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【錠苑 快輝】

「――これで、俺の過去話は終わりだ」


『……貴方、随分と流されやすくて矛盾があるのですね』


「うるせぇ。アンタよりはマシだよ」


『しかし、まぁ……。この選択肢はあまりよろしくないかと思われますよ』


「うるせぇったら、うるせぇ。俺は……、う、ぐっ。視界が」


過去話を話終わり、短い会話をしていると視界が急激に薄れ始めた。

死にたがりの姿や、先程までに映っていた景色に判別がつかないほど靄がかかり、視界を奪っていく。 いや――、視界だけじゃない。徐々に呼吸も苦しくなり、身体に力が入らなくなってきている。 このままでは、倒れ込んでしまうだろう。いいや、倒れ込むだけではない、きっと、必ず、絶対、確実に俺は――、


「し、ぬっ前に。お前に伝えたいことがある。聞く気がなくても聞け。いや…、過去話同様に無理矢理に、でもっ! 」


『…はぁ、なんですか? 手短にお願いします』


「じゃあ…、言わせてもらうぜ」


掠れ震えていく声をどうにか吐き出して、片方の瞼を閉じ、片手を上げて笑いながら、最期の言葉を伝える。


「ご清聴、どうもありがとうございました!

少しは足止めすることができたでしょう!やっぱり、俺はスペックが違うんだなァ! だが、しかしィ…! 全力を尽くした結果、ここでリタイアとなってしまいましたが…、愛しい者に会えるため、無問題! しかも、見方を変えれば。本望とも表せるので、不幸中の幸い!いや、大幸福!運がとてもいい!アハハハハッ! ……おっと、そろそろ時間のようですねぇ。では、またお会い出来たらお会いしましょう! 」









――技能担当!表面上では気さくで律儀な真面目君!裏では陰湿な粋がり野郎の錠苑 快輝でした!



言い切ると、完全に視界は真っ黒になり、呼吸の苦しさも消えて、プツンと音を立てて――。


―――









錠苑 快輝。

代々、王の使用人として仕えてきた家柄に生まれた高貴なお化け。

両親の教育により、全てにおいての能力は凄まじく、特に機械関係に関しては奇才と表せるだろう。 ただ魔法に関しては、全魔法、満遍なく操れ扱えていたはずだったのだが。いつからか、魔法が操れ扱うことが出来なくなってしまった。しかし、その代わりにある時から物理攻撃に特化するようになった事と俊敏性の高さから、戦闘の際には俊敏性を活かしながら素手で戦い、素早い攻撃で敵を蹴散らして打ち負かせるようになった。お陰で魔法がなくとも、補う形であるものの、それなりには戦える。いや、その上に機械関係を絡めれば、戦闘においても申し分ない強さを誇るだろう。こうして、彼を見直してみると。これは近年、稀に見る逸材だ。彼が国王の使用人として生きれば、この世界に安全と平穏を齎す、守護者として――そう、本来ならば。彼は守護者として、この世界に安全と平穏を齎すはずだった。


しかし、彼は守護者になることを拒んだ。――いいや、正確には。あるお化けと出会ってしまったせいで、この道を絶ったのだ。あるお化けの事を最愛になるまで好いてしまい、この世界の事は勿論、何もかもどうでもよくなってしまったのだ。あるお化けの為だけに、あるお化けと共に生きる事を選んでしまい、自ら道を絶ち裏切ったのだ。家柄への復讐として。復讐者として、この世界に絶望を――。


絶望かと思いきや、世界は彼に対して同情と家柄に対しては失望で埋め尽くされていた。 何故ならば、世界は教育を虐待へと視点を移し、世界を護るためと言え。虐待は良くない、可哀想だと判断したからだ。 そのため、絶望というよりも。家柄への失望で埋め尽くされていたのだ。彼は被害者として、この世界に同情されたのだ。 ある界隈を道連れにしていることに気づかないまま。そして、彼の掌の上で踊らされている事に気づかないまま。


いいや、見方を変えれば。彼も踊りに踊らされていたのだろう。

世界と同じく同情を向ければ、彼の気持ちになって考えてみれば、望まない教育の押し付けをされて自分自身を失い。 あるお化けに魅惑され、道を踏み外し、復讐者として降り立ってしまった事に。 また、ここには書かれていないお化けと接触してしまった事を踏まえれば。 接触した事により、技能担当として新たな復讐劇に参加してしまった、利用されてしまった事を含めれば――。



「まぁ、ここまで記しておきながら。生命力…いいえ、生存率さえ貰えれば、関係のない事だけれどね。 それに、今の方が幸せであるみたいだし。他人や輩がどうこう言う権限は無いわ。さて、私もそろそろ……」



記した書を閉じ、これから得られる生存率に心を躍らせながら、ゆっくりと階段を下りる。 また下りると同時に。あのお化けさえ、気づけない程に気配を消し、幻覚を――、




―――




『「…………」』


『はぁ…、色さんが悲しむな。

貴方の単純で情に流されやすく、喜怒哀楽が激しい激情家な性格をどうにかした方がよろしいですよ』


深い眠りにつく相手を見ながら、そっと呆れるように呟く。

ここまで来てしまえば、もう助からないだろう。愛しい者がいるのにこれは如何なものか。

しかし、自分にはどうすることもできない。だから、見捨てるほか――、


『ん? これは……、』





―――












「……あー、うん?ん? あれ、そっか。私、粉塵爆発を起こして」


『――貴方、ここに居たんですね。随分と探し回りましたよ』


「え…、」


『ああ、彼なら気絶しているだけで、死んではいませんからご安心ください。

それと…、貴方がご無事で何よりですよ。あの爆風から、大きな損傷なく生き延びられるとは。 本当によかった…、』





今までに見た事のない優しい声音と穏やかに微笑む死にたがりの姿に、驚くと共に心が温かくなるのを感じた――。

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