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【生まれつきの無能と無による失望】

俺は、魔法は使えないが優秀な科学者である両親の元で双子の弟として生まれた。

片割れであり、双子の兄として生まれた有栖花(あすか)は。両親と同じく優秀で才能あふれる神童として将来を期待されていた。 またその二年後に生まれた双子の姉妹である二人も優秀であり、将来は安泰だろうと温かな目で見守られていた。 一方で俺は、そんな優秀な兄、妹二人とは違う劣悪な欠陥品、駄作、失敗作だった。何をやっても無駄で無意味な生まれつきの無能として、両親の血を引き継ぐ事なく生まれてしまったのだ。それでも、両親は兄、妹二人と同じく、将来に期待を持ち、偏ることなく愛情を注ぎ、差別することなく大切に育ててくれた。そのお陰でこの時の俺は特に不自由なく、歪みのない明朗快活な頑張り屋として生きてこられた。兄妹仲も良好で笑いが絶えない幸せな月日を過ごすことができた。 しかし、それは両親の上司であり所長かつマッドサイエンティストの魅澄 美朸(みす みりょく)が殺戮兵器として俺達を改造すると言うまでの話。


この世界の半分が滅んだら、どうなるかと知りたい見聞きしたいという興味本位と。器として、俺達兄妹が最も適しているという理由で改造したいという事だった。勿論、これには両親も俺達も反対。だが、俺達の意見や意思を無視して、強引に改造し始めたのだ。目の前で両親を惨殺し、大人がいなければ抵抗できない、幼く力のない俺達を連れ去るという悪質で残忍な方法で。


改造が終わり、殺戮兵器として生きることを告げられた俺達は。両親の事もあって、酷く悲しみ。酷く憎み。美朸への復讐とここ研究所から脱出することを誓ったがいいものの。改造の影響により、妹の一人は、より辣腕かつ厳格で毒を吐く性格へと変わり、もう一人の妹はより万能かつ残忍で物騒な物事を好むようになり、片割れである兄はより有能かつ頼りになる才色となり、俺、蕾努 彗亜は――。


生まれつきの無能が災いし、持つことになった氷の魔法が自由自在に操れることや扱えることも出来ず、ありとあらゆる物事全てを氷の世界へと凍らせることしか出来ない、より本格的な失敗作へとなってしまった。そうなってしまった事により、兄妹の優秀さに劣等感、孤独感、疎外感、無力感の四拍子を抱くようになり、性格はどんどん歪んでいき、自分の無能さに失望することばかりであった。 それでも、俺は複雑な気持ちはあるものの。兄妹を悪く思うこともなく、唯一の三人しかいない肉親として大切に想い、兄妹仲もこじれる事はなかった。美朸に復讐し、ここから、脱出さえできれば、自由に幸せに生きられると信じて――、



「残念だけれど、君達は用済み…いや、違うか。君達は必要なくなった。滅ぶことに興味はなくなった。 いや、正確には。元々、殺戮兵器として改造したら。君達はどう動くのかを研究するためにしたまでで。 つまり、全ての研究が終わったって事で。調べ尽くしたって事で。後、自らロボットのお化けを制作するという企画を思いつき、実行する事にしたという意味で。まとめると、君達を破棄することになったんだよ」



真実と理由を淡々と話し、にこやかな笑みを浮かべて、俺達を破棄するべく。弱点である風の魔法を放つ準備を始める。 いや、話した事だけではなく。殺される前に殺すというのも入っているのかもしれない。いずれ、復讐されるというのを理解しておきながら。自分の罪は認めず、償うことはしないと証明するように。


だが、だからといって容易く破棄される俺達ではない。予定は早まり、狂ってしまったが、こちらも殺される前に殺すという選択肢を選ぶ。いいや、正確には。今の状況では、復讐どころか。勝てる確率は極めて低いと いち早く気づき、判断した兄が美朸の魔法を奪うと同時に津波で停電を巻き起こし、俺達の手を取りながら脱出したのだ。


「ほう…、一つだけ魔法を奪える能力を付けたのが仇となったか」


脱出する直前に苦笑いを含んだ台詞を最後に。

兄に連れられて、遠く、遠くへと、足は無いが息が切れるまで全力で走りながら。



―――



死ぬという感覚を一度、味わった事があるが深くは思い出せない。

それに加え、俺達は脱出したがいいものの。食料は勿論なく、休むこともなく走り続けたせいで、魂が限界を迎えて力尽きてしまったのだ。だから、本来ならば。あの世に逝っているはずなのだが――、


「目が覚めたようだね。

私は詩條 胡宵(しじょう こよい)。両隣にいるのは、君達と同じく双子であり私の弟で。ジト目気味なのが、夜仲(よなか)。ツリ目気味なのが、世明(よあけ)


夜仲(よなか)だよ。よろしくね…」

世明(よあけ)だよ。よろしくね! 」


「それで、私はこの世界の王。二人は王子であり、君達の新しい家族だよ。

色々と疑問はあるかもしれないけど。幸せに過ごせるように努めるから、仲良くしてくれると有難い」


王の優しさと権限、そして蘇生効果のある魔法薬を使われたことにより、俺達は第二の人生を歩む事となった。


―――


王と王子二人が俺達を家族として受け入れた事に最初は疑問を持ち、不安が募っていたが。 本当に心の底から与えてくれる愛情と優しさ、多忙な身でありながらも、生きていくうえで必要な知識や教育をしてくれる献身さに。噓偽りはないのだと感じ、感謝と共に王には恋心を抱くようになる。だが、その反面。劣等感や無力感、孤独感、疎外感というものは尽きることはなく、増すばかりであった。


王や王子二人が優しく懸命に教えてくれているのに。上達しないどころが、凍らし何もかも全て出来ずにいた。 魔法をコントロールできるように器具を身に付けさせてくれても、全くもって無意味で変わらず。 損害ばかりを生み。むしろ、何もしない方が役に立つ事が殆どであった。そんな役立たずの無能な俺に比べ、兄妹は数秒程度の速さで飛び跳ねるように成長し。特に兄は掃除洗濯、工芸制作、園芸の三つが、ずば抜けて有能で。妹の一人は、料理が世界的に認められる程に万能であり、もう一人の妹は、雑務は勿論、戦闘においても敵はいない程に辣腕。また兄妹は幼いながら自ら王の側近の使用人に立候補するほどであった。


だから、俺もなんとか負けじと。王の側近の使用人として名を上げて雇われても、仕事がもらえたとしても。 すぐに兄妹に取られ、かわれ、なくなり、気づいた時には――、


「傍にいるだけで十分ですか…? 」


「そうじゃなくて、私達の話し相手や遊び相手になってほしいって事だよ…」


「二人よりも三人の方が楽しいからね!これからも、たくさーん遊ぼうね! 」


優しい否定や嘘を吐かれるほど、俺はついに、本当に何もしなくていいと暇つぶしの相手として見限られてしまったのだ。 しかし、これも後に登場する宮廷道化師によって無くなり、全てにおいて無によることによって狂乱してしまった事をきっかけに砕け散るだけだった。




―――




「まさか…、わざわざ、邪魔をするために此処へ来たのですか? 」


ある日、殺人鬼が城へと侵入してしまい、王と王子二人を護りながらも捕えようとしていた時。 偶然にも俺は廊下を出た途端に殺人鬼と出くわし、捕らえるため魔法で仕留めようとするが。コントロールできないのを忘れていた事、慌てて即断即決で放ったせいで、間違って自分の足元を凍らしてしまい、滑って転び、身動きが取れなくなる上に。殺人鬼に全身を切り裂かれ、逆に返り討ちに遭い、逃避の手助けをしてしまう。 その事を後から聞きつけて知った妹の一人――、(きび)に怒りを帯びた眼差しと口調で咎められ、非難を浴びせられる。 自業自得といえば、そうなのだが。それでもこの時の俺は、少しでも役に立ちたいという想いで行動していたため。 邪魔しに来たわけではないと、そもそも、偶然にも出会ってしまったため――という言い訳と捉えられても致し方ないことを弁明していたのだった。勿論、そんな弁明ばかりする俺に更に怒りが湧いた厳は。


「何もしないでと命令されたのにも関わらず、愚かな言い訳ばかりして……

本当に恥ずかしくてたまりません。こんな無能が兄であることがとても恥ずかしい。 いいですか、お兄ちゃん。お兄ちゃんの身勝手な行動が悪影響を及ぼす原因なのです。 第一、そもそも。全てにおいて何も出来ない、本当に無能の役立たずなのですから」


より強く咎め、責め立て、心底失望した様子を見せる。

そして――、


「いい加減に気づくべきですが、此処にお兄ちゃんの存在など必要ないのですよ。

だから、傷が完治したら。此処から出て行ってください。消え失せてください。

邪魔ばかりする無能な兄の顔など。一生、見聞きしたくありませんから」


酷く冷たく突き放す。邪魔ばかりする無能な兄である俺は必要ないと。

妹にすら見限られたのだと、その言葉がきっかけになるほど鋭く突き刺さったのか、心も思考も全てが凍り付く感覚に陥ると、徐々に不気味な笑い声が込み上げ。


「……あははは、ハ。」


「お兄ちゃん? 」


「あ、あぁ!!そう言うと思ったよ!!その通りだよォ!!

冷やかししかできない、場を凍らせることしかできない、生まれつき無能の恥さらしだよ! 」


怒り狂うように、悲しみに暮れるように、失望に染まるように、笑い、叫ぶ。

声が枯れるまで笑い、叫び。全身が酷く不気味な者へと成り果て、周囲は極寒地獄とも表せる程に凍てついて、氷の世界を生み出す。 笑い、叫び終わると、怒りから困惑に満ちた顔でこちらを見つめる妹に向かって、冷たく寒い宣言をする。


「どう頑張っても、どう努力したって、どう足掻いたって、無駄で、無意味で、無価値な程に俺は無能だァッ! だからどうせ、俺は冷やかして、凍らせて、邪魔して、破壊するだけなんだよッ!そう、ぶち壊すだけだ…、 だったら!このまま…、全てを凍らせてやるッ!極寒地獄に堕としてやるッ!この魂が砕け散るまでなァ! 」


宣言を終えると、廊下の窓を突き破って、城の外へと出る。全てを凍らすために。

どうせ、俺は――と感情的に、衝動的に、本能的に、狂乱したままに。


「待ちなさい!――いえ、待ってください。お兄ちゃん! 」


手を伸ばすように制止をかける妹の声を無視して、氷の世界を作り出す。

狂乱していた時の記憶が殆ど無くなるまで――。



―――



狂乱状態から解けた時には、自室という名の牢獄に閉じ込められており、両腕と首元には鎖で繋がれた枷がかけられていた。また檻の外には無表情で立つ妹――厳の姿があった。俺の意識が完全に回復した事を確認し終えると、閉じ込められた理由と今後の俺の対応について説明する。


「何故、このような結果となっているのかは簡単です。生まれつきの無能かつ魔法がコントロールできない上、狂乱状態に陥る程の精神状態である事。また狂乱状態に陥ったことで多大な損害を生み出してしまった罰として枷を付けられ、牢獄の中に閉じ込められ、そして拷問する事となりました。お手洗いやお風呂に関しましては自由に行けるのでご安心ください」


魔法の事は勿論のこと、狂乱状態に陥って損害を生み出したことにより、罰として拷問を受けるまでの軟禁状態になったとのこと。それはそうか。自業自得に過ぎない。今まで以上に損害を生み出してしまえば、大罪人として扱われるのは当然の事だろう。だが、ある意味では本望である。どうせ、俺は生まれつきの無能であるから。将来も未来も無いのだから。此処で砕け散るのは実に嬉しい事だ。


「はっ、あははは…」


「何を笑っているのですか?危機的状況であることを伝えていると言うのに」


「いや、ある意味では本望だったから。つい、笑いが込み上げてしまってな」


「そ、うですか。まぁ、お兄ちゃんがそう思うのであれば。こちらとしても助かります。 ああ、そうだ。狂乱した影響かは分かりませんが…、外見が以前とは変わり果てているのですよ」


本望だと告げると、若干、怪訝な表情を浮かべるが。何処か思い出したように、内ポケットから鏡を取り出し。俺の方へと向け、外見について、以前とは変わり果てていると伝える。 鏡に映された自分は、変わり果てているというより。別人とも捉えられるほど、変貌していた。 頭の天辺はギザギザに逆立ち、目付きは吊り上がって鋭くなり、口はおぞましい程に鋭く尖った牙が生え揃い、身長も五センチメートルほど伸びている。またよくよく自分の声を聞いてみると、笑い叫んだせいなのか。掠れた低い声になっていた。以前、狂乱前は体色と瞳の色が違うだけで。兄と瓜二つだったというのに、随分と変貌してしまっている。


ここまで変貌してしまった事の驚きや絶望感よりも、兄と瓜二つではなくなったことに。なんだか、悲しいような。寂しいような。嬉しいような。複雑な気持ちを抱いている。――でも。


「これなら、家族でも。兄妹でもないってことが分かるから。お前達に迷惑かけなくて済むな」


「――――! 」


「もう恥ずかしい思いなんてさせはしないさ」


狂乱した時とは打って変わって受け入れ、優しく微笑む。

自分の本望だけではなく。これで、兄妹も。王も。王子二人も。皆に迷惑をかけなくて済むのなら。 本当に大罪人として扱われるまで堕ちて砕け散ってしまったのなら、孤独感も。劣等感も。疎外感も。無力感も。

負の感情など抱かなくて――、


「お兄ちゃん――!無自覚、無意識に行うのもいい加減にしてください! 」


突如、荒げた声を上げて責め立てる妹に驚き。その先を考えるのを一時的に停止させる。 何を無自覚に、無意識に俺はしているのかと尋ねる前に。妹から何処か悲哀に満ちた表情を織り交ぜながら答えを出される。


「何度も何度も自傷行為や自殺未遂を繰り返して…、こっちの気持ちを少しは考えてください。 このアイスピックは没収です。次、同じ事をしたら。拷問なんて甘いものでは済ましませんから」


どうやら、俺は無自覚に、無意識に自傷行為や自殺未遂を繰り返していたらしい。

そういえば、確かに切り傷などがやけに多く。魔法がコントロールできないから飛び火でもしていたのかと思ってはいたが。知らず知らずのうちにやっていたのか。とはいえ、今更。恥ずかしいと否定しておきながら――いいや、受け入れたんだ。迷惑がかからないということで。それに、あれは本心ではない。本当は――、


「ああ、迷惑をかけるばかりの無能で悪かったなァ」


だが、どうして不気味な笑みを浮かべて、意地悪な発言をしてしまうのだろう。本心ではない事は理解しているはずなのに。 素直になれず、気持ちを上手く伝えられない 他者にも、身内にも、自分にも厳しいたった二人しかいない妹の一人だというのに。


発言した後、眠ってしまったのか分からないが。その後の事はよく覚えていない。

ただ次、妹が訪れた時は。拷問をするため。もう一人の妹が来た時は。食事を与えるため。兄が来た時は――、


「すまないな。彗亜。どうやら、魔法薬の副作用が悪化したらしくて…、唯一、治療や制止できるのがお前しかいないんだ。だから、俺の治療担当として暫くはより縛られるようになった。本当にすまない」


自分の介護をしてほしいと頼み込み――いや、強制的に担当となったことを告げるため。 そして、監視有りの介護する時だけ、追加で一時的に外へ出られるようになった事。 王と王子二人は安全面から接触を禁止にさせられていたため、訪れる事は一切なかった。 そんな日々を何百年も過ごしてきたせいか。王への恋心も、王子二人への友好も、兄妹への愛情も徐々に無くなり。 無による失望によって、全てがどうでもよくなるほどに諦めがつき、ただ明日を迎えない事だけを待っていた。


――しかし、そんな日々の中でも。こんな生まれつき無能な俺でも。転機が訪れた。


「はぁ…、なんで俺が。あっ、お前が兄上さんですか? 飯を届けに来ましたー」


面倒くさそうな表情を浮かべ、棒読みで食事を届けに来た宮廷道化師と出会った事によって。

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