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第二十八話 もし家族になれたなら

 俺はいつもより早くに目を覚まして、着替えを済ませ京香の到着を待っていた。


 ファッション誌の教えのとおりにタキシードを着てみたのだが、なかなか様になっているのではないだろうか?


 洗面所の鏡に映る自分を見てそう思ってしまう。


「虎太郎? 何してるの?」


 突然京香の声が聞こえて、飛び跳ねるように声の方を向く。


 洗面所に入る入口から、怪訝な顔をした京香が俺を見ていた。


「おう、おはよう。服装をチェックしてたんだ」


 何とか平静を装って、そう返しておく。


 流石に自分の顔に見とれていたなんて言えない。


「そ、そうなんだ。あ、朝ごはん食べていくよね?」


「ああ、食べていこうかな」


「分かった。用意するから着替えといてね?」


「この格好似合っていないか?」


「えっとね、一緒には歩きたくないかな」


 すごくいい笑顔でそう言われてしまう。


 こうして俺の初めてのオシャレは、失敗に終わったのだった。


 ・・・・・・・・・・


 普段から着ているTシャツとジーンズに着替えた俺は、ふれあい水族館にやって来た。


 京香は白のワンピースにつばの広い白色の帽子を装着していて、お嬢様のようだ


「疲れた心には動物だよな」


「確かにそうかも」


 笑顔の京香を見て、ここにきて正解だったと感じた。


 まずは目玉のクラゲの水槽に向かう。


 そこは触れ合えるわけではないのだが、色とりどりに発色クラゲが美しいエリアのようだ。


「クラゲって、光るんだな」


「ふふ、知らなかったんだ」


「そうだよ、俺は京香と違って、何でもは知らないんだ」


「私だって、何でもは知らないよ? 知ってただけ」


 京香は何を聞いても知ってそうなんだよな……


「京香の知らないことを探したいな」


「二人でなら楽しいかもね」


 今日、告白が成功したらそうなる未来もあるかもしれないな。


「次のエリアも行ってみよう。絶対楽しめるぞ」


「うん、今日は誘ってくれてありがとう。楽しむぞ~」


 そこからドクターフィッシュの水槽に手を入れたり、リクガメを撫でたりした。


「後は、イルカショー行くか」


「うん、いいね」


 二人で通路を歩いて行く。


 その途中、外に面したガラスの向こうにうずくまった女の子が見えた。


「悪い、少し待っていてくれ」


「どうしたの? あ、私も行くね」


 声をかけて小走りになったのだが、今日かも小走りでついてきてくれる。


 ・・・・・・・・・・


「ぐす……うぇ」


 女の子の側につくと泣いているのが分かった。


 周りは上木が植えられていて、水族館側からしか気づきそうにない場所になっている。


「君、どうしたのかな?」


 どう声をかけるか迷っていると、京香がしゃがんでそう声をかけてくれた。


「う、ママがまいごなの……」


 女の子は目をこすりながら、教えてくれる。


 迷子か……近くにいればいいな。


「それは困ったママだね? お姉さんたちと探さない?」


「いいの?」


「もちろんだ」


 俺も側に寄って、女の子に手を差し出す。


「ありがと」


 手を握ってくれたので、掴んで立たせてあげる。


 こうして母親探しが始まった。


「迷子センタは遠いのかな?」


「少し待ってくれよ……割と遠いな」


 俺はここに来た時にもらった、地図を見ながらそう返す。


 水族館の横は遊園地エリアで、さらに隣にはショッピングモールも建つ地元で一番広い複合施設になっている。


「うぅ、かえれないの?」


 俺を泣きそうな顔で見上げてきた。


「大丈夫だぞ。このお姉さんは頭がいいから、絶対に見つけてくれるよ」


 そういいながら頭を撫でてあげる。


「もう、適当なこと言って、プレッシャーをかけないでよ」


「すまん、すまん。取り敢えず向かいながら探すか?」


「うん、それが正攻法だね」


 俺達は女の子を間に挟んで、手をつないで歩きだす。


「ねぇ、おにいさんたちは、デートなの?」


 辺りを見ながら歩いていると女の子は目を輝かせて、興味深げに聞いてきた。


「違うよ。息抜きに遊びに来ただけ」


 キッパリと京香はそう答える。


 俺はデートのつもりだったんだけどな……軽くショックだ。


「じゃぁさ、じゃぁさ、おにいさんのことすき?」


 ナイス! これで自然にそういう空気にできるのでは?


「ないない。手のかかる弟みたいなもんだよ」


「……」


「おにいさん」


「ん? どうした?」


 肩を落としてると女の子が腕を引っ張って、声をかけてくる。


「どんまい」


 凄く屈託のない笑顔で、励ましてくれた。


 ・・・・・・・・・・


 クレープ屋の屋台の前を通ろうとした時、女の子のお腹がきゅるると可愛く音を立てる。


「なぁ、クレープを食べないか?」


「でも、早く探さないと?」


 京香も音に気が付いていたようで、女の子と俺に視線をさまよわせた。


「わたしもたべたい」


 女の子は俺達の手をぶんぶんと振って声を上げる。


 これは決まりだな。


「じゃぁ、買うか」


「うん。ありすはね、いちごのやつがいい」


 そういえば名前を聞いてなかったな……


「今更だけど、アリスちゃんていうのかな?」


「うん、そうだよ」


「そうか、俺は虎太郎、こっちが京香だ」


 今更ながら自己紹介しておく。


「わかった。こたろうおにいさんときょうかおねえちゃんだね」


 何て素直な子なんだ。


 ついつい頭を撫でてしまう。


「ロリコン」


「京香? 今なんか言ったか?」


 凄く恐ろしい言葉が聞こえた気がしたので、京香に聞く。


「何も言ってないよ? クレープ買おうよ」


「そうだな……」


 深追いすると火傷しそうなので、聞かなかったことにしておこう。


 屋台の列に三人で並ぶ。


 アリスはイチゴのクレープ。京香は素焼きのクレープ美味いのか? を選び、俺はチョコのやつを買っておいた。


 近くに置かれていたベンチに座って、少し早いお昼を取る。


「おいし~」


「そうだね」


 何故かアリスを端に座らせてその横に京香が座たので、俺だけ浮いているような気分になってきた。


「う、うまいな」


 何となく声をかける。


「うん、おいしいよね。おにいさんのもひとくちちょうだい」


 アリスが俺の前に来て、そう言ってきた。


「ああ、いいぞ」


 クレープを差し出す。


「ありがとう。あむ……」


 アリスは目をつぶって口を大きく開いて、俺のクレープを齧った。


「どうかな?」


「おいしい、きょうかおねえちゃんもたべない?」


「え? 私は別に……一口食べようかな?」


 急に話を振られて驚いた後、京香は少し逡巡しゅんじゅんして、俺の顔を見てそう小さく言葉にする。


「遠慮はしなくていいぞ」


 元々アリスのために食べようと、提案しただけだしな。


「うん。…………はむ」


 少し頬を赤らめて、小さく一口分齧る。


 そこで俺は気が付いたのだが、これは間接キスに……


「もおひとくちちょうだい」


 京香の齧った部分をアリスが食べてしまった。


「ああ……」


 つい、声を漏らしてしまう。


「おにいさんは、おもしろいね」


 クスクスと笑って、俺の顔を見てくるアリスちゃんが小悪魔にしか見えなかった。


 ・・・・・・・・・・


「本当にありがとうございました」


 迷子センターに行くとすでにお母さんがいて、今から名前を呼ぼうとしているところだった。


「いえいえ。じゃぁね、アリスちゃん」


 京香はそう言って、アリスちゃんに手を振る。


「お母さん見つかってよかったな」


「うん。おねいちゃん、おにいさんありがとう」


 満面の笑みで手を振ってくれるアリスちゃんに別れを告げて、俺達はショッピングモールに向けて歩いて行く。


 京香があまり遅くなると大変だから、晩のおかずを買っていこうと提案してきたのだ。


 これでは告白はできそうにないな……


 俺はあきらめて、早く帰ることにしたのだった。


 ・・・・・・・・・・


「ねぇ、虎太郎」


 帰宅してリビングで、勉強をしていると京香が声をかけてきた。


「どうしたんだ?」


「うん……」


 無言で頭を突き出してくる。


 どうしたんだろ? ぶつけていたいとか?


 そう思いながら、優しくなでる。


「たんこぶはできてないぞ?」


「あ、うん。ありがと」


 顔を赤くして、すぐに頭を引っ込めた。


 流石に撫でたのは間違えだったか?


 何故か黙ってしまった京香を見ながら、勉強を頑張るのだった。














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