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【焦燥のある固執 格差と努力】

毎年、最高品質の魔法と加護、身体能力を持ち。かつては、この世界を守護したとされる魔族の血を受け継ぐ赤子を生み、育て上げ。名誉ある立派な地位を手に入れ込んだ、そんな由緒正しいお化けの一族が将来安泰に浮かれていた時の事。


想定外の異端な赤子が生まれた。

最初こそは、大器晩成型と認識され。成長を温かく見守られていたが、認識は間違いだったようで。 赤子は何も成長することなく、他の赤子や兄達やらと比べると。歴史の観点から見ても、失敗作だった。 加護は無く。魔法も身体能力も飛躍しておらず、実に一般的。普通のお化けとして生まれたならばともかく、此処は由緒正しい一族。このような赤子は異端かつ失敗作でしかない。


これには、両親と兄達も含めて一族全員。失望と嫌悪を抱き。

こんな赤子は一族の恥で要らぬ存在だと。全てを拒絶し否定を隠さずに表し、徹底的に加虐した。 両親は赤子の存在など元から居なかったものとして無視を決め込み、兄達は傲岸不遜な態度で暴言を吐き、その他一族は皆、時に陰湿かつ陰険に。時に暴虐かつ残虐に。


結果、どうなったか。

赤子は卑屈になるまで自信を喪失し劣等感や無力感を抱くようになり、せめて少しは役に立てるようにと。日々、努力を重ね続けた。何をしたって、由緒正しいという古き考えに執着している相手には。何一つ、報われないと気づかず。努力すれば報われると信じ続けていた。役に立つと思い込んで、努力を重ね続け――少年期辺りには、表では仮面を被り、心ではひねくれた思考で生きるお化けに成長してしまった。加虐された上に努力が何一つ、報われないのだ。ひねくれたお化けになるも当然と言えるべきであろう。


しかし、それでも赤子――彼は格差に飲まれても破壊衝動や手を黒く染めるような事はせず、暗闇までに落ちぶれることはなかった。 皆に見つけられないよう、見られないよう、密かにやっている事がいくつかあったからだ。 その中でも特に絵を描くことに関しては、彼の唯一の楽しみと癒しになり、精神面に安楽を齎し。辛い事も乗り切れて――これも報われず、あの日、兄達の会話を聞くまでは。あの時、転落するまでは。



静まり返った夜の中。彼は今日も誰にも見つからぬよう、自室で密かに絵を描いていた。 だが、気楽な時間は長くは続かない。仕事から帰宅した兄達の会話が耳に入ると、自然と筆を止め、道具から描いた創作物を全てクローゼット中へと仕舞い込む。そして、ゆっくりと息を吐きながら。膝を丸めるように壁へともたれかかる。今回もいつものように。仕事の疲れやストレスからの八つ当たりと鬱憤晴らしも含めて罵倒してくるのだろうと。憂鬱な気分に落ちて。


兄達は彼が赤子の頃からも暴言は酷いモノであったが。仕事を始めてからは、より酷く増していき。誹謗中傷に近いとも表せる人格否定が目立つようになった。


とはいえ、それでも赤子や幼少期と比べれば、彼も成長している。ストレスによって、口が悪くなってしまい。捌け口として、自分より弱い存在だと思い込んでいる相手に八つ当たりするという、ネガティブな性格へ変貌してしまうことは誰にでもありえる。兄達の仕事がアーティスト兼エンターテイナーといった職業であるのなら尚更。 アーティストやエンターテイナーでも格差や努力が報われないというは多いにあるゆえ、暴言が増えても分からなくはないと――。しかし、だからこそ。彼は憂鬱でひねくれた考えに堕ちる。格差による痛みがどれだけのモノなのか、身をもって知っているというのに。自分への接し方や扱いは変えないのかと。客には、ファンサービスを欠かさないほど。あれだけ優しく接して、甘やかしているというのに。何故、自分には暴言などを増していくのか。


分かっているからこそ、憂鬱でひねくれた考えに堕ち、理解ができずにいた。

だが、それでも。いつかは兄達だけでも。客に接するような扱いを自分にしてくれる時が訪れると。 心の何処かで淡い期待を抱いたのも相まって、赤子の頃から同じく我慢を続けた。 それがどんなに無意味である事を兄達の会話を聞く直前までは。



「――いっそ。この世界から抹殺した方が良くないか? 」


「ええ。確かに、他の世界なら。一依を役立たせてくれるかもしれないわねぇ」


「もうさ。俺達は……邪魔にしかならず、楽になりたい……から」


「それなら、この世界だけではなく。魂諸共、抹消するの。その方が手っ取り早いじゃない? 」


「なるほど、その手があったか。実に名案だ、一魅。――ああ、何で今まで気づかなかったんだろうな…、本当」



部屋の外で行われている高笑いが響き混ざる会話は。今まで以上に彼の心を酷く傷つけ、自分の考えが無意味であることを知らされた。 結局、兄達は変わることはないのだと。客と同じ扱いや接し方はしてくれないのだと。ただ単に邪魔者として、死を望み。抹消という殺害することしか頭にないのだと。


そう、歪んだ絶望に衝動を起こさせるのには充分でもあった。

歪んだ絶望に飲まれた彼は、強力な魔法を込めた万年筆で自らの瞼から目の下にかけて引っ掻き、首元を貫き、腹を引き裂いて、大量出血による死を目指した自殺を図る。


出血により視界は赤く染め上げていたものの、衝動的に行ったお陰か、痛みは感じることはなく。快適に意識を失うことができた――はずであったのに。目指した先は叶わず、生き地獄への転落を導くとは。実に悲劇的である。



瞼を開けた先はあの世ではなく、薬品の臭いが漂う白くも清潔な世界――、病室であった。 彼にとっては悲しい事に兄達の計らいによって、病院へと運ばれてしまい一命を取り留め。辛い現実へ逆戻り。いいや、万年筆で瞼から目の下を引っ掻いた傷がしっかりと残って、より格差が生まれるという悲劇を自ら招いてしまう。 ただでさえ、格差の酷い扱いや接し方を受けているというのに。これでは、余計に増していくだろう。失敗作な上に傷物だ。由緒正しい一族は、より憎悪を抱いて許しはしない。


だからこそ、彼を戒めて嘲笑うように兄達は彼同様の傷を瞼から目の下に入れ。噓偽りの慈悲と謝罪を述べるのだろう。 和解したように信じ込ませて、安堵と幸福に満ちて油断しているところに致命傷を負わせ、死に至らせるためにも。


そうでなければ、兄達は自殺を阻止せず、病院へと運ばない。

彼を助けるような真似は絶対にしない――。


「今まで、本当にゴメンなさい。ワタシ達、許されるべきではない大罪を一依に犯してしまったわ」


「今まで、本当にすまなかった。俺達の方が無能で恥さらしだったよ」


「この歳にもなってまで、気づかなかったなんて。ワタシ達、兄失格ね」


「ああ、兄失格であり全てにおいて失格だ。俺達は…いや、俺達や両親も含めて。一族全員、恥ずかしい程の大罪お化けだよ」


嘘偽りであると理解しているからこそ。今更、慈悲と謝罪を述べられても。彼の心は動かず。 それどころか、憎悪と殺意を湧き上がらせて。怒りを買っていくだけ。


「今更…、」


声を濁らせ、歯を食いしばって、息が詰まったように吐き出す。

今更、慈悲と謝罪を述べたとしても。噓偽りであるなら意味ないと。信じ和解する理由にはならないと。


「そうよね。今更というか、遅すぎなのよね……

だから、少しでも償えるよう。心情も含めて、シェアしようと思って」


「一依が少しでも心が楽になれるように。俺達も瞼から目の下にかけて傷を」


「――今更、何なんだよ!そうやって、慈悲と謝罪を述べたところで…、そもそも、噓偽りでしかない言葉に。陰気で傍若無人の態度に。殺害の機会を窺う行動に。誰が、信じるって言うんだッ!誰が、そんなお前らみたいな心の無い悪党一族と和解するんだよッ!? 玩具にして遊ぶのも大概にしろよ!俺は、お前らの都合のいい道化師じゃねぇんだ! 」


濁りがより強い荒げた声で吠え、疑心に満ちた鋭い視線を向けて牙を剥き、兄達や一族に初めて反抗する。 それが自分の身を亡ぼす行為であっても、彼は反抗を止めずに。


「今度は俺が頂点に立ってやるッ!一番に、一位になって!お前らを跪かせ、生き地獄に転落させてやるッ――! 」


復讐の念も込めて、兄達を含む一族全員に報復を与える宣言を突きつけた。





だが、その日以来。下剋上と言わんばかりの格差に反抗及び反攻を示す宣言した故に。両親からは存在だけではなく縁そのものを勘当され、兄達とは互いに殺意を抱く関係に悪化。一族からはより陰湿で暴虐な扱いや接し方をされることになってしまう。しかし、もう以前のような格差に怯え、素直に従い、諦めて生きる彼ではないため。頂点を目指す糧として、原動力にしかならなかった。


一番や一位になれば、奴ら一族を生き地獄に転落させることができると――。


そう、信じ込み。闘志を燃やし、全てにおいて努力を重ね続けた。





結果、青年期には。当時にあった賞を全て総なめし、常に頂点に君臨する最高の創造者として成功していたが。 両親、兄達、一族は跪くことや何一つ態度を変えることはなく。どんなに一番になろうが。一位になろうが。褒め言葉の一つすら掛けなかった。むしろ、他のお化けを称賛し能力の差を比べていた。まだあのお化けの方が出来ると、あのお化けの方が相応しいと言葉を並べて。


やはり、由緒正しい一族に向けても報われないのだろう。

たとえ、どんなに自分が変わったとしても。相手も変わってくれるかと言われれば、価値観や思考が定まっている限り、決してないのだから。一族を、兄達を、両親を期待しても無駄にしかならない。ただ不満が募っていくだけだ。


しかし、それでも彼は諦めず固執し続けた。

いつかはきっと跪く――いや、自分に振り向いて、心の底からの想いと愛で褒めてくれると。 赤子の頃から手に入らなかったモノを、一振りでもいいから欲していた。


そう、本当の気持ちは想いと愛を求めていた故に、自ら転落するような真似は決してせずに頂点を維持していた彼だが。 頂点を君臨しても努力が報われない事から心身共に限界も近づいており、また自分よりも優秀なお化けが現れ、頂点の座を揺るがす事が忙しなく多くなった事から焦燥に脅かされ。報われるには、いつまで待てばいいと、本当の心の崩壊が始まっていた――。

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