【再び、地獄に帰還する/歓喜感銘の声】
――いつになったら、自分の夢は叶い、求めている救いは来るのだろう。
今日もまた底の見えない真っ暗闇の中をゆっくりと重く沈み続け、気力もないまま彷徨い続けながらに思う。 本当にいつになったら来るのだろうかと。
全てにおいて、憎悪と失望を重ねてきた結果。この選択に希望を持った。
しかし、この選択の行く末が。何度、繰り返しても来ない。
毎回、何かしらで振り出しに戻ってしまう。
普通はならない些細なモノから一撃でなる物騒なモノ等、この世に存在するありあらゆる物事を試してきたが。 一度も夢が叶ったことはなく、求めている救いは来ない。来るのは振り出しと地獄の現実だけ。 暫くの間、更に底の見えない真っ暗闇の中にゆっくりと重く沈み、気力もないまま彷徨い続けていると。
「――――」
――ああ。ほら、また今日も振り出しに戻った。地獄へと帰還される。
今回は透き通った高らかな声が真っ暗闇を一瞬で打ち砕き、強制的に意識と呼吸を回復させ、瞼を開けさせる。 ああ、本当にいい加減にしてほしい。もう振出しに戻るのはうんざりだ。また地獄を味わうのは散々だ。 これがどれだけ、私にとって苦痛であるとも知らずに。何度も、何度も――、
手を伸ばすのはもう全てにおいて遅いというのに。取り返しがつかないというのに。今更、何を――。
――ああ、本当に気持ち悪い。
―――
瞼を開けさせられたその先には、今度は打って変わって扉や窓が無い真っ白な空間の中で議論を交わす六色のお化け達が映し出された。議論を交わす中で、強制的に瞼を開けさせた張本人である透き通った高らかな声のお化けは――、
「――ワタクシの魅力に惚れ込んだ結果、此処に連れ去った幼気な犯人さんは誰なんです? 」
聞く耳も立てたくないほど自惚れをさらけ出していた。
こんな自惚れに強制的に瞼を開けさせられるとは、反吐が出そうなほど最悪な気分だ。強制した挙句、これほどまで自惚れた言動をするお化けは久々に見聞きしたせいか、背筋が酷く凍り付いている。しかし、今も先も後もどうでもいい。こんな自惚れているお化けとその他のお化け達を放置し無視して、一刻も早く自分が置かれた状況を理解し、この場から立ち去って夢を叶えなければ。こうしている間にも、無駄に時間は過ぎ去っていくのだから。
『………?』
しかし何度、体を起こし、立ち上がろうとしても身動き一つ取ることができない。 真っ暗闇の中に沈む前にしたことが原因なのだろうか。もし、本当にそうだとしたら複雑だ。 本当にそうだった場合を前提として考えた結果、二つの可能性が頭に浮かぶ。 二つの可能性の中で、有意義なモノであるのなら構わないのだが。逆だった場合、何度目かの地獄を味わうことになるので。心底、気持ち悪くなる。――いや、待てよ。気持ち悪くはならないかもしれない。議論を交わすお化け達に協力してもらえれば、どちらにしろいい結果になる。強制したことには目を瞑って救いを求めれば、もしかしたら――いいや、確実に。考えた結果、二つの可能性が幸福なモノへと変わり、複雑な気持ちが消え失せて自然と口角が上がる。 様子を見る限りだと、議論に集中していてこちらには気づいていないようだし。議論が冷め終えたら、タイミングを見計らって声をかけよう。それまでは、最期の喜劇としてお化け達の議論を見聞きしておこうか。
先程、強制的に瞼を開けさせた張本人である透き通った高らかな声が言ったことに対し。凛とした冷静な声が片手を突き出し、疑いの眼差しを向ける。
「何言ってんだ。犯人はお前しかいないだろ。全員、身内だしよォ。
こんな卑劣で馬鹿な真似事をするのは、どう考えたってお前しかいない」
「嫌ですねぇー、いくらワタクシが素敵だからって。嫉妬からの決めつけはやめてください。流石のワタクシだって、こんな事はしませんし。見知らぬ一般の方に手出しはしませんよ。どちらかというと、こんな事で一般の方に手出しするのは、こちらの方ではありません? 」
しかし、相変わらず自惚れながら。自分が犯人ではないと否定を述べ、怪しく横目に。こちらの方と称したお化けに擦り付ける。
「確かに過去の事を思い出せば、僕は怪しいけど…。僕だって、流石にしないよ。こんなこと。 だって、魔法が使えないのに。自分も不利なのに。どうしてこんなことをするわけ? 大体、こういう場合は。あそこで倒れている一般の方が犯人だったりするんだよ」
だが、こちらの方も負けじと。擦り付けられたことに腹を立てながら、頭を左右に振って濡れ衣であると身の潔白を示すが――。
「おや、一般の方に濡れ衣を着せるとは。なかなかに怪しいのですねぇ? 」
「君が言える台詞じゃないでしょ。昔ほど露骨にはしないし…、このメンバーでこんな事は起こさないよ。それにさっきも言ったけど、僕が不利なんだ。メリットのないことはしない。 ねぇ、それは君も知っているでしょう?色」
「え?あ…、ま、まぁ、そうだね……」
「おい、コラ。色に求めて言わせてんじゃねぇーよ。――いや、色に求めて言わせるなんて。そうか、お前が真犯人か。 悪かったな、疑ったりして」
「いいんですよ。誤解が解けたのなら、ワタクシは何も咎めません。真犯人さんとは違って」
「だから、僕は違うって言っているでしょ! 白!僕は白なんだから!
色に求めただけで、僕を真犯人だと断定しないでよ! 全く…、こういう時だけ口を合わせてさぁ」
色という名のお化けに同意を求めた結果。凛とした冷静な声の怒りを買って、逆に疑惑が膨れ上がってしまい、真犯人だと断定されてしまう。真犯人だと断定され、更に腹を立てるこちらの方。互いが互いに怒りを買い、空気が張り詰め、議論は言い争いへと熱を上げる――と、その前に落ち着いた低い声と幼く可愛げのある甲高い声に窘められ防がれる。
「まぁまぁ、そう腹を立てるな。俺はお前が犯人じゃないことくらい理解しているからさ。 全く…、ふざけるのも大概にしてくれよ。二人とも」
「そうだよー、はやくここから脱出したいっていうのに。これじゃあ、議論している意味ないじゃん」
「う、うん…、そうだよね。まぁ、君が理解してくれているのなら。別に今回の事は――、」
「「はーい、すみませんでしたー」」
「くっ…、次は無いからね! 」
窘められ防がれたことにより、怒りはゆっくりとだが消えていき、改めて議論が交わされる。 こうして見聞きしてみると、私の存在自体には気づいているようだが、瞼を開けていることには気づいていない。また犯人や脱出がどうこうのと言っていることから、何処かに閉じ込められているのだろう。
――閉じ込められている?
『…………』
ああ、そういうことか。思い出した。
確かあの時、私も何者かによって連れ去られたのだ。
真っ暗闇の中に入り込む寸前に、崖の下で時が来るのを待っていた日に、異様な冷気と共に不気味な声に――。
「――奴らに濡れ衣を着せ、仲を引き裂き、関係を破壊するのに打ってつけだ。
これはこれはいい駒になりそうだ。そう、都合のいい駒に。
ある程度、治療してやったら。早速、ステージの中に置いておこう。きっと、いや――、確実にいい結果が訪れる」
連れ去られたのだ。
誰かも分からない異様な冷気を放った不気味な声に。
都合のいい【駒】として。最期くらい【人の役に立て】と押し付けられて。
――気持ち悪い。
――都合のいい【駒】を手に入れたところで望みは叶いもしないのに。
――憎悪・殺意・復讐を自ら買って、呼び寄せるだけだというのに。
――私が本当に都合のいい【駒】として。【人の役に立つ】ことは。
確実に無い。断じて無い。一切無い。全てにおいて無いというのに。
本当に気持ち悪く贅沢な話だ。
本当に気持ち悪く迷惑な話だ。
本当に気持ち悪く滑稽な話だ。
本当に気持ち悪く最低な話だ。
そうでなければ、互いに夢や望みが叶い、救われていたというのに。
とは言えども、議論を交わすお化け達に協力してもらえれば。またこれも目を瞑れる些細な事。【駒】でも使い切りで捨て去られてしまえば、考えも、そうでなければを撤回することができる。互いが互いに不幸中の幸いとして受け入れることができる――、
「――あれ?もしかして、目が覚めた?大丈夫?起き上がれる? 」
どうやら、瞼を開けていることにも気がついたのか。
こちらの方と称されたお化けがいつの間にか目の前まで来ており、紫みが多めの青紫色をした瞳で私を心配そうに見つめている。 議論が冷め終わってからにしようと思っていたが、向こうから声をかけてくれるのなら都合がよく手短に済む。 かけられた声と瞳に答えるように 身動きが取れないから、手を貸してくれと。こちらの方にそっと手を伸ばす。数秒もしないうちに伸ばした手を優しく掴まされ、ゆっくりと身体を起こそうと――、
「ねぇ、信じられないかもしれないけど。君と僕達は何者かに連れ去られて、デスゲームに強制参加させられたんだ。 だから今、議論しながら犯人を捜しているところなんだけど……」
デスゲーム。
デスゲームという単語を聞いて、不幸中の幸いから史上最高の幸福へと変化を遂げる。 幸福へと変化を遂げ、その感覚を全身で理解を得た瞬間。目を大きく見開き、口角は痛くなるほど上がり、鎖が解けたように勢いよく飛び上がって――、
『――デスゲーム、来たああぁあぁあああぁああぁ!
あぁ、あぁ……あー、デスゲームが存在するなんて。なんと幸せで有難い事なのだろうか! あぅ…、うぐぇ……あ、ありがとう。ありがとうございます。誠にありがとうございます。本当にッ――! この御恩は一生、忘れません。やっと、これで……あぁ、幸せすぎる。ようやく、夢が叶う。救われる』
――ただ一人、歓喜感銘の声を上げた。




