第二十話
確かに今までよりデカい球体が赤い目のようなものをせわしなく動かして、グランドの真ん中に鎮座していた。
「あれが親玉か」
「動かないわね」
「たぶん、私達を探っているんだと思います」
校庭の花壇の陰に隠れながら、様子を窺う。
山田がパーカーのポケットから、金棒を取り出す。
四次元ポケットでもついてるんだろうか?
俺もポシェットか銃を取り出して、用心する。
まだ気づかれた様子わない。
「俺が牽制するから、山田は特攻を頼む」
「了解です」
「死なないでよ?」
「任せとけ」
俺は意を決して、飛び出す。
だがやはり、ロボは動かない。
グランドを駆けながら、銃を構えて撃つ。
それでもロボットは動かない。
どう考えても、妙だ。
山田に手で動かないように指示を出す。
慎重にさらに距離を詰めていく。
本当に突然だった。
いきなりロボットの集団に囲まれたのだ。
グランドの真ん中目前で、囲まれた。
俺はこのまま死ぬのか?
くそ、せめてもの抵抗だ。
目の前のロボットに銃を向け、放つ。
火花が散り、ロボットは爆発した。
だがやはり、他のロボットが伸ばした手にあらがうすべはない。
万事休す。
山田と京香の叫び声が、響いて聞えてくる。
「おい、手を伸ばせ」
突然上から聞こえた声に、無意識に手を伸ばす。
そんな俺を重力が、包み込んだ。
・・・・・・・・・・
「……助かったのか?」
視界が明るくなり、そう声を出す。
ロボットの姿はなく、以前来た病室にまた飛ばされたみたいだ。
「ギリギリだったな」
未来の俺の声がして振り返ると、腕から血を流して立っていた。
「どうしたんだ?」
「自分の心配より、人の……いや、自分か」
何か言いかけて、止めてしまう。
「助けてくれてありがとな」
「ヤバかったな。まぁ、俺の方もピンチだが」
「何があったんだ?」
「総攻撃の様に、襲われた。過去の方も同じようだな」
未来でも似た感じなのか……
「都合よく少し前の過去に飛ぶとかは、できないのか?」
「そんな都合よくできてない。こうなった以上は戦うしかないかな」
「でも、よく助けられたな?」
「たまたま過去に逃げようとしたら、ピンチなのが分かってな」
それは、運が良かったのか?
「どうピンチなんだ?」
「この病室の外は敵だらけだ。罠を仕掛けて、入れないようにしているから今は大丈夫だけどな」
八方ふさがり。どうする……
「京香たちは大丈夫なのか?」
「明日香がいれば、大丈夫だと思う」
「そういえば何で、自分で京香を助けに来なかったんだ?」
ずっと気になっていたことを聞く。
こういう状態だ、少しは雑談できるだろう。
「この状態で聞くんだな……」
未来の俺は飴をくわえて、器用に片手で怪我した腕に包帯を巻いている。
「今くらいしか聞けそうにないしな」
「俺らしいな……まぁ、京香のためだ」
「京香の?」
「寝たきりで、身寄りのいない京香は何時追い出されてもおかしくないんだ。あまり離れたくない」
「お父さんはどうしたんだ? それにいくら何でも、追い出す事なんて……」
そんなのあまりにも理不尽すぎる。
「未来で色々あったんだよ。詳しくは言えない」
「そこは秘密かよ……」
「全部解決して、この未来も何か変わればいいんだけどな」
「変えてみせるよ」
「策はあるのか?」
「マザーをぶっ飛ばすんだろ? 俺を目の前に戻せないか?」
作戦とは言えないが、俺に出来る事があるとすればこのくらいだ。
「座標をずらすぐらいならやれるだろうが、どのみち敵まみれだぞ?」
「それに賭ける以外に何があるんだ?」
「ハハハ、いいだろ。任せたぞ」
未来の俺は俺の肩を掴んで、笑みを向けてきた。
「やれるだけはするよ」
俺はそう返して、黒いトンネルに入って行く。
さぁ、ラストバトルだ!
・・・・・・・・・・
視界が開けて来ると、無数のロボットが迫っているのが分かった。
大丈夫、落ち着け……
まっすぐ行けば、親玉がいるはずだ。
俺は正面だけを見て、銃を撃ちながら進む。
服を破かれ、頬を斬られても止まらない。
「見つけたぞ! マザー!!!!」
正面に現れたマザーに、ほぼゼロ距離からレールガンを放つ。
煙が上がり、マザーが見えなくなる。
やったか……
煙が徐々に落ち着いてきた。
デカいシルエットが見える。
クソが! ダメ押しの様に構えて撃とうとするも、壊れたのかレールガンは動かない。
前に見た腕よりも太い腕が、上から降ってきた。
終わった……
「時間稼ぎ、ありがとうございます!」
来ると思った痛みは来ないで、山田の声が上から聞こえた。
目を開けて上を見ると、山田が腕を弾き返してくれている。
「山田! ありがとう!」
「にゃろめぇぇぇ!!」
雄たけびを上げて、山田が勢いのまま金棒でマザーを殴った。
地面が揺れ、マザーの動きが完全に止まる。
周りの球体も動きが止まったようで、追撃が来ない。
「やったのか?」
「終わりまし……」
着地した山田が笑みを浮かべて振り向いた瞬間、山田の首が吹き飛んだ。
「な……や、や、山田!」
俺は走って駆け寄る。
配線がむき出しになって、オイルが血のように流れていく。
山田、おい、死ぬなよ……何で最後の最後に……
二つに割れたマザーの中で何かが動いた気がして、警戒する。
「はぁ、手こずらせてくれたわね……」
出てきた人物に、俺は声が出せなくなった。