表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/70

【選べない復讐 仮面優等生のお化け】

僕は優秀な魔法使いの一族の一人として生まれた。

両親は些細な事には動じない穏やかさと状況に合わせて臨機応変に動ける冷静さを持ち、兄は気さくで誰に対しても友好的に接する寛容的な性格で、姉は聡明で思慮深く、誰に対しても心優しい性格。また僕の愛する恋人である彼女は温厚かつ上品で笑顔が素敵なお化けと、家庭環境や身内関係にはとても恵まれていた。


そして、僕が暮らしている場所は。小さな街とはいえ、駅から最も近く。設備や出店も整っており、衣食住には困らないほど充実し。周囲に住むお化け達も優秀な者が多く。時には助け合える仲間として、時には競い合う良きライバルとして、共に成長する事ができ。勉学においても、とてもいい環境であった。


また、僕が最も信頼を寄せている友人兼良きライバルである――日照狸 威鉄(ひでり いてつ)というお化けが傍にいてくれることが嬉しく、誇りに思っていた。


――裏切られる瞬間までは。


―――


とても恵まれた半生を送り、特に悲劇や不幸といった事は起きずにいた。何事も無く平和を謳歌――してはいなかった。特にはというだけで、些細な事は起きている。他者から見たら、第三者目線で表したら、とても恵まれているからこそ。些細な嫌な事、闇深い事、あくどい事、裏切りは日々、起きている。


偏ったテンプレートな言葉、慇懃無礼で遠回しな嫌味な態度、徐々にネチネチと陰湿に追い詰める行動。 そんなのは日常茶飯事だと、物心つく前の幼い年頃の時点で気づき知った。万人が、全員が、皆が、全てのお化けが僕らを歓迎し、祝福し、平等に接してくれるわけではないと。そう、気づき知った瞬間から。素直な気持ちを表に出すことはできなくなり、本来の自分は閉じ込めて、心を閉ざすようになった。そして、いずれ裏切られるのなら、表面上は無害で大人しい優等生として演じ、裏では彼らの真似をするように復讐を繰り返す。それを何百年も続けた結果――、家族と恋人。友人兼良きライバルである日照狸 威鉄以外は誰も信用や信頼ができなくなった。それでも、当時は信頼できる者がいた分。大切な者には迷惑をかけたくないと制止でき、完全に手を黒く染めるような事や自殺願望というのは抱かなかったのだろう。


――でも、まさか。裏で行っていた小さな悪行の積み重ねが破裂して。仮面を斬られて裏切られるとは。


――家族と恋人を巻き込んで、死に追いやってしまうとは。


――なんて、滑稽な話なのだろう。踊らせていたつもりが、踊らされていたなんて。



「僕…、本当は何がしたかったんだっけ? 」



気づいた時には火の海の中。このご時世にはよくある話。自分がしでかした行動に気づかないまま、火種を注いでいく。 そして、罰として。冷たく凍った鋭い刃を投げつけられて。自分自身も、周囲も、全て氷漬けにされる。


こうして、それでまた。

裏切られて、裏切って、見返しされて、見返して、仕返しされて、仕返しして、復讐されて、復讐して。 こうやって黒く染まった真似ばかりして、復讐に生きる。――いいや、いい方向に持っていけない。人生をやり直せない、後戻りできない、取り戻せもしないという幸せを選べない復讐を自らの手で選んで生きていく僕には。


意外とお似合いの最期だったのかもしれない。


そう、思ったけれど。

氷漬けにされても、甘やかしてくれる者がまだいたらしい。


「血生臭い…、 」


たとえ、非難の声を上げたとしても。


「彗亜…、どうして。彗亜はどうして、裏切ったの…? 」


また逃げるように悲嘆に暮れて嘆いたとしても。



「――裏切り者の氷結を完全に砕け散らす、復讐劇を始めませんか? 」



復讐に生きることを甘やかし、救済処置を施してくれるようだ。

――色という、最も黒く染まった利己主義で強欲な化身が。


その救済措置は。性格や思考等は正反対ではあるものの、まるで、かつての恋人である彼女の――、



―――



「綿枷くん、大丈夫? さっきから、ぼっーとしちゃっているけど……

もしかして、具合でも悪いの? 医務室にでも行く? 」


清らかで可憐な声に呼ばれて、意識を現実へと向けると。

目尻を下げて心配そうにこちらを見つめる愛しい姿が目に入った。

数秒ほど時間をかけて、それが誰の姿なのか理解すると。すぐさま、姿勢を正しくして。心配はないと微笑みかける。


「少し考え事をしていただけさ。何処も身体の不調は無いよ」


「そうなの? それならいいけど…、無理しないでね。私に出来ることなら、何でも手伝うから」


「うん。もし、その時が来たら。遠慮せず、頼むことにするよ。ありがとう、月海ちゃん」


僕が無事であることを安堵した彼女――、穏輪 月海(おんわ つきみ)は「それじゃあ、行こうか」と清らかで可憐な声で誘って。僕の歩くスピードに合わせて 共に行くべき場所へと進む。


穏輪 月海(おんわ つきみ)こと、月海ちゃんは僕の恋人であり。

温厚かつ上品な性格で、清らかで可憐な声を持ち、笑顔が素敵なお化けだ。

僕はそんな魅力的な彼女の事を恋人としても。一人のお化けとしても。とても大切に想い、愛している。 だからこそ、先程のような失態は見せられない。彼女には笑顔で幸せにいてほしいから。何より、こんな闇深い世界に飲まれてほしくはない。彼女だけでも、僕が護らないと。


改めて、決意を固め。行くべき場所――、学園の教室に着いてもなお、常に周囲を警戒しながら、指定された席へと座る。油断は大敵で禁物だ。いつどこで何があるのか分からない。気を引き締めて、臨機応変に動けるよう態勢を整えなければ。


チャイムと同時に授業が開始し、次のテスト範囲について学ぶ。

正直、事前に知り尽くし、完全に理解し覚えている内容なので、復習にもならない。

後は、テンプレートに。この学園では、学年首席で優等生である僕が教師の問いに対して答え、適当な称賛を皆から浴びるだけ。実に退屈だ。 だが、この退屈な時間を常に周囲への警戒に回すことで。事前以上に彼女を危険な目から防ぐことは勿論。遭わせることはない。一部、例外を除いて。


こうして、授業が終われば。次に合間に挟まれる休息や昼食にも警戒を怠らず、優等生として振る舞い、評判を高めていく。全ての授業が終わり、帰宅する時間になってもなお、最後の最後まで。隅々まで警戒し、彼女を安全に送り届ける。彼女が完全に家の中に入るのを確認すると、ようやく――自宅に帰るのではなく。人気の少ない夜の街並みを静かに進みながら、日中でも普段、お化けが通ることない薄暗い路地裏を通り抜けて、血の臭いが漂う廃墟へと足は無いが足を運ぶ。


そして、ゆっくりと下を向き、あるモノへ顔を近づけて疑問を口にする。


「ねぇ、ここまでしろ。だなんて、指示していないんだけど? 」


「ヒィ…! め、綿枷様! 自分が悪かったです! お、お願いですから、命だけはご勘弁を! 」


あるモノ。それは、僕の大切な者達に悪口や文句を言った価値のないお化けだ。

僕が聞いていない、その場に居合わせていないと勘違いして。家族や恋人に面と向かって、悪口や文句を言っていた。 その時は、家族や恋人が社交辞令というフォローをし、後に続くように僕が声をかけたことで、奴が逃げてその場は収まったが、内心は傷ついていただろう。何より、僕としては許し難い行為だ。理由があろうと、なかろうと。家族は勿論、恋人である彼女の月海ちゃんを傷つける者には徹底的に罰を与えなければ気が済まない。だからこうして、適当に理由をつけて廃墟へと呼び出した後。自然と身動きできないほど夜が明けるまで、己が犯した罪を問い詰め、責め立て、精神的に追い詰め、更生という名のこの街からの退場をさせているのだが――。


「別に死に関する事は言ってないでしょ。何を思い込んで、自傷なんかしているの? 君は、此処で自分の罪について反省して、生まれ変わってもしないと更生すればいいんだよ。もう、僕の家族や恋人がいるこの街から離れるってことを」


今回の奴は、思い込みが酷いようで。自傷なんかをして、この場と罪から逃げようとしている。


そんな馬鹿な真似を逃すわけにはいかない。ここは自傷したことを責め立てながらも再度、街から離れろと指示をする。 しかし、再度伝えた事で思い込みが解けたのはいいが。震えた声音と怯えた様子で、街から離れるには金銭が足りないと言う。 この街に住んでいて、もう少しで成熟するお化けなのに、金銭管理がしっかりなっていないとは。なんと恥ずかしい事なのだろうか。とはいえ、奴にも何かしらの事情があったのかもしれない。ここは瞬時に出て行ってもらうためにも、慈悲を与えるしかないと判断し、それならば、売ればいいと助言をする。


――自分の骨を売ればいいと。


助言を聞いた奴は、全身から血の気が引いたように真っ白な身体を更に白くして。

滝のように涙を流しながら、時より間に吐息を挟んで途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


「な、…ほ、骨を…は、ふっ。売れだ、な。んて。そ、ぅ、んな…、でも。アンタにィ、ころ、ろ、される。くらい…な、ら ふふっ…、はァ……とんだ仮面を、被った。優等生様だ、な。アン、タ、月聡 綿枷は、ァ わあ」


最後に僕に対しての悪口を言うと、フラフラと身体を揺らし、ゆっくりとおぼつかない足取りで廃墟から立ち去る。 そんな奴の姿を見届けた後、僕も廃墟から出て、ようやく自宅へと戻り、明日に備えて身体を休めた。 後日、奴が街から完全に消えたことを確認し。今度こそ、奴のような一部、例外のお化けから家族と恋人を護るため、周囲への警戒を行う。


今日も表では、優秀なお化けの一人として。裏では、悪者を断罪するお化けとして。マンネリ気味の日常を過ごす。 そう、仮面優等生として――。


あの日、裏切られる前までは。



―――



いつも通り、常に周囲への警戒を怠らず、些細な事でも何かあれば臨機応変に動けるよう過ごしていたある日の事。 どんなに警戒し注意深く生きていても。一部すら嫌な事が起きてしまうのなら、最初から敵対する者いない状態にすればいいと、答えが出た。最初からいない状態にすれば、警戒する必要も無く安全であり、有意義な時間を大切な者達と過ごすことが出来る――と。しかし、最初からいない状態にするのは甘くはなく難しい。殲滅か壊滅に追い込む方法もあるが、僕の悪事が暴露してイメージダウンに繋がり、大切な者達を巻き込む――下手したら、心中という可能性も考慮すると。その方法は絶対的にダメだ。どうにかして、手を汚さずに。自らの意思で居なくなってもらわなければ。まずは情報収集だ。敵対する者――だけではなく、可能性のある怪しい奴らも全員含めて、細部まで徹底的に調べることにした。


何日、経過したのだろうか。全員分を調べるのには、やはり時間をかなり費やしてしまった。 しかし、費やしたお陰で。細部どころか全てを知ることができた。後は作戦をしっかりと立てて実行に移すだけ。 成功すれば、大切な者達と幸せで自由かつ安全な暮らしができる。そう、将来の事を考えると。なんだか心が弾んで、高揚感に満ちる。ようやく、ようやく――、自分が欲していた、望んでいた将来を、未来を掴み取ることができると思うと。――いいや、詳しい理由は自分でも分からないが。恐らくきっと、もしかしたら。もしかしなくても、何よりも他者の情報を全て知った事に高揚感も超える優越感と多幸感に満ちたからだろう。


他者にあまり関心が無かったせいも相まってか、他者の情報――秘密、短所、弱点等を全て知った途端に、何処か満たされていなかった心の欲求が勢いよく埋まっていき、自然と笑みが込み上げてくるほど優越感と多幸感に満たされる。とまらないと。たまらないと。


そして、全てを知った上で、相手を間接的にじわじわと追い詰めて追い出す。結果、望んでいた物事。全てが手に入る。 なんと、面白く幸せな事なのだろうか。自分の思い通りに、自分らしく生きられるなんて。なんと最高な事だろうか。


「あ、あは。アハハハハハハハ! 」


笑いがとまらない。笑みが絶えない。優越感と多幸感に――、


「でも、奴らの全てを知ってしまったことで、望んでいた将来を手に入るけど……

これ以上の優越感と多幸感で味わうことができるのかな? そもそも、本当に自分らしく生きられるのかな? 」


笑いが消え失せ、急激に不安に満ちる。

両親に見せる様子も、姉兄に見せる態度も、友人に見せる顔も、愛する彼女に見せる姿も。 本当の自分としてやっているかと聞かれたら、意外とそうでもない。いや、本当の自分は。生まれた時から見せていなかった。両親を安心させたくて。姉兄を喜ばせたくて。友人を楽しませたくて。愛する彼女を幸せにしたくて。気取ってカッコつけた演技をしているだけ。相手を尊敬し信頼しているからこそ、失望させたくなくて、弱いところを見せたくなくて、仮面を被り優等生として、踊りに踊っているだけだ。そう、生まれた時から大切な者達の前でも優等生を演じていたのに。敵対者などがいなくなっても、僕は本当に自分らしく生きられるのだろうか。変わらず、優等生を演じ。踊りに踊るのではないだろうか。ならば、これは本当に幸せになるのだろうか。本当に望んでいた――、


「いやいや、いい加減に落ち着いて。作戦を考えないと。こうしている間にも時間は進んでいるんだから。誰も待ってはくれないのだから」


我に返り、今は作戦を考えなければと頭と心を落ち着かせ、どうやって自ら居なくなることを選ぶのかを考える。 皆、それぞれ弱点等は違う。一人ずつやっては非効率であり、かといって一気にやれば、奴らからは勿論。第三者からも怪しまれる。ならば、中間を取り。あえて僕も巻き込まれれば。僕自身が疑われる可能性は低くなるだろう。裏側はともかく、表側の素性や言動は優等生として素晴らしいものばかりだ。そのため、基本的に巻き込まれた際の第三者目線からは、良くも悪くも優等生だったせいで、何かしらの嫉妬などで恨みを持たれていたのだろうと印象に片付く。自分の事で精一杯だから、深くは考えない。むしろ、自分も巻き込まれないようにと、よくある策を練って逃げるだけだ。稀に犯人捜しをする奴もいるが。僕だとは辿り着かない。証拠は全て隠滅済み、何処にも存在しないよう巧妙にやっているから。


さて、これで。方向は定まった。残るはどうやって、弱点等を突いて追い出すかだが。 空気感染で弱点等を放出すれば、証拠も残りにくい上に、たとえ残ったとしても魔法で隠蔽しやすく、手っ取り早いが。 流石の僕でも空気感染させることができるほどの範囲や威力は持ち合わせていない。なら、誰か風魔法に特化している者に協力を要請するの――は、悪事が全て暴露されてしまうから。やはり、魔法薬――購入履歴は抹消できても、販売製造を行った会社側のお化けが――。


「うーん…、時間はかかるが。風魔法の勉強をした方がいいか…いや、それも後々。あー、ダメだ。何にも思いつかない」


考えれば考えるほど、リスクの高いデメリットが出てきて、完全に行き詰ってしまった。 今の僕では、知識不足。実力不足だ。いない状態にさせるのは非常に難しい。しかし、時間は進み。相手は。誰も待ってはくれない。どうすれば。どうすれば。多少、妥協して時間がかかってでも。今以上の知識と実力を身に付ければいいのか。そうすれば、上手くいくのだろうか。作戦も。家族も。友人も。恋人も。僕自身も。仮面なんて被らなくて済むほど、全員が幸せに、――ならば。


――ならば、もっと。もっと、知りたいと。誰かの、この世界に生きる全生物と物事の情報を全て知りたいと。


落ち着かせたはずの欲求が再び燃え上がって飛び出してくる。

そうだ、全てを知ってしまえば。知り尽くし理解してしまえば。本当の幸せが手に入る。 演技だってしなくていい。踊らなくていい。仮面を被る必要はない。優等生として生きる必要もない。 大切な者達も。皆、自分の思い通りに――。


この時、全てを知りたいと。探求心と執着心が完全に芽生えてしまったからこそ、あの悲劇を起こす一因を生み出してしまったのかもしれない。きっと、もっと他に方法があったのかもしれない。――分かっている。後悔しても無駄な事くらい。



―――



「なぁ、綿枷。最近、皆に対して。少し出過ぎた真似をしていないか? 」


学園の授業も終わり、いつも通りに帰宅しようと出入り口へ向かい、廊下を進んでいた時。 前から少し困惑気味に満ちた顔をした友人兼良きライバルである――[[rb:日照狸 威鉄 > ひでり いてつ]]に呼び止められる。 しかし、呼び止められた理由である出過ぎた真似に関して心当たりがなく、疑問符を浮かべていると。溜息を吐きながら、僕の最近の行動について指摘と共に教えられる。


「まさか…、無意識だったとは。まぁ、いい。説明すると……

お前さんは。優等生としてもっと優秀なお化けにならなくちゃ、と励んでいるが。

その、やり方というか。方向性が。知らない事を調べるにあたって、プライバシーに踏み込むほど徹底的に聞くという行為が皆に迷惑をかけているんだ」


「えっ」


「お前さんが勉強熱心で優等生として頑張っている事は皆、知っているから。口には出さないが…… 以前と比べると評判は急降下している。このままだと、信用まで失ってしまうぞ。今のうちに言動に慎んで、頭を下げて、謝罪の弁を述べて、以前のお前に戻った方がいい」


「嘘でしょ…、そんな。僕はなんてことを……」


どうやら、作戦の事ばかり頭に入っていたせいで。僕は表側だというのに、限度を超えた悪行をしていたらしい。 流石にやりすぎたかもしれない。このままだと、作戦が酷い形で失敗に終わる。威鉄の言う通り、今すぐにでも以前の僕を演じなければ。しかし、今はもう夕方だ。帰宅時間でもあるので、大抵のお化けが自宅に帰ってしまっているだろう。いや、焦りは禁物だ。明日の朝にでも――。


「お前さんの事だから、今すぐにでも弁解したいだろと思って。皆を街の広場に集合するよう呼び掛けておいた。 到着する頃には全員、揃っていると思うが……どうする? 」


――と、謝罪を述べようと思っていたが。威鉄が僕の考えを読んで機転を利かしてくれたみたいだ。 ここは挽回、評判を元通りにするチャンスだと思い込み。場を設けてくれた威鉄にお礼の言葉口にして。早速、街の広場へと足を運んだ。





今思えば、少しでも疑問を持ち。彼の身動きを魔法で封じていれば、間に合ったのかもしれない。家族も恋人も失わずに済んだのかもしれない。敵は身近にいると。隣に潜んでいると。容赦なく裏切って来ると――。





広場に着いた途端、目の前に入った光景に絶句する。沢山のお化け達が、大切な家族が、愛する彼女が――、


「逃げなさい…!綿枷! 」


「早く、逃げて…! 綿枷! 」


「逃げるのよ!綿枷! 」


「逃げろ!逃げるんだ!綿枷! 」


「綿枷くん…、にげっ、」


順番に逃げろと名前を呼ばれ、慌てて駆け寄ろうと手を伸ばす頃には遅く。

家族と彼女の身に刃物が通った思えば、大量の血液をあちらこちらに流して、息を引き取っていた。 いや、息を引き取ったんじゃない。殺されたのだ。死に追い込んでしまったんだ。 僕と奴のせいで――、



「ああ、せっかく。謝罪の場を設けてやったのに。一言も口にしないなんて、意外と無慈悲で馬鹿なんだな、貴様は……。 仮面優等生の月聡 綿枷(つきそう めんか)様はァ? 」



皆を、母さんを、父さんを、姉さんを、兄さんを、月海ちゃんを魔法で操った鋭利な刃物で斬殺し。 僕が現状に気を取られている隙に背後から、同じく魔法で操った鋭利な刃物で切り裂いた。僕を裏切ったお化け。

日照狸 威鉄(ひでり いてつ)は――。


悪びれることもなく、ただ淡々と喋り散らしながら、血の色をした不気味な笑みを浮かべて見下していた。




―――




まさか、最も信頼を寄せ、友人兼良きライバルとして共に切磋琢磨してきたお化けに。裏切られるとは思わなかった。 しかも、こんなにも惨いやり方で裏切るとは。


困惑と焦燥が入り混じる。どう気持ちを整理すれば、どう思考を回せばいいのか分からない。 だが、血の色をした不気味な笑みを浮かべて、こちらを見下すお化け――日照狸 威鉄に理由を問いたださなければいけないことは分かる。


「威鉄!何故、君は裏切り行為をしたんだい!僕に恨みでもあるのなら、僕だけに仕打ちを与えればいいだろう!? 」


若干、声が震えながらも。何故、裏切って斬殺したのかを問いただす。


僕自身が何かしたという心当たりは威鉄に対してはない。だが、可能性として。僕が気づかぬうちに、威鉄自身は何か不満や恨みを持っていたともありえる。それも、殺意を実行に移すほどの。なければ、斬殺という裏切り行為はしないだろう。


数秒程の沈黙の後、不気味な笑みは変わらないものの。威鉄は、何処か悲哀に満ちた声音で淡々と裏切り行為した理由について語り始めた。


「そうだな。単純に手短に言えば、貴様自身と…、月聡家の存在が邪魔だったからだ。 難解に長く話せば、貴様の存在がある限り、私は学年首席という頂点に立つことはできない。加え、我が一族。日照狸家は将来、月聡家の補欠として、永遠に後回しにされる。もしくは、補佐として勝手気ままに扱われ操れるということ。奴隷としての、な。まぁ、多少なりとは私の私怨も入ってはいるが。この悪環境を逃れたいがために、斬殺という裏切り行為をしたのだが」


まさか、将来の立場が上下関係になるという予想もしていなかった理由に驚くと共に。それなら何故と激しく怒りが湧き上がる。 学年主席や僕個人への私怨は可能性として予想していたため、受け止めることができ、上下関係になるのも良くはないが理由としては納得がいく。だが――、


「その様子を見るに、貴様が将来どうなるかを知らなかったわけで。……無知は罪というものだな。ふふっ」


「――何故、月海ちゃんや無関係なお化け達を巻き込む必要があるんだ! 」


「ん? 」


「巻き込む必要性は皆無だ! 何故、月海ちゃん達を巻き込む!? 僕を…、月聡家だけを裏切ればいいだろう!? 」


声を高く荒げて怒鳴り散らす。

僕ら月聡家に恨みや怨念があるのならば、裏切り行為は僕ら月聡家だけにすればいいはず。なのに、無関係なお化け達。愛する大切な彼女まで巻き込むとは残忍にも程があり、最も許し難い行為だ。


どんな理由があろうと、無関係な者を巻き込んではならない。そんなこと赤子でも――、


「――そんなこと赤子でも分かる。確かにそうであるな。でも、貴様も怪しいというだけで。情報を知りたいというだけで。ちょっと、意地悪いだけで。それ以外には無関係なお化け達を巻き込んだではないか? 」


「……! 知ってい、」


「――知っていたさ。だから、貴様にも。私にも言える権利や立場はない。

それで、無関係の話だが。正確には皆、ほぼ無関係である。何でもない挨拶や日常会話はしているからな。少なからず関りはあるゆえ。…いや、今はそんな細かいことはいいか。さて、無関係なお化け達を巻き込んだ理由については。被害が大勢の方が貴様の心のダメージや損害がその分、多くなるため。月海嬢に関しては、月海嬢が貴様を選んだことにある」


「は? 」


「私は誰よりも月海嬢を愛していた。しかし、月海嬢は私ではなく。貴様を選んだ。 「僅かな時間でも、綿枷くんの傍にいるだけで。心が落ち着けて、幸せなのよ」と、たったそんな理由で。 仮面を被って、偽善を繰り返す貴様を選んだのだ。真っ当なお化けより、悪に染まるお化けを。 だから、だからこそ。この機会を企てた。月聡家だけではなく、見る目のない腐れ月海お嬢さんを」


「ふざけるな――! 」


「ふざけているのは貴様らの方だ」


怒りに任せて、魔法を威鉄の首元と腕に目掛けて放つ。しかし、あっさりと避けられ。逆に返り討ちに遭ってしまう。


無関係なお化け達を巻き込んだ性格の悪い理由、彼女を巻き込んだ身勝手な理由と貶した言葉。 それが引き金となって憎悪と殺意が膨れ上がり、威鉄に復讐する原動力には充分だった。 一度は受け入れ納得できたものの、やはり家族を斬殺したのは許せず。その上、あんなくだらない理由で彼女と無関係なお化け達を巻き込み、斬殺したのは許せなかった。


――許せなかった。だから、復讐するために。泣き叫びながらも。何度、避けられても。返り討ちにあっても。魔法を放ち続けた。しかし、圧倒的の力の差と前には。この復讐心は無力だったようで、魂諸共、目掛けて飛び込んでくる無数の刃には。



死を悟って、一気に絶望の色に感情が染まった。














だが、絶望の色へと一気に染まった感情は。すぐさま、驚きと困惑に上書きされ。


「俺は蕾努 彗亜。お前を討伐しに来た……ただの無能なお化けさァ」


落ち着いた低い声で、威鉄を討伐するために現れたと名乗り出たお化けに状況を覆された。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ