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第三十一話 貴男は私の王子様

「話の前に、その足は大丈夫なのか?」


 先ほどから片足で、見ていてゾッとする。


「ああ、すぐつけますね」


 山田は何ともなさそうに、斬られた足を拾って切断面にあてた。


 すぐに青く光って、文字が浮かぶ。


 足をぶらぶらさせているが、取れる様子がない。


 くっついたようだ。


「どうなってるんだよ」


 ため息をつきながら、山田の側にいく。


「いいですか? 河野さん。この世界は作り物なんです」


 唐突に、山田そう言ってきた。


「訳が分からん」


 当り前の感想を口にする。


 前に未来人を名乗るやつとは会ったが、そんなの信じられなかったが、今回ばかりはそうはいかなそうだ。


 それでもそう言わずにはいれなかった。


「今なら間に合います。戻ってください」


「間に合わないって、どういう意味だ?」


「何で分からないんですか?」


「説明してくれないからだよ」


 頬を膨らませて、なんか不機嫌そうだ。


「まあいいです。ここに座ってください」


 倒れていた椅子を起こして、座るように指示してきた。


「こうか?」


 とりあえず座る。


「では行きますよ?」


 山田は黒い小さな箱をポケットから取り出して、箱の上をなぞるように指を動かす。


「いいですか? 次目を覚ましたら目の前にいる人を離さないで、抱きしめてあげてくださいね?」


 そう山田は話を続ける。


「誰かいるのか?」


「意識が戻ればわかります」


 まだ質問を続けたかったが、何故か意識がぼーっとしてきた。


 徐々に体にも力が入らなくなってくる。


 このまま眠りに落ちて、目を覚ませばすべて夢でしたならどれだけ幸せなことだろうか……


 ・・・・・・・・・・


「気を失ていたのか……」


 突然意識が覚醒して驚く。


 砂塵が舞い、視界の端に山田の体が倒れている。


 どうやら意識がを失っていたらしい。


「ありえない……何で戻ってこれたの?」


 聞えてきた声の方に視線を向ける。


 京香が立っていた。


 その姿を見て、思い出してきた。


 ロボットの中から京香が出てきて、山田がやられたんだったな。


 それで、京香も消されて、俺も消えたんだった。


「どうなってるんだ?」


 そう声を漏らして、声を出したもう一人の京香の方に歩いて行く。


「どうして邪魔をするの?」


「どういう意味だよ……」


 俺自身、どうして意識が戻ったのかが分からない。


「こ、来ないで」


 銃を向けてきた。


 俺はその言葉を無視して、進んでいく。


「なぁ、説明してくれよ。京香?」


 俺の足元に銃弾が、飛んでくる。


「動かないでよ……」


「夢を見てた気がするんだ……でも、前にも、何回もあったような」


 何も思い出せない。でも、どこか山田と京香の声は聴いた気がする。


 どうせ当たらない銃弾を意に介さずに、京香の前にたどり着く。


「どうしてよ……なんで、なんでなの」


 硝子のような美しい瞳から、涙をこぼす京香を抱きしめる。


 冬の空の下にいたせいか、ひどく冷たい。


「どうして泣くんだよ。本当に“長い夢だな”」


 ふと、そんな言葉を言ってしまう。


その言葉にハッとしたように、京香は目を開いて膝から崩れるように倒れだす。


「そうよ、長い、長い夢だったんだから……どうしていつも……」


慌てて抱きとめると泣きながらそう声を漏らした。


「辛かったな」


「本当に、いい加減にしてよ」


「そうだよな」


 京香には苦労を掛けてしまった。


「全部、俺のためだったんだよな?」


「当たり前でしょ?」


 俺の胸に顔を埋めて、泣きながら胸を叩いてくる。


 俺は全部理解してしまっていた。


 全部山田が、教えてくれたんだ。


 でも、一つ分からない。


「この物語はどうやれば終わるんだ?」


「貴男が死ねばよ?」


「でも、それは山田が否定した」


 動かなくなった山田に、京香が視線を向ける。


「あの子は何なのよ?」


「それは知らない。でも、少なくとも俺達を守ってくれていた。いや、京香の心を守っていたんだ……そんな気がするんだ」


「やっぱりそうなのかしら……」


 俺より賢い京香の事だ。たぶん何となく、気が付いていたんだろう。


「少しいいか?」


 京香が俺の顔を、見上げてきた。


「何かしら?」


 京香の体は震えが止まっていて、良く知る雰囲気に戻っている。


 俺はその口に自分の口を重ねた。


 柔らかい感触とともに足元から世界が崩れていく。


 物語の終わり、本当のラストだ。








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