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第五話

 諸々買いそろえて帰宅した俺達は、早速荷解きを開始する。


 山田が気に入ったデザインのカラーボックスを組み立てて、少し大きめのテーブルに足をつけたりした。


「少し狭くなったが、まあ、こんなものか」


「色々、ありがとうございます。河野さん」


「いや、いいよ。じゃ、晩御飯にするか」


 一通り片付いたので、そう声をかける。


「はい、お皿の準備は任せてください」


「ああ、たのんだぞ」


 今日の夕飯は、ハンバーグを作った。


 ・・・・・・・・・・


 夕食を済まして、風呂上りにのんびりしていると――


「あの、河野さん。この後の作戦なのですが……」


 と、山田が声をかけてきた。


「作戦?」


「葉山さん攻略作戦です」


 寝転んだ俺のすぐ隣に正座で座って、そう言ってくる。


「攻略って……どうする気なんだ?」


「まずは、来週末に行われる古本市に参加してください」


「ほう、この時代に本か……」


 俺は起き上がってそう声を出す。


 昨今電子化の波で、紙の本なんて教科書しか作られていない。


 何でも重みを知ることで、勉強がはかどるとか聞いたような気がするな。


「はい、紙の本は貴重なので販売は中古市場しかありません。その市場に行って、コウノトリというタイトルの小説を手に入れてください」


「高いんじゃないのか? 本なんて読まないから知らないけど、貴重なものだしな」


「いえ、需要はあまりないので、そこまで高くないですよ」


 そういうものなのか……


「それを手に入れて、葉山に渡せばいいのか?」


「渡す前に読んでください! 共通の話題でもりあがるのです」


 なかなか、普通なやり方だな。


「分かった、探してみる」


「はい、頑張って攻略しましょう」


 俺の人生に彼女が必要とも思えないが、未来の俺が何を思っていたのか気になるし、ここは協力的にいこうと思った。


 ・・・・・・・・・・


 あっという間に、古本市の日になった。


 開催されている場所は家からさほど離れていない場所だったので、朝の早い時間に出て徒歩で会場に向かう。


 少し調べてみたのだが、この場所で売られる本は街の人の寄付や廃校などになった学校の図書室の物が集められていて、売り上げは寄付金になるそうだ。


 会場と言っても道に本が並んでいて、レジに自分で持っていくようになっている。


 山田は家で待っていると言ったので一人で来たのだが、なかなか目当ての物が見つからない。


 路上の道を使って横並びに置かれた棚を見ながら、端までたどり着いた。


「あれ、これか?」


 最後の棚に置かれていた本を手に取る。


 背表紙にコウノトリと書かれていて、著者は書かれていない。


 その本をそのままレジにい運ぶ。


 値段は千円。高いのか安いのか悩む値段だ。


 家に帰って読もうかと思ったが、道の端に公園が見えたのでそこで読んでから帰ることにする。


 遊具が滑り台と砂場だけで公園と言っていいのかは分からないが、人が他にいないのはいいな。


 そう思いながら、ベンチに腰掛けて本を開く。


 やはり作者の名前がない。


 普通なら書いていて良さそうなのだが……


 そう思いながら読みは始める。


 ・・・・・・・・・・


『五時になりました。皆さんお家に帰りましょう』


 突然公園に鳴り響いた声に驚いて、現実に意識が向く。


 かなり集中して読んでしまっていたようだ。


 内容は一人の少女が屋敷を飛び出して、男の子と成長していくお話だった。


 本を閉じて立ち上がる。


 固まった体をほぐすために伸びをして、家に向かう。


 この本はどうにも売られていたものではなく、一人の女の子のために書かれた話だった。


 最後のページを読んで、俺は驚きながらも内容から納得してしまう。


 この事を確認するためにも、俺は早く帰らないといけない。


 撤収準備をしている古本市を横目に帰路を急いでいると、見知った顔の女子がスタッフに何かを聞いていた。


 少し悩んだが、声をかけることにする。


「い、葉山?」


 委員長と呼びそうになってしまった。


「あら、河野君。今忙しいから、どこかに行ってくれないかしら?」


 冷たくそう言われてしまう。


「探してるんだろ? この本を」


 俺はかまわずに本を頭上に上げて、そう聞く。


「? どうして河野君がそれを?」


 スタッフに頭を上げた後、葉山は不思議そうに俺を見ながら聞いてきた。


「たまたま買ったんだよ。それで、最後まで読んだから……」


「貴方はストーカーなのかしら? まあ、いいわ。その本を譲ってくれないかしら? 間違って売られたものだから」


 どこまでも自分が上だというような、雰囲気だ。


「嫌だね。ただで譲るわけないだろ?」


 その態度の俺は仕返しをすることにした。


「お金は払うわよ?」


「金なんて要らないよ。そうだな、来週の町内の祭りに付き合ってくれたら、あげるよ」


 何かないかと思ったが、壁に貼られたポスターが目に留まったので、指をさして提案する。


「気持ち悪いわね……分かった。行ってあげるから、本をよこしなさい」


 心底蔑んだような冷たい目だ。


「そう言ってこない気だろ? 祭りの後に帰すよ」


「そう、少しは賢いようね? 仕方ないから、その条件を飲んであげる」


 よし、これで山田の計画も進むだろう。


「ああ、時間はまた教える。じゃな、葉山」


 俺はそう言って、また歩き出す。


 葉山は何も言わずに、俺を冷めた目で見続けていた。











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