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第六話

「……」


「と、まぁそんな感じで、デートまでこぎつけたぞ」


 今日の事を夕食のオムライスを食べながら、山田に説明する。


 山田は驚いているのか食べる手を止めて、固まったように動かない。


「河野さん……フラグをへし折りすぎじゃないですか?」


 呆れたようにそう言われてしまう。


「どうしてだ? 次につなぐために、デートに誘ったぞ?」


 俺も食べるのをやめて、山田にそう聞く。


「それはデートではなく、脅迫の呼び出しです」


「な、なんだってー! 嘘だろ? スムーズに誘えたぞ?」


「あのですね、本を人質に取ってデート気分何て、どこまで歪んでるんですか?」


 ヤバい、あの山田がまともなことを言ってる。


「歪んでない。確かに言われたら、そんなふうにも見えるかもしれないが……」


「まぁ、でも。その本を読んだのなら、少しは理解したんじゃないですか?」


 我慢できなくなったのか、オムライスをかき込みながら、そう言ってきた。


「ああ、葉山は苦労してそうだな。それを教えるためにこの本を入手させたのか?」


「大事なのはその後ですよ。その本を見ちゃった河野さんが、謝りながらも祭りに誘う……そういうプランだったのに!」


 怒ったように目じりを上げて、俺を睨んでくる。


 まあ、口元がケチャップだらけで怖さはないが。


「そういう事はさきに言えよ……」


 ティッシュペーパーを手渡しながら、呆れる。


「普通の人は脅迫のような使い方はしませんよ。驚いちゃったじゃないですか」


「そういうもんか。まあ、やったもんは仕方ないだろ? 作戦を考えるぞ」


「仕方ないですね――と言いたいところなんですが、デートの場所まで完璧なので、本当のことをそろそろ言わせてもらいます」


 先ほどまでのおちゃらけた空気を辞めて、山田がいつになく真剣な顔になった。


「本当の事? どういうことだ?」


「私が貴方の前に来たのは、とある作戦を遂行するためなんです」


「それは俺の後悔を取り除くためなんだろ?」


 何か含みがありそうだったが、完全に嘘そという事はなかったように思っていたのだが……


「正確には告白をしなかったのではなく、できなかったんです」


「どういうことだ? 説明してくれないか?」


「祭りの日、急な雷雨が来るんです。葉山京香は落雷で死にます」


「……」


 俺は驚いて声に詰まる。


「貴方はその本を本当に偶然に読んでいて、彼女の支えになろうって、思った矢先、この事故が起こるんです」


「つまり、好きうんぬが嘘で、ただ助けようとして助けられなかったことが後悔なのか?」


「いえ、好きなはずですよ? そこが不思議なんですが、私がこの時代に来たのは事故を無くすためなので……」


 俺の目を見てそう言ってくるってことは、本当なんだろうな。


「まあ、確かにこんな話を見たら、誰だって助けたくはなるだろう」


「いえ、普通はへ~、とか。他人ごとになるんですよ。河野さんは優しいから……」


 俺って優しいのか? どっちかって言うと冷めたように世界を見てる自覚があったんだが……


「そうだ、そのこと以外で聞きたいことがあったんだ」


「なんですか?」


 キョトンとした顔で小首をかしげる。


 俺はずっと、気になっていたことを聞くことにした。


「俺は山田に会うまで、たびたび他人が俺を見えなくなる現象が起こったんだが、それは山田が影響か?」


「その可能性はありますね。世界の壁を越えてきたので」


 やはりそうか……でもまだ何か大切なことを忘れているような。聞きたいことがあったはずなんだが……


「お皿、持っていきますね?」


 山田が食べ終わった皿を、流しに運んでくれる。


 思い出す前に山田が立ち上がって、食器を片付けてしてしまう。


 話は終わりって事か?


 俺がなぜ未来で山田に頼んでまで、事故を防ごうとしているのか色々聞きたいが、祭りの日に分かることなのだろう。


 ・・・・・・・・・・


 それから何時もの日常に戻って、日々を過ごしていく。


 葉山と関わることはなく、どちらかというと避けられているように感じて過ごす。


 そのまま終業式を迎えてしまい、慌てて祭りの日の予定を確認した。


 そして迎えた祭りの日。


「日が経つのは早いな。そう言えば今更だが、会場に行かないと選択肢はなかったのか?」


 身支度を整えながら山田に聞く。


「どうやっても落雷の事実は消えないとだけ答えます。この腕輪をつけておいてください」


 銀色のブレスレットを山田は差し出してきた。


「これは?」


「お守りです」


「そうなのか? じゃぁ、行ってくるな」


「はい、絶対に助けてくださいね」


 どうやっても起こる落雷からどうやって、葉山を助けるかを考えながら、祭り会場に向かう。


 ・・・・・・・・・・


「あら、来たわね。ドグサレ野郎」


「会うなり失礼な奴だな。確かに呼び出し方は卑劣かもしれんが」


 祭りが開かれている公園の入口で待っていた、白のワンピース姿の葉山に声をかけられて、そう返す。


「当然じゃない。お父さんに知られたら、貴方も私も終わるわよ」


 そりゃ、習い事をサボって祭りなんかに来てるんだもんな。しかも男と。


 考えただけで怖くなる。


「祭りがまぁ、目的じゃないんだけどな。そうだ、あの本について聞きたいから、少し離れるぞ?」


「? よくわからないけど。まぁ、人込みは嫌いだからいいわよ」


 祭囃子は聞こえないが屋台が並ぶ道は人が列をなしている。


 そのわきに作られたランニングコースを歩き、公園の奥に進んでいく。


 池が見えてきた。


 橋を渡って向こうに行けるみたいだが、その中間にベンチがある島が見えたので、そこを目指す。


「みんな祭りに行って、人気ないな」


「もし、変なことをするようなら切り取るわよ」


「何をだよ」


 ツッコミをいれつつ、ベンチに座る。


 葉山は少し距離を開けて座った。


 さて、ここからが本題だな。


「あの本のヒロインって、葉山だよな?」


「ええ、私の生活をモデルに母が書いた日記のような物ね」


 俺の問いにさらりとそう返してくれる。


「父親がかなり厳しいんだな。お母さん心配してたな」


「そうよ、その主人公のおかげで色々変わったけどね」


 言葉はきついが、淡々とした物言いだ。


「少し気になったんだが、男の子が出てきたんだけど、あれは実在するのか?」


 物語の中で、葉山を連れだしては笑顔にする王子様。今はどこにいるのやら……


「ええ、もちろん。忘れたことなんてないわ」


「今はあってないのか?」


「会ってるわよ? 何? ヤキモチかしら?」


 俺の方に視線を向けて、くすくすと笑ってくる。


「べつに……葉山は綺麗だから、モテて当然だな」


「な、何を、言ってるのかしら!!」


 葉山は突然立ち上がって、顔を赤くして捲し立ててきた。


「どうしたんだ?」


「だいたいね、何で忘れているのかしら?」


「突然どうしたんだよ?」


「その本の男の子は、貴方よ、河野君」


 俺の前に立ち腕を組んで、そっぽを向きながらそう言ってきた。


「え? うん? どういう意味だ?」


 俺が男の子? うん、男だけど、そうじゃなくて……


「あのね、どこまでバカなの? ずっと話しかけてくるの待ってたのに! 入学式の日からずっと、ずぅ~っと、待ってたのに。凄く悲しいわ」


 クールな印象から徐々に子供ぽい口調になって、とうとう葉山は泣き始めた。


「マジか……俺の記憶の中にいる遊んだことがある女子は、こんな綺麗に育っていたのか……」


 確かにこの本を読んだときに、似た女の子を知っているなとは思ていたんだ。


 でもそれはお嬢様のようなクールな姿ではなく。


 泣き虫で、怖がりで、ショートヘアの可愛い女の子。


「何でわかんないのよ。私はすぐに分かったのに……」


 泣き止んで座った俺を見下ろして、むすっとした顔を向けてくる。


「ちょっと待て、印象が違いすぎるんだ。それと、入学式ってどういうことだ?」


「本当に信じられないわ! 久しぶりに会ったと思ったら、死んだ魚の目をしてるし」


 酷い言われようだが、言い返せない。


 そもそも昔の俺は名乗った覚えもなければ、名乗られた覚えもない。


 子供マジックだな。


「よく分からんが落ち着けって……雨?」


 突然顔に冷たい物が当たって顔を上げる。


「? あ、降ってきたわね……とりあえず屋根の場所に――」


 その時空がピカッと光、俺は本能的に葉山に跳びかかった。


 その俺の体を妙な重さが支配する。


 気が付くとけたたまし音と、焦げる臭い後ろからしていた。


「おい、雷が落ちたぞ!」


「ケガ人はいないか?」


 周りが騒然としてくる。


「こ、河野君……」


 下からしてくる声に意識を戻して、下を向くと葉山が不思議そうな顔で俺を見ていた。


「悪い」


 俺はすぐに立ち上がって、葉山の腕を掴んで立たせる。


「これっていったい……」


 先ほどまでいた場所が燃えていて、俺達は橋を渡ったところに立っていた。


 瞬間移動……山田の仕業か?


「奇跡だな……」


「河野君は、驚かないのね……」


 落ち着いている俺に、葉山がそう言ってきた。


「色々起こりすぎたせいかもな?」


 そうごまかしておく。


「それもそうね……連絡先教えてくれないかしら?」


 疲れているのか、これ以上の詮索を辞めてそう聞いてくる。


「え? 何で?」


「色々話したいのよ! 色々知られちゃったし……ダメ?」


 上目づかいで、不安そうに聞いてきた。


 確かにこのまま話し合うには、無理そうだな。


 ここは日を改めて、落ち着いてからのほうが良いか……


「分かった。俺は基本暇だから、好きに連絡してくれ」


 そう言いながら、スマホを取り出す。


「冬休みなのに、可哀そうね」


 何故か葉山は笑って、俺のスマホにスマホをかざした。


 連絡先リストに、家族以外の名前が初めて登録される。


「近くまで送ろうか?」


「いいわ、見られたら大変だし。それじゃあね」


 背を向けて、葉山は歩いて行ってしまう。


 その背中に昔の友達の面影を、思い出すのだった。








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