さえも弾むように踊っていた。



―――



「そういえば、色辞典ってなんだ? 」


この世界の王である胡宵のパートナー兼宮廷道化師になり、数日ほど経過しお茶会を楽しんでいた時の事。 時折、胡宵の口から流れ出る【色辞典】という言葉。もしくは思想や意志とされる存在がどういうモノなのか気になり、【色辞典】がどういうモノなのか教えてほしいと胡宵に尋ねる。すると、胡宵はティーカップから口を離して紅茶を飲むことを一旦やめると。小さく笑いながら、【色辞典】について穏やかに語っていく。


「色辞典――、またの名をcolorful history。

私が独自に考え創り上げた、私らしく、私らしい色、お化けは恐れずポジティブな度胸と明るく自分らしい本性の精神で生きるための辞典。 そして、愛しい者――一依を温かく彩るための辞典だよ」


「自分らしく…。俺を温かく彩る…」


「そう。私が私らしく生き、愛しい者である一依を温かく彩って、華やかに祝福し、頂点に立たせるための歴史を創る。 とても素晴らしい辞典だよ」


色辞典。またの名をcolorful history。

自分らしく、自分らしい色で、お化けは恐れずポジティブな度胸と明るく自分らしい本性の精神で生き。愛しい者を温かくに彩るための辞典。その独自に創り上げた辞典を基に思考したのが【色辞典】だという。


【色辞典】――、その存在がどういうモノなのか判明すると、心から強く惹かれる。


「色辞典……、いいなぁ。それがあったら、もっと俺の舞台と未来は輝きそうだ」


色辞典があれば、より自分らしく活動できそうだと思う。

色辞典に自分らしい生き方を刻んでおけば、より心から楽しめる固執となり、舞台と未来が更に輝くと。 また何処かで躓きそうになった時や以前の自分へ逆戻りすることも少なくなると。 だが、これは胡宵が持つモノ。権利関係などを考えると、流石に自分まで持つのは――そう、思い直して諦めかけていると。


「じゃあ、一依も色辞典を創ったらどう? 一依はとても素晴らしい色彩を持っているから、きっと最高の色辞典になるよ」


「え!? ま、まま、マジ? 俺も創っていいの…? 」


「色辞典に権利等がどうのこうのって無いからね。それに、一依なら大歓迎だよ。好きにして」


また小さく笑って提案、いや好きに創ってくれて構わないと言い。むしろ、創って欲しいとこちらを優しい眼差しで見つめてくる。


なんという寛大さ。


あまりにも寛大し過ぎて言葉を失い、逆に創るのを躊躇ってしまいそうになるが。 せっかく構わないと。むしろ創れと許可してくれたのだ。ここは素直に甘えて、創ることにし。 紅茶を一気に飲み干して、胡宵にお礼を告げて、急いで自室へと足早に駆け込んでいく。


完成した自分らしさが詰まった【色辞典】で、より心の底から楽しめる固執を見つけ、舞台と未来を更に輝かせるために――。







「…………。

やはり、一依は素敵だ。

きっと、一依なら、彗亜の氷結を溶かしてくれる。そう、私の色辞典には記載してある。いや、記載するしかなかった。 愛しい者に。とても思い責任を背負わせてしまうなんて、なんて無能な王だろう。 ねぇ、カタル。お得意の預言でこの運命を、この時空を、この選択を変えられなかったの? 」


一依が自室へと駆け込んだ後の事。

王は【カタル】という名のあるお化けをお茶会と称し招き入れ、一依に重く冷たい氷を背負わせてしまった事を後悔しながら。運命、時空、選択を預言で変えることはできなかったのかと弱々しく尋ねていた。


だが、現実は厳しく。王の望んでいた言葉すら無く、カタルという名のあるお化けは淡々と言葉を紡ぎ。 どの道、同じだと語る。


「変えられたとしても。辿り着く先は変わらぬ。何故ならば、一依は死生をどちらも扱えるほど優しく。お主は、今宵だけの王者にしかならないのだから」


「そう…、それは本当に残念だね」


「そうだな。カザルネが全てを間違えたせいでなァ」


今は亡き者に責任を押し付け、今宵の王者を嘲笑うように。


「まぁ、たとえ。失敗があろうと。我々の未来は明るいから安心するとよいのじゃ」


最後に励ましを騙って。

我々というのは――、だけでしかないというのを隠し語り騙っていった。

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