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第二十四話 いらない者は壊しましょう

「……」


 インターホンを鳴らして、返事を待つ。


「はい……」


 少しして、京香がインターホン越しに出てくれた。


「俺だ。体調どうだ?」


「あ、虎太郎……うん、大丈夫だよ」


「それは良かった。開けてくれないか? いろいろ買ってきたぞ」


「ごめん。今は出れないかな……」


 声に元気がない。


 まだ本調子じゃないのか。


「そうか、分かった。ドアの横に荷物置いとくから、良かったらもらってくれ」


 俺はそう言って、買ってきたものをドアに当たらないように横に置く。


 腐るようなものは買ってないし、この冬の寒さなら、大概のものは痛まないだろう。


 少し待っても京香の返事がなかった。


 俺は自宅に入ることにする。


 今の俺にできることはなにもなさそうだ。


 ・・・・・・・・・・


 朝、アラームが鳴る前に良い匂いで目を覚ました。


 部屋の中に魚が焼ける匂いと、米の炊ける甘い匂いが漂っている。


 もしかして京香か?


 そんなことを期待して、俺は立ち上がりリビングに向かう。


「あ、おはよう。起こしちゃったかな?」


 エプロン姿の京香が振り返って、申し訳なさそうな顔で聞いてきた。


「ああ、良い匂いにつられて起きちゃったよ。それより体は大丈夫なのか?」


 俺は笑いながら、そう聞く。


「うん! もう大丈夫心配かけてごめんね」


 お玉を持ったまま、グッと拳を握って元気なことを伝えてくれる。


「それは良かった。顔洗ったら手伝うな」


「うん、ありがと。でも、もう終わるから大丈夫だよ。顔洗ってきて」


「そうか……分かった」


 取り敢えず顔を洗ってから、またリビングの様子を見るか……


 ・・・・・・・・・・


 顔を洗ってすっかり目を覚ました俺がリビングに戻ると、テーブルの上には焼き鮭、味噌汁、ホウレン草のお浸し。が並べられていた。


 日本人の朝の定番。


「あ、座って。食べよ、食べよ」


「ああ、ありがとう」


 先に座っていた京香にお礼を言って、俺も向かいに座る。


「「いただきます」」


 二人で手を合わせて、味噌汁を飲む。


 具はワカメと豆腐で、寝起きで冷えた体にしみわたる優しい味だ。


「病み上がりでこんなに動いて大丈夫なのか?」


「もう、心配性だな~。ただの風だから大丈夫だよ。あ、差し入れありがとう」


「喜んでもらえたなら良かった」


 鮭をほぐして、ご飯と一緒に食べる。


 この組み合わせは最強だと思う。


「でも女子にマムシドリンクはないよ」


「そうなのか? 元気出るだろ?」


「それ、軽くセクハラだよ?」


 どこがセクハラなんだろうか?


「分かった。ごめん気をつける」


「素直でよろしい」


 満足げに京香は味噌汁を飲む。


 何時もの日常に戻れたことがないよりも俺を満たしてくれた。


 ・・・・・・・・・・


 放課後、京香の提案で近場の海に来ていた。


 少し肌寒いが、海の音は聴いていて気持ちがいい。


 砂浜を歩きながら、潮風を堪能する。


「どうしてここに?」


 病み上がりでこの寒さは心配だ。


「え? 理由はないよ? 無いと駄目だったかな?」


 少し前を歩く京香振り返って、心配そうに聞いてきた。


「嫌、大丈夫だけど……冷えないか心配でな」


 俺はそう言って、自分がしていたマフラーを京香に渡す。


 手袋と制服のカーデガンだけは、京香は寒いだろう。


「ありがとう。虎太郎は寒くないの?」


「大丈夫だ」


 強がっておこう。


「ふふ、優しいね」


 何だか気恥ずかしいな。


 俺は恥ずかしさを紛らわそうと、走り出す。


「うぉぉぉ」


 軽く声を上げる。これはこれで恥ずかしい。


「あ、待ってよ」


 京香が追いかけてくる。


 数メートル走ったところで俺はばててしまった。


「はぁはぁ、やべー、運動不足すぎる」


「ふふ、そうだね。私より体力ないとか」


 笑われてしまう。


「今に見てろよ、絶対俺が勝つ」


「何に勝つの?」


 京香はいっそ笑う。


「分らん。でも、少し体が温まったな」


「そうだね……あ、夕日が沈むよ」


 地平線の向こうに夕日が沈んでいく。


「綺麗だな」


「うん、素敵だね」


 二人で肩を寄せ合って眺める。


 燃えるような夕日が海へと完全に沈むまで、それを眺めて過ごした。


 ・・・・・・・・・・


 帰宅して、そのままリビングの床に座り込む。


「疲れたー」


「はは、走るからだよ」


 コンロでお湯を沸かしながら、京香が俺を見てくる。


「何でそんな元気なんだよ」


「え~、普通だよ。虎太郎が、体力なさすぎるんだよ」


 そう言われるとへこむな。


「少しは鍛えようかな」


「うん、頑張って」


 優しく微笑んでくれる。


「よし、今日の晩御飯は俺が作る」


「え? なにがよしなの?」


 インスタントコーヒーの粉を入れていた京香が、驚いた声を出して振り返り俺を見てきた。


「そこはツッコむなよ。なんか作りたい気分なんだ」


「そうなの? 分かった。任せるね」


 コーヒーのはいったマグカップを、俺に手渡してくれる。


「おう、任せとけ」


 俺は威勢よく立ち上がり、冷蔵庫の前に行く。


 残りはこんなものか……


 冷蔵庫の中を確認して、調味料を選ぶ。


「炒め物でいいか?」


 人参、もやし、豚肉を取り出して聞く。


「うん、いいよ。お米冷凍庫の奴をチンでいいかな?」


 炊飯器をのぞきながら、京香はそう提案してきた。


「ああ、いいぞ。じゃぁ、作るな……」


 最近、料理をしてなかったから少し不安だが頑張ろう。


 ・・・・・・・・・・


「うん、美味しいよ。虎太郎の料理初めてだったから不安だったけど、美味しい」


 炒めただけの物を一口食べて、そう感想を伝えてくれる。


「最近してなかったから、不安だったけど美味しいなら良かった」


 俺も一口食べる。


 醬油と砂糖の甘辛い味がご飯を進ませてくれた。


「料理って……いつも虎太郎、インスタントばっかじゃないの?」


「そんな事……」


 無いと言おうとして、頭痛に襲われる。


「どうしたの?」


 京香が箸を止めて、心配そうに見てきた。


「何でもない。うん、うまい」


 ごまかすように御飯をかき込む。


 どうして俺は料理をしていたなんて、思ったんだ?


 考えると頭痛に襲われそうな気がしたので、考えるのをやめる。


「ふふ、美味しいね」


 安心したように笑って、京香もまた食べ始めた。










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