【一般の方は極度の死にたがり/死にたがりの癖と習慣】
目を覚ました者に満面の笑みと共に歓喜感銘の声を上げられ、自然と議論が収束を迎える。 ただでさえ、連れ去られた理由も。デスゲームへと強制参加させられた理由も分からず、困惑し。犯人が誰なのかさえ、特定していないのに。デスゲームに強制参加させられていると告げたことにより、更なる困惑へと導くとは思いもしなかった。
普通、何者かに連れ去られた挙句、デスゲームへと強制参加させられていると聞けば。戸惑い、疑心、怒りを抱くというのに。目を覚ました者は、満面に笑みと共に歓喜感銘の声を上げている。一体、どういう心境なのだろうか。目を覚ました者の様子に更なる困惑を導いた結果、新たに議論が開催された。
「一定数、こういうのが好きな奴がいると知ってはいたが……」
「いや、フィクションじゃなくて。リアルだぞ。いくらなんでも、おかしいだろ」
「あまり考えたくはないですけど…、この方はあっち側で……」
「うっわぁ、それヤバいじゃん。本当にそうだとしたら、ヤバいし!納得! 」
「いやいや、やめましょうよ。もしかしたら、激しい混乱を起こして。反対の事を言っているだけなのかもしれませんよ? まだ判断するには早いとワタクシは思います…、けどねぇ? 」
「ね、ねぇ、あ、あのさ……、何者かに連れ去られた挙句、デスゲームに強制参加させられているんだよ。 どうして、そんなに喜べるわけ? 」
更なる困惑を収めるため、心境を知るため、デスゲームに強制参加させられていると告げたお化けが恐る恐る尋ねる。 尋ねに対し、満面の笑みから真顔に変えると。平然とした態度で軽く口にする。
『――死にたいからですよ』
口に出された答えは、本当にあっち側――死にたい側であった。
まさか本当に満面の笑みと共に歓喜感銘の声を上げていた心境が【死にたいから】だったなんて。 心境を知り、納得は出来たが、収めるどころか 困惑から恐怖へと移り変わってしまった。 これでは、犯人捜しどころではない。デスゲームというのは。ただでさえ、全員が無事に生存し脱出するのが難しいというのに。死にたい側の者が参加させられてしまっては、誰一人――。
――いいや、いくら後悔したところで遅いのであろう。
生かし、死なせないという選択肢ができない以上はどうすることもできない。
何者かに連れ去られた時点で、この者の運命は決まっていたとそう諦めるしか――、
「そうか。死にたいからか。理由は分からないが、まぁ、今は…脱出するまでは、死ぬのはよしてくれないか? 俺、仲間に誰かが死ぬところを見せたくはないんだ。だから、申し訳ないが。延命してくれないか…? 」
諦めかけた時、落ち着いた低い声が。遠回しに【生きてほしい】と優しく穏やかに頼み込む。 仲間の為に。相手の為に。いつだって彼はそうだ。優しく穏やかに頼み込んで、皆を救おうと。 しかし――、死にたい側の者にそんな言葉が届きはしない。救えないのは明白だった。
『は? 気持ち悪いですね。何故、貴方達の為に延命しなくてはいけないのですか。
せっかく、私が協力を求めるのをやめて。幸福へと向かおうとしているのに。邪魔するとは、最低で 心底、気持ち悪い』
「でもさ、どうせなら。最期は【人の役に立って】からの方がいいんじゃないか?そうすれば、誰も文句は言わない……」
『しつこい。本当に気持ち悪いほど、しつこい。
延命なんてもうしたくないのに。わざわざ、生き延びさせて。地獄に何度も遭わせるなんて、本当に最低ですね』
気持ち悪いと否定を重ねて、【生きる】選択肢を拒む。
ここまで、死に執着してしまえば。救えはしない。だから結局、諦めるしかない。
諦めるしかないが――、彼は優しいから、仲間の為ならば諦める選択肢はしない。
「このまま、否定し拒絶をしていれば。死ぬ確率は下がると思うぞ。
こうしている間にも時間は少しずつ刻んでいるんだからさ」
『しつこいにも程がありますけど、確かにこのまま無限ループに入られては困る。
いいでしょう。死ねるのであれば、貴方の願いとやらを聞いておきます』
「ああ、それは助かるぜ。ありがとう」
諦めなかったお陰で、一旦は死の選択を逃れられることができた。
しかし、その一旦が終われば。死にたがりは――、いいや、せっかく彼が延命させてくれたのだ。この先のことなんて考えないでおこう。今は脱出するまで全員が生存できることを考えておこう。いずれは、赤の他人になるのだから。
「そうだ。軽く自己紹介でもしないか? 俺達はともかく…、名前を知らないままだと不便だろう? 」
『普段なら、嫌だと拒否をしますが。無限ループに入られても困るのでね。
自己紹介しましょう。さっさと自己紹介して、脱出しましょう』
「決まりだな。じゃあ、お前から順に自己紹介してやってくれ」
そんな投げやりの感情でいる自分達とは違い。
別の意味もあるのだろうが、また遠回しに彼は延命させてくれている。
自己紹介という時間潰しで、互いの利益の為に話がスムーズに進んでいく。
―――
最初に自己紹介をしたのは。
彼に指定された通り、死にたがりの瞼を強制的に開けさせた張本人である透き通った高らかな声のお化けだった。
「ワタクシの名は、冠化 一依。一度も転落することなく、常に一位や一番に君臨する素敵で華麗なるお化け。その素敵さは思わず、マスターさんが惚れ込んで連れ去ってしまうほど。ふふふっ…、まぁ、貴方もワタクシの魅力に惚れ込んで延命してくださっても構いませんが。脱出するまでの間は宜しくお願い致しますね。死にたがりさん」
――冠化 一依。
白い体色をしており、頭の上には深みのある青い二本の角が生えている。また角と同じく深みのある青に紫がかったツリ目気味の瞳。何処か貴族や王族、道化師のような化粧や服飾を身に纏っている。 胸のあたりに手を当て、相変わらず自惚れた言動には、身内でさえ背筋が凍りそうになるが。 若干、延命してほしいと願っているため。何処か思うところがあり、仲間と他人に対する慈悲は少しあるのかもしれない。続いて自己紹介をするのは、犯人であると断定されてしまった――いや、されかけてしまったこちらの方と称されたお化けだった。
「僕は月聡 綿枷。よくいる普通のお化けさ。気軽に綿枷と呼んでくれて構わないよ。短いか、長いかは分からないけど。脱出するまでの間はよろしくね」
――月聡 綿枷。
少し灰色が混ざった紫の体色と紫みが多めの青紫色をした少しツリ目な横長の瞳。また濃い紫のアイシャドウをしており、瞳の色と同じくドレス系統に似た服装を身に着けている。 優しく微笑み、手短に自己紹介を済ます。 ただその微笑みの裏を考えれば、本当に延命してほしいと思っているのかは分からない。 次に自己紹介をするのは、言い争いに発展するのを窘めて防いだ、幼く可愛げのある甲高い声だった。
「僕の名前は、斬堵睹 夢玖だよ。
脱出するまでは、勝手に死なないでね。僕達にとって、これっぽっちもメリットって奴がないからさぁ」
――斬堵睹 夢玖。
灰色が混ざった薄めの黄緑の体色と暗く深みのある緑色をした三角の瞳。マフラーに似た深い緑と暗い緑が交互に二色入った物と深い緑色をしたコートを着用している。 無邪気な笑顔を浮かべつつ、勝手に死ぬなと自分達の利益を重視して念を押すのを見る限り。 心の底では死にたがりを信頼していないのだろう。初対面だけではなく、歓喜感銘の声を上げるほどの死にたがりであるがゆえに。次、四番目に自己紹介をするのは。死にたがりを延命させた、落ち着いた低い声の彼だった。
「俺の名前は、蕾努 彗亜だ。何の取り柄もない生まれつきの無能さ。
約束通り、脱出するまでは延命してくると有難い。宜しく頼むぜ」
――蕾努 彗亜。
明るめの水色の体色と両腕には切り傷のような傷跡があちこちにあり、ジト目に近く少しツリ上がった切れ長で灰色が少し混じった水色の瞳を持つ。また黒い手袋を着用し、濃い灰色のファーに似た襟巻と水色のグラデーションを彩る服装とマントを着ている。 自ら、生まれつきの無能と称し。改めて延命することを願う姿は。 何処か、何か引っかかるような気がした。だがそれを誰も追及することなく。次、自己紹介をするお化けへと続いていく。
「私は、彩舞 色と申します。
脱出すること以外は関わることがないと思いますが……、よろしければ、宜しくお願い致します」
――彩舞 色。
瞳と口元の部分は空いている、やや灰色の顔隠しの布を被り、薄暗い虹のような七色のグラデーションが特徴的の横長で四角い瞳をしている。そのため、体色は不明。また恐らく、かなり暗めかつ赤紫が混じった灰色をしたノースリーブのワンピースを着用しているのだろう。 目線を真っ直ぐではなく横に向けて、少しおどおどしい挨拶をする。 無理もない。まさか、目を覚ました者がデスゲームと聞いただけで歓喜感銘の声を上げていた死にたがりなのだから。六番目に自己紹介をするのは。手のひら返しの早い、凛とした冷静な声だった。
「錠苑 快輝。表面上は気さくで律儀な真面目君。裏では、陰湿な粋がり野郎だ。 今のところは死にたがりって以外は無害だから、こっちだって何もしないけど。
俺達が――、特に色が損するような真似をすれば、ただじゃおかないぜ? 覚えておきな」
――錠苑 快輝。
自由自在に表情を変えられることが出来る仮面を装着し、無彩色で何とも言えないデザインをしたパーカーのような服装をしており、また仮面と同じくフードのような物を装着していた。それに加え、黒にも見える濃い灰色のマントを着飾り、フードと仮面の間から垣間見える体色は青紫が混じった薄めの灰色をしている。 素早く自己紹介を済ますと、死にたがりに対し、疑心と警戒心を強く見せる。 その上、綿枷の発言の時といい、色に対して何か思い入れがあるのか。護るような形で色の前へと立っている。 こうして、彼らの自己紹介は終わり、いよいよ最後に自己紹介をするのは――。
『煮締那 断刈です。目標や目的は死ぬこと。願いや夢は死ぬこと。求める救いは死ぬこと。優先するのは死ぬこと。 いつまで続くかは分かりませんが。まぁ、それなりに宜しくお願いします』
――煮締那 断刈。
やや灰色の体色と生気のないじっとりした黒く染まった瞳。全体的に暗く灰と黒のグラデーションをしたタイトなワンピースを着用している。 ぶっきらぼうに淡々と述べ、ほとんど死ぬことしか話はしなかったが。 当然といえば、当然か。彼は死にたがりであるのだから。死ぬことしか頭になくてもおかしくはない。 死にたがりこと――、断刈の自己紹介も終え。デスゲームから脱出するため、今一度、自分達が置かれている状況を整理する。
彗亜達の話によれば、散歩している途中、のっぺらぼうのような顔立ちをした何者かによって催眠魔法で眠らされると共に連れ去られた後。目が覚めたら、この扉や窓が無い真っ白な空間に居たらしく。暫くの間、困惑し動けずにいると、何処からか不気味な声が聞こえたと思うと――。
「お前達には今からデスゲームを行ってもらう。ああ、勿論。強制であるため、拒否する権限はない。 お前達がいるこの空間、第一ステージには。正しく扱うことが出来れば、脱出へと手助けしてくれる。ただし、扱いを間違えれば即死する普段使うような道具を用意しておいた。また、魔法が使えぬ。だから魔法でどうのこうしようとするのは無駄である。くれぐれも死なぬように踊ればいい」
そう言われ、自分達が連れ去られた挙句、デスゲームに強制参加させられていると知らされたらしい。最初は信じることが出来なかったが、普段使う際でも扱いを間違えれば危険物になる道具が空間内の四隅に置かれていたことや魔法が一切使えないことから、これは現実であると認識したとのこと。
「それでまぁ…、これがその道具なんだが。
左から、ブーメラン。万年筆。アイスピック。カッターナイフ、トランプカード。魔法薬。 これらは普段、使う際でも扱い方を間違えれば。危険物になりかねない。特に魔法薬なんかは、何の効果があるのか分からないし、むやみに使うことはできない」
四隅に置かれていた道具を断刈に見せながら、彗亜はそっと拾い上げる。
彗亜が説明した通り、確かに扱いを間違えれば危険物になりえるし、正しく扱えば、脱出に役に立つことだろう。しかし、一つの道具を除いては――。
「てか、トランプカードってなんだ。どうやって、使うんだよ。魔法が使えない今、投げ飛ばすことしかできねぇし」
トランプカードだけ使い道がわからない。快輝の言う通り、魔法が使えない今はただの遊び道具にしかならない。ただしそれは扱いの間違いとして捉えていない場合の話だ。
『なるほど、そうですか。じゃあ……、』
綺麗な横線を描いて、床へと滴り落ちる鮮やかな液体は一瞬にして視界を奪った。
後ろへと仰け反り。一切、音を立てないで静かに瞳を閉じる姿には酷く驚愕と疑心、そして――、衝撃が走った。
「――おい、お前!何やってんだ!話が違うじゃねぇか! 」
「え、あっ、いや…、早く手当てしないと…!息を吹き返さないと! 」
「でも、どうやって…。魔法も使えない今、どうやって! 」
「とりあえず、服でも何でもちぎって、応急処置をしましょう! 」
怒号が、焦燥が、困惑が、疑心がひたすらに渦を巻く。
約束を破り、素早く奪って、軽々と自分の首元を切り刻む者に。
しかし、とにかく今は。どうにかして、生存させなくては。
死にたがりとはいえ、こんな序盤で見知ったばかりの相手が目の前で死ぬのは気が滅入る。 何が何ででも生存させて、生かして、生きさせなくては――、
「うわぁ…、マジだったんだ。なんか、凄いねー」
「んな事、言っている場合か!はやく、なんとか……」
「いや、待て。出血量の割には…、普通に息してるぞ」
「はぁ!? 」
『あー、また死にきれなかったか……』
「は、はぁ…?う、嘘だろ。生きてやがる……いや、生きてていいんだが」
致死にも至る出血量を首元から流しておきながら、切り刻む前とは変わらず平然とした態度で起き上がる断刈の姿に。唖然とし、立ち尽くすことしかできなかった。どうして、生きていられる。致死にも至る出血量を流しておきながら――いや、このトランプカードは即死の道具であるはずなのに。――いいや、それよりもまずは。
「――テメェっ!ふざけてんじゃねぇよ!約束を破ってんじゃねぇよ!
よくも、よくも…、特に色がいる時に!なに、トランプカードで首元を切り刻んでんだ! 」
『自分、約束を必ず守るとは一言も言っておりませんし。つい、癖でね。習慣でね。 それに貴方達にとっては死なずに済んでよかったのですし、そんな苛立つほどではないと思いますよ』
「あのなァ…、」
『ああ、それと。これでようやく理解したでしょう。
このトランプカードを使用して、何かを切り刻んだり、切り裂けば。脱出する上で役に立つ道具だと。 というか、そもそも第一に。この世の全てが凶器なんですよ。そうでなければ、死など生まれず訪れないでしょう? 』
「――――」
怒りをぶつけると共に責め立てようとしたが、最後の言葉を聞いて怒りは引っ込んでしまった。 事実であることには言い返せはしない。そもそも断刈に言い返したところで、現実は変わらず。最悪の場合は余計に悪化すると心で判断したため。余計な事をして皆に、色に迷惑はかけたくない。
「まぁ、今回は見逃してやるけど。それにしても、即死付きの道具を耐えるとは。なかなかの豪運だぜ」
即死効果を持った道具を使い、致死にも至る出血量を出した割に生きているとは、なかなかの豪運の持ち主であると表せる。だが、断刈にとっては。とんでもない不運には変わりはない。死にたがりにとって、死ぬと思って実行しても死なないのは、苦痛でしかないのだから。
『いや…、自分にとっては、とんでもない不運ですけどね。さて…、』
「あっ、おい!テメェ、また……」
『うーん、どの道具も威力がないのか。お迎えが来ませんね。いや、そもそも即死効果なんて本当はないのでは? 』
癖や習慣のせいか、断刈は再び、トランプカード以外の道具を複数回使い、連続で自殺を図ろうとする。 しかし、絵面的にはモザイクをかけなくてはいけないほどの凄まじい出血量の割に。死に導かれることはなく、何事もなかったかのように生きている。ここまで来ると断刈の言う通り、即死の効果なんてないのかもしれないが、少しはすぐ自殺に図ろうとする癖や習慣を自重してほしいところだ。いや、身に染みているものはすぐには直らず、どうにもできないと、快輝は口に出すことを諦める。その代わりに別の事で、口に出す者が一人いた。
「ねぇ、魔法薬も無駄死にしたし。こんな血みどろの道具なんか使いたくないんだけど」
断刈の血で染まった道具を使いたくないと拒絶し、酷く嫌気が差した顔で口に出すのは――夢玖だった。 それはそうだ。普通、誰だって血で染まった道具など使いたくはない。 しかし色は。けれど、脱出するために必要不可欠。ふき取って落ちるものではないが、使うしか道はないと。このまま使用せず、放置していれば。断刈はまた自殺を図る可能性が高く。 一番、血で染まった万年筆は自分が使用するから我慢してほしいと、夢玖を宥め説得する。それを聞き、夢玖は。確かに断刈がまた自殺に図るのは厄介であると考慮し、渋々、使用するのを受け入れることにした。
暫くの間、色を除く誰がどの道具を使用するのか話し合った結果――。
一依は血で満タンになった魔法薬、綿枷は端先が血で滲んでいるトランプカード、夢玖は血がこびり付いたカッターナイフ、彗亜は血が纏ったアイスピック、快輝は血で赤黒く染まったブーメランを使用する事となった。
「この…、わ、ワタクシが、血を持ち歩くなんて……」
しかし、一依は自分が魔法薬を使用し、持ち歩くことに恐怖と不満を感じていた。
空になって使い道にならなくなった道具を渡されたと思ったら、中身は満タンになるほど血で埋め尽くされているのだから。そんな一依に対し、快輝は頭の後ろで手を組んで呑気に言う。
「猛獣や魔獣、鮫避けとかにでも使えばいいじゃねぇか」
「ああ、確かに出てくる可能性がありますも…、いやいや!魔法が使えない今は血の臭いで真っ先に襲われますよ! 」
「でも、お前が固執している一番になれるんだぜ? 」
「最初に殺される一番は嫌ですよ!ワタクシは一番に長生きしたいのですから!
ねぇ、もう一度、話し合いをしませんか!――って、ちょっと背を向けないでください!おい! 」
一度、決めたことは後に戻らないというように背を向けられ、一依の不満は更に募る。 他に誰か変わってほしいと左右を見渡すが、それも無視され。向ける当てもない手を伸ばしたまま、立ち尽くす事しか出来なかった。
そんな一依はさておき。扉や窓が無かった真っ白な空間にいつの間にか、扉が出現していた。 だが、扉の先は真っ暗で何も見えず、これが出口なのか、入り口なのかさえ、わからない。 しかし、断刈は恐怖や疑心、緊張もないのか。扉の先へと堂々と進んでいく。 こういう誰もが最初に行きたがらないことをするのは死にたがりの特権――いや、肯定してはいけない。進んだ先に罠など仕掛けられてあったら、また自殺を図ろうとしてしまう可能性が高いのだから。快輝達も自殺を図るのを阻止することも含めて脱出するため、断刈の後を追う。