第十八話
唐突に人の喧騒が戻ってきた。
噴水の近くに座る俺を、不思議そうに見て通り過ぎていく。
あれだけ倒したロボットの死骸は、何故か消えていた。
「戻ったな……」
「そうね。それで、まだここで遊んでいくのかしら?」
「え? ご飯ですよね? ご飯」
山田が俺達の周りを、くるくると走りながら声を出す。
「いいか? 京香」
「いいわよ、もう遊べるほど体力ないしね」
そりゃそうだろ。
「じゃ、行くか」
これから遊ぶ人たちの群から逆流して、俺達は出口を目指し歩く。
目的のご飯屋は、決めてあった。
・・・・・・・・・・
「はい、はい。河野さん、ここから好きに頼んでいいんですか?」
メニューを見ながら、山田が質問してくる。
「ああ、時間内、残さないならな」
「食べ放題、初めて来たわ」
俺が二人を連れてきたのは、一時間三千円の食べ放題の焼肉屋。
山田の食欲を見た時から、一度連れてきたいと思っていたのだ。
山田が中心になってオーダーをして、俺はそれを一緒に食べていく。
タン、ロース、カルビをごはんと一緒に食べる。
驚いた顔で、向かいに座る京香は俺と山田を見ている。
「どうした? 食べないのか?」
俺達と違って、お肉しか食べていない京香の箸が止まったのでそう聞く。
「こんな状態だとやっぱり、食欲がわかないわ……」
「こんな状態だから、食べるんですよ!」
山田がどんぶり御飯をかき込みながら、そう声を出す。
「飲み込んでから、喋れよ。まぁ、その通りだな」
「こんな状態だからね……うん、食べるわ」
「その意気だぞ。米は食べないのか?」
「私、焼肉はご飯食べないの」
「そうなのか? 珍しいな」
「そうかしら? それにしてもまるで親子ね」
京香が俺達を見てそう笑ってくる。
「どういう意味だ?」
「だって、二人とも同じ食べ方なんだもの。面白いわ」
言われて山田に目を向けると、ご飯を食べる順番が同じだった。
「そう言えば、山田は俺が作ったって言ってたな」
「作った?」
「そう、こいつ、ロボットなんだって」
幸せそうに、肉を食べる山田を指さして笑う。
「見えないわね」
「だよな」
「二人とも、どうしたんですか?」
俺達の視線に気が付いた山田が、きょろきょろと俺達の顔を不思議そうに見てくる。
「何でもない。この先に向けて、栄養付けるぞ」
「はい、頑張りましょう」
俺達は談笑を交えながら、焼肉を楽しんだ。
まぁ、山田の食べる量が凄すぎて店長を呼ばれたが……それは別の話。
・・・・・・・・・・
『残り二日ね』
当初、山田の言った日まではそうなるな。
「そうだな……だけど、親玉はこの時代にいるみたいだぞ?」
家に帰宅してすぐに、スマホで京香と会話する。
山田はこれからは京香と一緒にいると言っていた。
今回の件を凄く謝っていたが、俺も京香も気にしていない。
今回は敵が一枚上手だというだけだ。
どうこれから動くか、それが大切になる。
『それを倒せば、終わるのかしら?』
「そう見たいだぞ? そこで聞きたいんだが、京香を脅した奴って?」
『私も分からないのよ。部屋に手紙と銃だけ置かれていて、本当にごめんなさい』
「いや、いいよ。そこらへんは山田に任せるか……」
『その山田さんなら、もうぐっすりだけど』
京香が笑いながらそう言う。
「それはお疲れ様だな」
『私も疲れたから、そろそろ寝るわね』
「ああ、お休み」
そう言って電話を切った。
これからどうなるのか? それは俺にも未来の俺にも分からない。
未来を変えることはダメなのかもしれないが、それでも俺は葉山を守って見せる。
・・・・・・・・・・
「さて、いよいよ明日だが、京香は良かったのか?」
「ええ、こんな事できなくなるかもしれないし……」
今日俺達は、ショッピングモールに来ていた。
習い事は休むと言って、俺と過ごしてくれるそうだ。
すごく嬉しい。だけど、やっぱり、京香の父が怖いな。
「あのさ……後で、京香のお父さんに電話していい?」
「あら? 何? 家に泊めるとかいう気なの?」
「違うよ、今日サボったことは、謝っておきたいなって」
俺の慌てた様子に京香はおかしそうに笑ってる。
今日もポニーテールなのだが、すごく可愛い。
白色のドレスの上に羽織ったチェック柄のコートも似合っている。
「何じろじろ見てるのかしら? そうしたいないいわよ?」
数歩先を歩く京香がジトっとした目をして、許可をくれた。
「ありがと」
「それにしても真面目ね。黙ってたらいいのに」
「そうしたら、京香が怒られるだろ? それは嫌だ」
「お優しいこと……でも、今は買い物を楽しむわよ?」
俺の手を取って、微笑んでくれる。
「そうだな、楽しもう」
服屋に入り、変ながらのシャツを見て笑う。
ゲームセンターで、ぬいぐるみを取って、プレゼントした。
普通の学生なら何度でもしているであろうことでも、俺にとっては初体験で、すごく楽しい。
でも、これはたぶん……いや、絶対に京香が側にいてくれるからだ。




