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第三十二話 私の大切な親友のために……

「ここは……」


 意識が戻ると何故か椅子に座ていた。


 辺りは暗く、足元すら見えない。


「目が覚めましたね?」


 突如、目の前が光、山田が姿を現した。


「山田? お間は死んだはずじゃ……」


 目の前で首が吹き飛んだところを思い出して、吐き気が込み上げてくる。


「ふふ、そうですね。でも、この世界は偽物ですから」


「どう言うことだ? それにここはどこなんだ」


 どこを見ても暗く、山田の周りだけが光る不思議な空間に俺は立つことすらできていない。


「ここは、世界の挟間? とでもいえばいいんですかね?」


 何故か山田すら、不思議そうだ。


「どういう状況か説明してくれるか?」


「あまり時間がないので、簡潔に説明します」


「ああ、頼む」


 俺は山田をの顔を見て、小さく頭を下げた。


 その様子ににこりと微笑んで、咳ばらいをして山田は話し出す。


「実を言うと、河野さんは寝たきりなんです。その寝たきりの状況を変えるために葉山京香は中止されていた巴瑞季プロジェクト……ようは、世界構築バーチャルリアリティー空間を医療用に作り替えた物をアレンジして河野さんに使ったんです」


 俺が寝たきり? どういう事なんだ? だが話をさえぎるわけにもいかないよな……


 俺は黙って話の続きを促した。


「原理を簡単に言いますと……河野さんが過ごした世界を再現して、事故だけを取り除き、脳に事故はなかったと思わせるんです」


「そんなことでいいのか?」


 つい、間抜けな声を出してしまう。


「そうなんですよ。それでいいと最初は思っていたのですが、どうやっても事故は防げず。やり直すうちに、世界の歯車が狂い始めたんです」


 それがこの状況か……


「河野さんは、無意識に可能性を広げるために、未来の自分を生み出し自我を与えたんです」


「山田もその一人なのか?」


「いいえ、違います。私はプログラムの自害防止システムにすぎません」


 なぜか山田は左上をみながら話したが、俺は黙って話の続きを聞くことにする。


「そこで更に問題が起こって、京香さんはリセットをかけようとして、河野さんを殺そうとしました」


 それは失敗に終わって、変な端末を京香は操ったんだよな……


「私はそうすれば、河野さんが永遠に眠ってしまうと予期して、阻止に成功しましたが……」


 そこで表情を暗くして、山田はうつむく。


「どうしたんだ?」


「分からないんです。この世界の終わらせ方が」


「そうなのか……」


「ごめんなさい。でも、からならず、この悪夢のような夢を終わらせてみせますから」


 苦笑いのような顔を浮かべてそう言ってきた。


「いや、後は俺に任せとけ」


 自分の胸を叩いて笑みを向ける。


 そして、手を伸ばして山田の頭を撫でてあげた。


「頼もしいです。この長い夢物語をどうか終わらせてください――」


 突如視界が光に包まれて、土の匂いと冬の寒さが肌に伝わってくる。


「ここでの会話は忘れてしまいますが、私は河野さんを信じてますから」


 山田の声を最後に、意識が途絶えた。




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