表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/70

【逃れられぬ縁 後編】

「あー、いたいた。全く…、手間をかけさせやがって。処刑の装置も破壊したし、さっさと帰るぞ」


「いや、待ってください。装置の破壊…?いやいや、それよりも。夢玖さんはともかく…… どうして、快輝さんが此処に来たのですか? 」


「理由なんて何でもいいだろう。それより、追手が来る前に帰るぞ」


返答せず、城から出で色達の元へ帰ろうと急かす。

死ぬ原因となる処刑の装置を破壊することは容易であったものの、冠化達の居場所を特定している際中に蕾努 愛に装置を破壊した事と今度はこっちが連れ戻すことがバレてしまった。 なんとか、尾行と攻撃を交わしつつ距離を置いたものの、いつ追いつかれるかは分からない。今のうちに城の外へとでなければ――、


「快輝、右に避けろ――! 」


緊迫した声に指示され、言われた通りに右に避けるが。

避けきることができなかったのか、身体の内側から熱が上昇し、体温が熱くなって呼吸することが苦しくなる。 俺に向かって何かが――攻撃が飛んできたということは、追いつかれてしまったのだろう。 視界の先に映る、おびただしい赤い色の影が何よりの証拠だ。


「あまりこういうことはしたくないのだけれどね。貴方がその気なら、そうさせてもらうわ。 命がかかっているんだもの。妥協はしない……というか出来なくなったわ」


「だからって、体内の熱を上昇させるのはよくない。通常じゃありえない高熱を引き起こして、死に至らせる気か? 」


「熱を消さないだけマシだと思って、兄上。

それに最期にお話をできるように、一瞬を選択しなかったのだから。逆に褒めてほしいわね」


「本当に、面倒くさいほど性格が悪いなァ。「愛」って名前なのに、愛の欠片もないのかよ」


「失礼ね。私の行動は「愛」ゆえよ」


緊迫しながらも何処か落ち着いた低い声と怒りに満ちながらも何処か落ち着いた少し高い声が火花を散らす。 そんな火花を散らす中で、少し高い声――彼女、蕾努 愛の魔法が見聞きしていた以上のモノだと実感しながら知る。


灼熱魔法を得意とする彼女は、熱を自由自在に操れ、扱えることができると知っていたが。 それが何処までの範囲なのかを実感して知るまで、オブラートに言えば、戦闘時に有利に働く程度までしか見聞きしていなかった。しかし、実際はそんな甘いものではなく。体内にある熱まで操れ、扱えるという最強とも言える能力を持っていた。流石、王の側近の使用人の名に恥じない万能さである。しかし、これでは――。


「熱い、痛い、苦しい、ぐっがぁ…、あぁ、う」


ここにいる全員で立ち向かっても、能力差を考えると――熱い。勝つことも、逃げ出すことも出来ない。 完全に詰んで――熱い。しまっている。ああ、此処で俺達はし――熱い、熱い。ぬのか。殺されてしまうのか。 せめて、死ぬくらいなら。殺されるくらいなら――熱い、熱い、熱い。愛しい者に殺される方が本望だった。


熱い――、ただひたすらに熱い、熱くて熱くて堪らない。

熱すぎて、愛しい者の事以外は考えられない。熱い、熱い、熱い。

体内の熱で全身が焼け焦げ、骨だけ残って溶けてしまいそうだ。

こんなにも熱に脅かされるなんて初めてだ、熱い。せめて、最期に愛しい者の顔が見たい、声音が聞きたい――、


「心の底から愛している者がいるのなら。熱如きで死んではいけませんよ、快輝さん! 」


奮い上がらせるように、優しく励ますように、透き通った高らかな声が脳内全体に響く。 そして、響くと同時に。いつの間にか、脅かしていた熱は冷めて呼吸のリズムも落ち着き。 此処に来る前に浴びたことによって出来た火傷も綺麗さっぱり、最初から無かったかのように消えていた。 その二つの出来事に驚きを隠せずにいると。目の前の光景で繰り広げられる出来事の方により驚かされる。


「…流石、元殺人鬼兼の宮廷道化師さんね。どう立ち回ればいいのか、どう覆せばいいのか、よくご存知だわ」


「何度も裏切ってしまって、申し訳ございませんねぇ。暫くの間は踊ってもらいますよ」


熱に脅かされている間に彼女が冠化の攻撃を避けきれないほど深手を負って、形勢がひっくり返っていたのだから。 思わぬ出来事に呆然としていると、先程まで火花を散らしていたはずの落ち着いた低い声が今の状況について説明する。


「俺が愛と話し合っている間に、一依が高火力な呪術を仕掛けてくれていたんだ。

それで、暫くして呪術が発動し、唐突な呪いによる激痛に動けないでいる隙に俺は快輝にかかった灼熱魔法を無効化。火傷等を治療した。一依は畳み掛けるように攻撃して、深手を更に負わせたってわけだ」


「――あ、アンタ。全然、無能じゃねぇよ」


「それ、色にも言われたが。俺は無能であることには変わりない」


いや、どう考えたって魔法を無効化でき、火傷を治療できるのは無能ではないだろう。 いいや、今はそれよりも。形勢が逆転しているということは、勝つことも、逃げ出すこともできる――。


「ああ、だから逃げるぞ」


「人の心を読んだように言うんじゃねぇよ。てか、夢玖は?さっきから、見かけないが」


「夢玖なら、お前が高熱で苦しんでいる間に帰ったぞ」


「なっ…!あ、アイツ…、死んでほしくなかったんじゃないのかよ。人の温情と善意を仇で返しやがって……」


あんなにも悲哀に満ちた声音と寂しそうな表情をしていたのに裏切るとは、心が無いにも程があるだろう。 しかし、この場にいないのに腹立てても仕方ない。ここは、予定通りに逃げて。愛しい者の元へと帰ろう。 そう思い、足は無いが足を一歩、踏み出そうと――せずに立ち止まり、この流れだと冠化が犠牲になることに気がつき、夢玖はともかくとして、お前は仲間を見捨てるのはいいのかと尋ねる。もし、いいのであれば。それはそれで致し方ないと思う。現状、いくら形勢が逆転しているとはいえ。いつ元に戻るかは分からない。そのため、冠化を犠牲に出さなければ、俺達は逃げ切ることができなくなる。だから、諦めた方が最適と致し方なくなるが。


「一依は愛より強いから大丈夫さ。

だから、だからこそ、俺達が足手まといになってはいけない。此処で逃げる選択肢をした方がいい」


信頼していると優しく笑って、犠牲にはしないと告げた。

そんな蕾努に対し俺は――、


「そうかよ。じゃあ、さっさと逃げようぜ」


冷たくあしらうように、止めていた足を動かして走り始めた。

犠牲にしないという選択肢を選ぶのであれば、それでいいし。愛しい者の元へ帰れるのなら、俺は別に構わない。



―――



「なぁ…、強いって言ったのは何処の野郎だよ。負けてんじゃねぇか。形勢、戻っているじゃねぇか」


「ご、ゴメンなさい。まさか、角を思いっきり、叩かれるとは思わなくて……」


「まぁ、致し方ないさ。最期に会ったのは十年前だし、変わっていても……」


「それで、冠化を助けにいったつもりが。逆にやられて、二人とも俺の両脇に抱き抱えられている状況について。 どう言い訳するつもりですかねぇ? 」


結局、逃げ出す瞬間に形勢が元に戻ってしまい、青年お化けを両脇に抱き抱えて、攻撃を回避しながら逃げるという事態になってしまった。これだから、王系絡みは嫌なんだ。 しかし、いつまでも逃げ切れはしない。俺の体力が尽きるか。攻撃を食らって死ぬかで終わる。


「せめて、撃退方法があればな……」


「あるぞ。一つだけだが」


「はぁ!?あるのかよ!だったら、最初から言ってくれませんかねぇ!? 」


「聞かれなかったからな」


「お馴染みの台詞はいいから、教えてくれ! 」


「夢玖だ。夢玖の魔法を使えば、撃退できるぞ」


「………、あの、肝心な本人が帰ってしまったのに。どうやって、撃退するんですか? 」


撃退方法があると言われ、一筋の光が見えたと思えば。絶望をより強くするだけだった。 肝心な本人がいないのに、何故、撃退できると答えることが出来たのか。 こういうところは本人が言っていた通り、無能だと思う。 相手の事は言えないが。全く、本当に王系絡みのお化けは――、


「夢玖さんなら、この通路を右に曲がった先の部屋にいますよ」


「……あっそ。じゃあ、向かいますか」


帰っていなかった。帰っていなかったことに怒りを通り越して呆れ返る。

何故、帰っていなかったのは、分かりたくもない。というか、考えることは放棄した。 とりあえず今は、部屋に到着したら。夢玖に魔法を発動させてもらって、愛しい者の居る場所へ帰ろう。 そうすれば、今日の事など一週間後には記憶から抹消されるだろうから。



―――


夢玖の居る部屋へと近づくにつれて、身体が震えてしまう程の冷気のようなモノが強まる。それに加え、廊下の壁や床のあちこちに赤黒く染まったシミがあって。何とも言えない景色を作り出していた。 そんな景色を超えて。ようやく、夢玖の居る部屋へと到着し、勢いよく体当たりをして扉を破壊すると共に夢玖の名前を荒げながら呼ぶ。


「おい、夢玖!居るんだろう!? 黙って俺の指示に従って魔法を……、え。なんだよ、この部屋は」


廊下よりもおぞましく部屋全体に赤黒く染まったシミが飛び散っており、奥の方には錆びた鉄の衝立――いや、牢屋に近い檻が設置されている。また、その檻の中には枷が複数、赤黒く彩って床へと転がっていた。 このおぞましい部屋と廊下の光景を見る限り――いいや、見る限りでもわかる。わかるが、これは――、


「俺の聞き間違いや見間違いじゃなければ…、部屋は部屋でも拷問べ」


「――あれ?快輝達、どうして此処に来たの?どうして二人は快輝に抱えられているの? 」


「やあああああ!?って、お前かよ!紛らわしい! 」


「そんなに驚かなくても…、というか。本当に快輝と…、一依はともかく。彗亜は何で此処に来たの? 」


横から声が聞こえ、とんでもない者に見つかってしまったと思ったら、夢玖だった。 全く紛らわしい――いや、そもそも此処には夢玖しかいないはずだ。多分。 だから、別に怖がる必要なんてない。それと、別に両親と家柄に縛られていた事を思い出しわけではない。断じて。


「そんなに身体が震えていたら、説得力ないんだけどなぁ」


「アンタらさ、読心術を使えないのに。何で、俺の心を読み取ってんだよ」


「だって、喜怒哀楽がはっきりしているから。仮面越しにでも、大体は分かるもん」


「は?プライバシーの侵害じゃないですか、それ」


「……話をするのは後だ。とにかく夢玖、愛にあの魔法を放ってくれ。

後、快輝。もう俺達を抱えなくていいぞ。治療魔法で大分、回復したから」


「うん、わかったー」

「あ、ああ……」


蕾努にまとめられて、そのまま流れるように蕾努と冠化を解放する。

結局、この部屋は拷問部屋なのだろうか。それに今更だが、どうしてこの部屋に夢玖はいたのだろうか。 疑問が全くもって晴れないが、今は愛しい者の元へ帰ることが先決。これ以上の詮索はしないでおこう。 ――と、思ったのだが。やけに冠化が檻の方を見ているので、何かあるのかと声をかけてしまった。 声かけに対し、冠化は疑問を恐ろしい事実へと変えて返答する。


「ここは…、彗亜さんの自室なんですよ」


想像していなかった返答に思わず、息を呑む。

――いや、もしかしたら。蕾努の過去と素性を考えると想像できることだったのかもしれないが。 それにしたって、この拷問部屋みたいなのが蕾努の自室だとは信じ難い。 いくらなんでも、こんな――、しかし、事実と現実は冷たく悲しく語られる。


「彗亜さん。生まれつきの無能かつ魔法がコントロールできないのを理由に、死なない程度に拷問された後。 体の殆どに枷を付けられて、お手洗いやお風呂以外はここに幽閉させられていたのです。 そして、その生活の苦痛と。 何もできない生まれつきの無能な自分に嫌気と絶望、罪悪感が差して自傷行為や自殺未遂を何度も繰り返していました」


おぞましい程の赤黒いシミと奥にある檻と枷。

また今までは触れてこなかったが。あの、両腕と首元にある傷跡は拷問と自傷によるものだったという事実と現実に。もう出せる言葉などなかった。たった生まれつきの無能と魔法がコントロールできないだけで――いや、王の視点から考えれば、そうした方がお互いの為なのかもしれない。現状、二つもの欠点が重なれば。尚更――、いいや、もっと優しく言えば。兄妹がいなかったら、蕾努は――この先は考えたくない。説明したくない。


「あー、本当にこの世は理不尽だぜ。特に何でこうも、平等な創りにしないんだよ…! 」


「今更、憎悪しても。こればっかりは致し方ないですよ。それにワタクシだって――、いえ、彗亜さんに言うなと言われていたのでした。……まぁ、でも。復讐という名の裏切りで今は自由に生きられているので」


「とはいえよォ…、せっかく自由を手に入れたと思ったら。

蕾努の妹達は取り返そうと、邪魔しようとしているんだよな。再び、使い勝手が良い道具として」


「え」


「だって、どう考えたって、見聞きしたって、思い返したって。アイツら、家族なのに道具としてか見てねぇじゃねぇか」


愛だとか。愛しい者の為とか言っている割には、蕾努の事を一切考えていない。

本当に家族なら、愛があるのなら、愛しい者の為ならば。蕾努の事を第一に優先して行動するはず。 それなのに優先して行動していないということは、ただの道具としてか見ていないと自ら言っているようなもの。 そんな傲慢な思考をした者達の元に戻ったところで蕾努は幸せなのだろうか。――いいや、幸せじゃない。地獄に逆戻りだ。


「全く…、こんな鬱展開があってたまるかよ。

おい、冠化。夢玖が魔法でぶっ飛ばして、俺が一言、二言…文句言ったら。

今度は見つからない場所で自由に暮らそうぜ。六人で」


背を向け、蕾努達がいるであろう場所へと足は無いが歩みを進める。

やっぱり、俺は良くも悪くも両親と家柄から解放された影響で情に流されやすくなっているらしい。 いや、もしかしたら。これが俺の本質なのかもしれない。そうじゃなきゃ、こんなにも心が熱くなることはないはずだ。



―――



「おー、グロテスク。随分と派手にやってくれたじゃねぇか」


「ようやく、来たと思ったら。最初の一言目がそれって、呑気だね」


「実行犯に言われたくはないがな。……で、蕾努 愛さんよォ。文句が一言、二言あるんだけど言うね」


「あら、こんなにも全身がドロドロのぐちゃぐちゃなのに。拒否権は無いのね」


夢玖の魔法を食らって、全身が見るに堪えない姿となった蕾努 愛に止めを刺すように。 俺は目線の高さを合わせて、淡々と言葉を並べる。


「アンタらさ、やっぱり王系のお化け達だねぇ。傲慢に振舞った結果、再び復讐されちゃうんだから。 あーあ、どちらにしろさ。滅びるんだから、諦めた方が最適だったのに。欲とプライドが勝っちゃうとは… 本当に、気持ち悪いなァ? 」


一言、二言の文句というより、長い皮肉を並べてしまったが。差し支えはないだろう。 どちらにしろ、彼女らは滅びる運命なのだから。


長い皮肉を聞き、ようやく自分達の傲慢さが身に染みたのか。彼女は悲しそうに笑い――、


「そうね…、諦めた方が最適だったわ。誰かの為に生きるのって本当に難しいわね。 手段や選択肢を間違えたら、負のどん底に堕ち、堕としてしまうのだから」


ゆっくりと目、口を閉じて安らかに眠る。

彼女の意識が完全に無くなったことを確認し終えると、城の出入り口へと足は無いが歩き出す。 大変だったとか、巻き込まれたとか、色んな他愛のない話をしながら、愛しい者が待つ場所へと向かう。 逃れられぬ縁なのは最悪だと思っていたが、こういうことであるのならば――。







「――油断したわね」


落ち着いた少し高い声が背後から聞こえたと思うと、熱風が渦を巻いてこちらへと向かってくる。 その熱風の速度は凄まじく、間近まで来たところで全て演技であったことに気づかされる。 そして――、大きく音を立てながら、城の一部が崩れ落ちていき。俺達は。










「……き、快輝。目が覚めたのですね。よかった」


愛しい声に呼ばれて覚醒する。

瞼を開けた先には、愛しい者である色の顔。そして色の背後には蕾努達の姿と見知らぬ景色が映っていた。 またどうやら、怪我一つなく無事だったようだが。どうして、色が目の前にいるのか。ここは一体、何処なのかは見当もつかず、困惑を隠しきれずにいると色から此処に至るまでの経緯について説明される。


色の話によると、此処は冠化の故郷で、蕾努 愛が放った熱風を逆に利用したことで俺達は助かったらしく。 その利用方法が、色と綿枷が熱風に向かって小麦後を投下し、粉塵爆発を起こしたというものだった。 粉塵爆発を起こしたことにより、俺達は爆風で吹き飛んだものの、爆発が起きる寸前に綿枷が魔法でバリアを張ってくれたこと。地面へと叩きつけられる前に。色の魔法の一つ、黒い手で俺達を受け止めてくれたことにより無傷で済んだとのことだが――、


「色々と突っ込みたいところがあるが…、まず初めに。もっと、マシな助け方はなかったのか…? 」


流石にこれは、いくら愛しい者であろうと危険すぎる。

もし、タイミングがズレたりして失敗していたら。木っ端微塵となって、悲惨な結果を迎えていたかもしれない。 今回は成功したからよかったものの。こんな危険な方法を実行するよりも現実的に考えれば、もっと、マシな助け方があったはず――しかし、俺が見ていた現実と色と綿枷が見ていた現実は違ったらしい。


「あの状況で全員が助かる方法はこれしかありませんでした。

第一に、熱風が間近までに来ていた事。戦力としては欠けている私と、片付けでぎっくり腰を起こした綿枷さんの二人だけでは勝てないことが重なっていましたから…それに死んだらそこまでですよ。致し方ありません。 しかし、最終的に粉塵爆発の決めてとなったのは。快輝が口に出すほど、爆発系を好きだからですが」


「いや、まぁ…、俺は確かに充実している者達に対して、爆発しろとは言っていたけど。 決して、好きではないんだけどな…。まぁ、色がそう思うのなら。それでいいけど。 それに、死んだらそこまで…、色のそういうところ、好きだし。確かにそう言われると粉塵爆発が手っ取り早いかもな。 てか、片付けでぎっくり腰を起こしたのかよ、アイツ……」


「私の黒い手があるから大丈夫と伝えたのですが…、見栄を張ろうとしたのか。瓦礫の山を全部一人で運ぼうとして……」


「ああ…、本当に綿枷は面白い奴だな」


皮肉交じりに苦笑しながら、危険な方法で助けた事に納得する。

確かに、ぎっくり腰の状態で戦えるかと言われれば――通常なら無理な話だ。

それに色も言っていたが。熱風が間近であったことと、色は戦闘が得意ではない支援型であることを踏まえれば。 粉塵爆発を起こす以外はないのかもしれない。死んだらそこまでと考えているのなら、尚更。


しかし、複数ある疑問の中のもう一つ、粉塵爆発の規模にしては異常ではないだろうか。 王の城から粉塵爆発程度の規模で冠化の故郷まで吹き飛んで行けるほど近くはないはずだが――、


「――それに関しては。殺戮を起こすための道具として改造されたと言えば、答えは分かるのではないでしょうか? 」


「え、ああ…、そうか。それなら、納得だが。ここで、読心術を使う必要性ある? 」


「突っ込みたいところが沢山あるのでしょう?なら、さっさと答えた方が時間の無駄にならない」


「うーん、手厳しい色も嫌いじゃないよ。むしろ、大好き大歓迎」


ヒントを言われて、蕾努兄妹の秘密の一つを思い出す。

確かに改造されたことを考えると。演技できるほどの体力、粉塵爆発の規模を大いに広げられる熱風を出せるのは容易いのかもしれない。


疑問の中の更にもう二つ。

もう一つは なんとなくわかるが、吹き飛ばされた場所が冠化の故郷だったとはいえ――、


「故郷とはいえど、今は誰もいないゴーストタウンですし。王さえも触れたくない場所ですから。 此処に住むことになりましたよ。理由といたしましては、なんとなくの通り。王と側近の方々に見つかってしまいましたからね。片付けに関しては、綿枷さんがぎっくり腰を患ってしまったのと。一依さんからの連絡で快輝達がピンチであると聞かされたので、中断いたしました」


「説明する間もなく、答えてくれるのね。というか…、ちょっと待って。冠化から連絡ってさァ。 綿枷達は勿論の事。色、連絡が取れる道具や機械は全て処分したんだよね…?なんで、連絡が取れるわけ? 」


「読心術が使える同士は遠くに居てもテレパシーで連絡が取れると学ばなかった…私、教えていませんでしたか? 」


「あー、そういえば。昔、どっかで聞いたような気がする…でも!なんか、嫌!

それに、アイツ。読心術を使えていたのかよっ!はぁ!? 」


「何をそんなに怒っているのですか?まぁ、ともかく。これで疑問は、全部、晴れましたよね? それじゃあ、私は綿枷さんに湿布を貼ってあげなければいけないので。これで、失礼します」


「え、あっ、待って、色?色――!? 」


疑問は解消解決されたものの、何故だかは分からないが色には振られたような感覚に落ち、色の背中に手を伸ばすが。 虚しく散るだけだった。


虚しく散ったまま、呆然として立ち尽くしていると。

からかうような声と、優しく宥める声と、気遣う声が背後から飛び交ってくる。


「あーららー、振られちゃったねぇ。まぁ、あれじゃあ、振られて当然だよ」


「まぁ、今回は解釈の仕方の問題だから。致し方ないさ」


「大丈夫ですよ。色さんは貴方を嫌ってはいませんから、ご安心ください」


「……感覚的には落ちたけど、振られてはいない。振られた前提で声をかけるんじゃねぇ。 てか、三人揃って何の用だ? 」


振られた前提で声をかける夢玖、蕾努、冠化の三人に睨みを利かせながら。何か用かと冷たく問う。 すると、特に用という用はないと返しつつ。にこやかに笑って、それぞれ礼を言い始めた。


「教えてくれてありがとう。二人を助けようとしてくれてありがとう。快輝。」


「快輝さん。理解のある言葉を言ってくださった事と、一緒に暮らす許可を出してくれて、誠にありがとうございます」


「快輝。諦めない選択肢を選んでくれてありがとう。心から感謝するぜ」


「な、なんだよ。急に気持ち悪い。新手の悪徳商法か、何か?」


唐突に礼を言われ、全身がゾッと凍り付き。何か裏でもあるのはないかと探る。 しかし、それは無意味なもので。改めて、逃れられぬ縁なのは最悪だと思っていたことを覆す、始まりの知らせでもあり。ようやく、次の言葉で蕾努達――いや、彗亜、夢玖、一依と打ち解けられたのだった。


「快輝。逃れられない縁で俺達は出会ってしまったが。それはそれでいいと思うんだ。 こうして、お互いが自由に暮らせる道を切り開くことができたんだからさ」


「快輝。僕が知らないことをまた教えてね!快輝が教えてくれるのを楽しみに待っているよ! 僕、快輝と出会えて、話せて、暮らせて、本当に幸せだよ!改めて、ありがとう! 」


「快輝さん。もう誰にも縛られることなんてありませんから、この自由で晴れやかな世界を存分に楽しみましょうね! 」


彗亜、夢玖、一依の言葉を聞いて、こちらもにこやかに笑う。

やはり、俺の心は弱く情に流されやすい。でも、それでいいんだ。

今、俺は色と出会えて。一依、綿枷、夢玖、彗亜と出会えて。とても温かく幸せで気楽だから。



「――ああ、そうだな。よろしくな、彗亜、夢玖、一依」



温かい空気と、幸せな時間と、気楽な関係で優しく互いの手を取り合う。

こうして、俺は他のお化け達――いや、色。一依。綿枷。夢玖。彗亜と打ち解けて仲良くなり。 本当に心の底から仲間として共に。この日常を、この月日を、この世界を過ごす事となった――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ