第十七話
「うぉ!?」
突然、世界が明るくなった。
「何をぼうっとしてるの? 河野君」
声の方に視線を集中させると拳銃を向ける葉山が、どこか心配したような顔で見てきている。
「いや、戻ってきたなって」
「何を言ってるのかしら?」
「いや、こっちの話だ。それより、拳銃を下げてくれないか?」
「嫌よ、貴男を止めなくちゃならないの」
少し手を震わせて、そう強気に言ってきた。
「お父さんが心配か?」
「……どうしてそれを?」
声が震えている。
「未来の俺と話したんだ。京香の父は俺が守るって言ってたぞ」
「そんな、ありえない。だって、貴男は、河野君はずっと私の前に立っていたのよ?」
動揺しているのか、拳銃を持った手を下ろした。
「不思議だよな……俺もよくわかんないけど、元気な葉山に会えてよかった」
「何を言って――」
隙をついて抱きしめる。
「ちょっと、離しなさい」
驚いて暴れるが、逃がさないように強く抱きしめた。
「好きな女が、脅されてんだ。助けないなんて、絶対にない。山田! ロボットを近づけさせるなよ!!」
「無茶を言いますね! ですが、ご命令とあらば……」
奥でロボットを食い止めていた山田がそう声を上げて、金棒を振り回す。
俺の様子に接近しようとしていたロボットを、薙ぎ払ってくれる。
「さっきから、何なの? 離してよ」
「嫌だ。脅されたままでいいのかよ! そんなの、葉山らしくない」
「嫌よ。でも、どうすればいいか分かんないのよ……」
とうとう抵抗を辞めて、膝から葉山は崩れ落ちた。
「大丈夫だ。俺が、絶対に助けるから」
背中をやさしくたたきながら、そう声をかける。
どんなに高圧的な態度でも、葉山は女の子なんだ。
震える細い体に、再認識する。
「本当に助かるの?」
「ああ、任せとけ」
「じゃ、お願いね」
葉山は顔を上げて、涙を流しながら笑みを浮かべた。
俺は山田に加勢するために、ロボットの群に向かって走り出す。
・・・・・・・・・・
「何とかなったな……」
「河野さん。無茶しすぎです」
かなり辛かったが、どうにか敵を全滅させた。
その場に座り込んで、寝転んでいる山田に声をかける。
殆ど山田がやったんだが……
「そうだ、山田。お前、明日香って名前なんだよな?」
「ふぇ? もしかして未来で教えられましたか?」
「そうだ。何で黙ってたんだ?」
「それは禁則事項です」
顔をそらさせてしまった。
という事は深い理由ではなさそうだな。
「そうか、なら、俺はこれからも山田って呼ぶぞ?」
「はい、ぜひそうしてください」
凄い笑顔だ。
その名前、気に入ってるのか?
「葉山の所に行かないと……」
「来なくていいわよ。私がいけばいいだけなんだし」
そう言いながら、葉山が来てくれた。
「全員無事だな」
安心から、体の力が抜ける。
「お父さんに電話していいかしら?」
「ああ、してくれ。助けてくれてるはずだ」
葉山が少し離れて、スマホを耳に当てた。
「河野さん、お腹がすきました」
山田が緊張感のないことを言い出す。
「そうか、助けてくれたお礼にいいとこに連れって行ってやるよ」
「本当ですか? 楽しみです」
寝転んでいた山田が起き上がって、満面の笑みを浮かべる。
「河野君、少しいいかしら?」
「どうした? 葉山」
呼ばれたので、側にいく。
「電話、変わってほしいって」
スマホを渡されたので受け取って、耳に当てる。
『よう、助けたぞ』
電話の相手は未来の俺だった。
「それはどうも……何の用ですか?」
『冷たいな。まぁ、俺らしい反応だが。どうしてもこれだけは言っておきたくってな――』
後ろから別の声がして、声が止まる。
『いいか? この時代にマザーがいる。そいつを倒せ』
少しの間の後そう声が続いて、電話が切れた。
「誰なの? 今のは」
耳を放すと、葉山がそう聞いてくる。
「未来の俺だよ」
「変態かと思ったわ」
スマホを俺から受け取りながら、そう冷たく言われた。
「そんなに変態か?」
「そりゃ、電話越しにはぁはぁされたら、そう思うでしょ」
「それは確かにそうだな」
良かった、何時もの葉山の態度に戻ってる。
「それで、これからどうするの?」
「晩御飯に行こうと思う。世界が動けばだが」
「そう、ねぇ。ついて行ってもいいかしら?」
背を向けて、変な質問をしてきた。
「デート中なんだから、来ないと悲しいぞ」
「あんな事されて怒らないんだ?」
もしかして、銃を向けたことを気にしてるのか?
「気にしてない。俺はどんなお前でも受け入れるよ」
「そう……じゃぁ、これからは葉山じゃなく京香って呼んで?」
「分かった。京香、改めて言うぞ……ずっと俺の側にいてくれ」
片膝をついて、手を伸ばす。
「キザなセリフとポーズね。こちらこそ、よろしくお願いするわ」
京香は振り向いて、俺の手を取ってくれる。
こうして俺達は恋人になれた。
無数のロボの残骸の後ろの噴水が、水を噴き上げる。
その水が虹を作り、俺達を祝福してくれてるようだった。




