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エピローグ 幸せな生活を始めましょう

 遠くから、声が聞こえてきた。


 俺の手を誰がが強く握っている。


 その温もりがなんだかとても懐かしく感じた。


 身体が動かない。ぼやけた視界では誰かは分からない。


「目を覚ましたぞ!」


「巴瑞季プロジェクト、成功しましたね!」


 はしゃぐように、歓喜の声が上がった。


 ベットに寝てるらしく天井の照明が上で眩しく光っている。


 ここはどこなんだ?


 そう聞きたくても口を何かが覆って、うまく声が出せない。


 ただ一人、はしゃぐ周りと違って、俺の手を握る人は泣き声を殺して泣いていた――


 その人物の顔を見て、涙が頬を伝う。


 年上の女性で、綺麗な長い髪に人形のようなきれいな瞳。


 京香だ! でも、どうして年を取っているんだ?


 ピ、ピっと音を鳴らす京香の後ろにある機械を見て、ここが病室だと分かった。


 どうして俺は病院に?


「まさか、葉山教授の念願がかなう日に、立ち会えるなんて……」


 直ぐ近くから知らない女性の声が、聞こえてきた。


「本当にそうだよな! “二十年も一人を思い続けるなんて”すげーよ」


 今度は若そうな男性の声だ。


 二十年? 何の話だ?


「きょ、京香……」


 口についた物を外して、声を出す。


 ただ、かすれてうまく声が出ない。


 それに手を上げるのも、だるな。


「おはよう……虎太郎」


 やっぱり、京香だった。


 優しく笑ってくれる顔に、涙があふれてしまう。


 どうしてこんなに懐かしいんだ?


 昨日も……あれ? 思い出せない。


 ゆっくりとベットの背中が起き上がっていく。


 他の人はいそいそと、部屋から出ていった。


「ここはどこなんだ」


 座ることができた俺はまず、それを聞くことにする。


「病室よ……虎太郎は、高校一年の冬から、眠っていたの」


 眠っていた? 


「そんな……」


「私が告白しようと呼び出した祭りの日に、雷に打たれたの」


 それは京香がじゃないのか?


「私はそれから虎太郎が起きるのを待ちながら、仮想空間医療を発展させたの」


 驚く俺に、そう言葉を続けてくれる。


 でも、驚きよりもこんなに長く待たせた事が、申し訳なかった。


「ごめん……またせた」


「いいのよ。私が好きでやったことだから」


「それでも、ごめん」


「フフフ、本当に優しいね」


 ベットに腰掛けて、京香は手を握り直してくる。


 その手から、優しさが伝わってきた。


「なぁ、京香」


「何かしら?」


「これからはずっと一緒だよな?」


「そうなれると嬉しいわ」


 手を握り返して、見つめ合う。


 顔が次第に重なっていく――


 (完)




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