第七話
帰り道の中で、俺は昔のことを思い出していた。
確か小学校高学年の時だ。俺が初めて葉山と会ったのは……
当時は名前も知らなかったが、公園で泣いている女の子を見かけて声をかけたのが始まりだ。
俺は学校の近くの公園で本を読むのが習慣になっていて、その日も図書室で借りた本を読みに公園に来ていた。いつものベンチに座って本を読んでいると、隣に座った女の子が泣き始めて、困惑したのを覚えている。
そこで声をかけたのだ。このままでは俺が泣かしたように見えるから……
・・・・・・・・・・
「どうしたの」
本を閉じて横を向いて聞く。
その女の子はショートヘアで、ドレスのような服を着ている。
「習い事につかれたの……」
泣きながら、そう教えてくれた。
「そうか、なら嫌だと言えばいいんじゃないか?」
「そんなこと言えないよ……パパ怖いもん」
「サボればいいだろ? 今みたいに」
「そうだ、サボっちゃった……どうしよ、どうしよ」
いっそ強く泣き出してしまう。
正直めんどくさいが、子供をここまで泣かせる親を見てみたいという好奇心もある。
本当に歪んだ考えをしてるなと、自分の事ながらそう思う。
「遊ぼうぜ、家の事は任せろ」
「え? でも……」
俺はその子の手を引いて、砂場に連れていく。
何が面白いのかは分からないが、同級生はよくこれに夢中になっているからだ。
最初は戸惑っていた女の子も次第に、お城作りに夢中になっていった。
「そろそろ帰るか……」
日が暮れてきたので、そう声をかける。
「え? あ、もうこんな時間」
公園に備え付けられた時計を見て、驚いたような声を出す。
「家まで送るよ」
これで鬼の正体を知れるな。
「う、うん。ありがと」
案内してもらいながら、家に連れていく。
家のチャイムを鳴らすとドタバタと音を鳴らして、女性が出てきた。
「もう、心配したんだから」
「ご、ごめんなさい――ママ」
抱きしめられた女の子はそう言って、泣き始める。
母親のようだ。凄く心配していたのか泣いていた。
「あ、君。娘を送ってくれてありがとう」
女性が俺に気が付いて、そう声をかけてくる。
「いえ、それよりもその子、習い事がしんどいみたい何で、少し考えてあげてください」
この人が母親なら少しは考えてくれそうなので、そう言っておく。
「え? ええ、分かったわ。そうだわもう遅いし、君も家に送るわね」
「いえ、近いのでこれで」
俺はそう言って、逃げるように走り出した。
その日からたびたび、公園に女の子が来るようになったのだ。
・・・・・・・・・・
そこまで思い出したところで、家の前についた。
その女の子はその日からなついてきたが、葉山だったのか……
本に飽きて公園に行かなくなっていて、すっかり忘れていた。
家の鍵を開けて、中に入る。
「ただいま」
返事はなく、電気もついていない。
山田? どこかに行ったのか?
そう思いながら部屋の明かりをつける。
やっぱりいない。
服を脱ぎ捨てて、そのままシャワーを浴びに行く。
シャワーを終えて、部屋に戻っても山田は帰っていなかった。
床に置いたスマホがメールが来たことを、ランプの点滅で教えてくれている。
誰からだ? 拾い上げてメールを開く。
『色々ありすぎたわ……明日、改めて話せるかしら?』
差出人は葉山だった。
内容は短く、そう簡潔に書かれている。
了解。何時でもいいぞっと、返信しておく。
山田、帰ってこないな。
もしかしたら未来が変わったから、もう帰ったとか?
先ほどのワープの事とか聞きたかったんだが……
本当に疲れた。もうご飯とかいいや……
布団を雑に引いて、明かりを消す。
明日、色々考えるか。
まどろみに飲まれていく。
・・・・・・・・・・
プルルルル……
「ん、んー」
手探りでスマホを探る。
無機質な冷たさが指にあたり、それを掴む。
着信か……
取り敢えず通話ボタンを押す。
『遅いわよ、何をしてるのかしら?』
「その声は、葉山か?」
『そうよ、早く準備しなさい』
「どういう事だ?」
淡々とした声で、催促されても頭が回っていない。
『昨日メールしたでしょ? 今日、会うって……』
「ああ、そうだったな」
あくびをしながら、布団から這い出る。
ところで今何時だ?
耳を放して、時計を確認する。
午後三時。ん? すごく寝ていたな。
『――聞いてるのかしら?』
何か声が苛立っているな、どうしたんだ?
「ああ、聞いてる。悪いな、寝起きなんだ」
『いくら休みでも寝すぎじゃないかしら? まあ、いいわ。三十分以内に学校に来なさい』
葉山はそう言って、電話を切ってしまった。
何で怒ってるんだと思って、スマホを見ると、着信が五回、メールが二十通葉山から届いている。
「怖っ! まあ、こんな時間まで無視してたら、怒るか……」
俺は服を全部脱ぎ捨てて、顔を洗っい身支度を手早く済ませた。
「さて、行くか……」
待ち合わせ場所まで、駆け足で向かう。