表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/36

第四話

 寝苦しさで目を覚ました俺は、俺に抱きついて眠る山田を引きはがして、顔を洗っていた。


 とうの山田はいまだにいびきをかきながら、幸せそうに眼っている。


 顔を洗い終えて、歯を磨き。朝食の準備に取り掛かる。


 パンを焼くだけなので大変なことは何一つない。


 念のために二枚トースターにセットして、スマホで日付を確認する。


 当たり前のように日が進み、ニュースが更新されていた。


 プロ野球のホームランダービー、ドローンの進歩。連続誘拐犯、いまだ見つからず。


 特にめぼしいニュースはないな……


 スマホから顔を上げたタイミングで、チンっと軽快な音が部屋に響く。


「は! 美味しい匂いがします。どこですか?」


 山田がバっと体を起こし、辺りを首を動かしてきょろきょろと確認する。


「はぁ、とりあえず、顔を洗ってこい」


「? あ、そうですね。私の分置いといてくださいよ?」


 何であるのが前提なんだよ。


「食わない食わない」


 俺はそう言いながら、カップにお茶を注ぐ。


 パンとお茶、なかなかシュールな組み合わせだ。


 ・・・・・・・・・・


「じゃぁ、学校行ってくるから、留守番頼むな」


 朝食を終えた後、制服に着替えて玄関でそう山田に言う。


「はい、任せてください」


 不安しかないが、ここで休むわけにもいかない。


「そうだ、帰ったら買い物に行くぞ?」


「そうでした。楽しみにしてます」


 俺は手を振って見送ってくれる山田に背を向けて学校へと向かった。


「あら、不良君じゃない」


 もうすぐで学校につくというタイミングで、後ろから声をかけられる。


「……委員長、その呼び方はやめてくれ」


 振り向いて顔を確認して、後ろを歩いていた委員長にそう言う。


「あら、そう。ところでこんなところで何をしているのかしら?」


 心底不思議そうな顔で、そう聞かれた。


「何を言ってるんだ? 学校に決まっているだろ」


「サボったりしないのね? 本当に不良なのかしら?」


「あのな、俺は不良じゃない。普通の学生だ」


 学校の方に再び歩き出す。


「それは驚きの事実だわ。あなたが朝からきていることの方が少ないのに」


「……たまにはいいだろ」


 何も言い返せなかった。


 確かに朝のホームルームに顔を出すことは少ない。


 殆ど先生は来ないで担当の人がプリントを配ったり、読書にあてがわれるので、参加する意味がないのだ。


 今日はたまたま山田に起こされたので、朝から来たに過ぎない。


「まぁ、いいことね。じゃ、私は行くわ」


 そう言い残して、委員長は俺から離れていった。


 他の生徒に交じって、すぐに姿が見えなくなる。


 俺もいそいそと教室に向かうのだった。


 ・・・・・・・・・・


 退屈な授業をやり過ごし、あっという間に放課後となった。


 早く帰って、山田と買い物に行こうかとリュックを片手に立ち上がる。


 正門前に来たところで、俺は走り出した。


 足音に気が付いたのか、俯いていた山田がぱあっと笑顔になって、俺に手を振ってくる。


「とにかく離れるぞ」


 山田の手を取って、止まらずに進む。


 私服姿の女の子に、周りが興味深げな視線を向けていたからだ。


「え? ああ、自分で歩けますよ」


 ひきずるように、山田を運ぶ。


「何でいるんだよ! 家で待ってるように言ったよな!?」


 歩きながらそう聞く。


「迎えに行った方が、効率的と判断しました」


「いや、入れ違えになったらどうする気だよ?」


「大丈夫ですよ! 一時間前からはっていましたので」


 ひきずられながら得意げな顔をする。


「怖ぇーわ! 何、警備員に怒られなかったのか?」


「? あ、帽子かぶったおじさんが、饅頭とお茶をくれました」


 少し考えて、ニコニコと教えてくれた。


「警備員さんアウトだよ。後、知らない人から食べ物をもらうな」


 うちの学校の警備はどうなってるんだ?


「どうしてですか?」


「怖い目にあうかもしれないからだ」


 納得がいかないのか、不思議そうな様子だったのでそれだけ言って黙る。


 少し歩く速度を落として、近くの商店街に向かう。


「何だか良い匂いがします」


 山田が鼻をスンスンさせて、歩く速度を上げる。


 すぐそばに商店街の入口が見えているので、そこから匂いが漏れ出ているのだろう。


「前見て歩けよ」


「はい、ところでこれは何の店ですか?」


 少し歩いたところで立ち止まってそう聞いてきくる。


「精肉屋だ、どうしたんだ?」


「ここから、いい香りがしてます」


 そう言われて店をよく見ると、端のスペースでコロッケを揚げて販売していた。


「食べるか?」


「いいんですか?」


「夕飯前だから、一つだけな」


「はい、ありがとうございます」


 すごく嬉しそうだ。


 俺は店のおばちゃんに声をかけて、コロッケを一つ購入する。


「ほら、熱いから気をつけろよ」


「いい香り~。これは絶対美味しいやつです」


 幸せそうにそう言って、息を吹きかけてから一口かじり、目を細めてことさら幸せそうな顔になった。


「みーちゃった、みーちゃった」


 その声に振り向くと、委員長がニヤニヤとした顔で俺を見ている。


「委員長……」


「こんなところでナンパとは、やるわね」


「ナンパなんかしてない。こいつは親戚だ」


「そう、そういう設定なのね……」


 委員長はそう言って、ぼそりと「可哀そうに……」と付け加えてきた。


「違うから、てか、委員長こそこんなところで何してるんだよ?」


「どうして教えないといけないのかしら? 後、外で委員長、委員長言わないでくれる?」


 こいつは本当に……


「じゃぁ、何て呼べばいいんだよ?」


「そうね……葉山様とか?」


 ニヤニヤとそう言ってきた。


「じゃぁ、葉山様」


「プライドがないのかしら?」


 凄い冷たい顔だ。


「どうしろってんだよ」


「河野さん、こちらの方って……」


 コロッケを食べ終えた山田が俺の袖を引っ張って聞いてきた。


「葉山っていて、俺のクラスの委員長だ」


「ふむふむ、葉山さん。私は、山田です。河野さん遠い親戚です」


 山田は葉山の前に行って、自己紹介をして頭を下げる。


 山田の狙いを知っているので、どうなるか少し怖い。


「これはどうもご丁寧に。私は葉山京香、河野君のクラスメイトよ」


 何か態度違うくない?


「了解です。葉山さん、この後、時間ありますか?」


「ごめんなさい。習い事に行く際中だから」


「そうですか……また、会えますか?」


 葉山の顔を見上げて、山田はそう聞く。


 そのままグイグイと山田は、詰め寄る。


「え、ええ。たぶんね」


 葉山が少し戸惑う。


「山田、困っているから、やめてやれ」


 そう助け船を出す。


「あ、ごめんなさい。それでは、習い事頑張ってください」


「ええ、ありがと。河野君もまた明日」


 葉山はそう言って、離れていく。


「どうだ? 俺に気なんてなさそうだろ?」


 俺は山田に小声で聞いた。


「いえ、予想以上の好感度ですよ」


 どういう、判断基準なんだ?


「さて、買い物するか」


「はい、どこから行きますか?」


 当初の目的どうりに、山田の生活用品を買いそろえるためにお店をめぐっていく。


 お皿や茶碗なんかは、百円ショップで買い。その後下着や服、それを収納するためのカラーボックスを買った。


 店から店を移動する間に、数回は買い食いを挟んだ。



















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ